後輩は抱き締めたい

結局、いつまでもそこに居るのも暑いだけなので帰ろうということになり、町に下りて解散した俺たちだったが。


「なんで君がここに居るの……。」

「つけてきちゃいました♡」

「つけてきちゃいましたって、君ねぇ……。」

「なんですかその顔は!?そういう反応すると思って最初に家に行くって言わなかったんですよ!っと、おっじゃまっしまーす!」


と、彼女は俺の安アパートにズカズカ入って行く。もうちょっと遠慮ってものを……。言っても無駄か……。


「ほら、先輩!お茶どこですか?準備するので教えてくださーい!」


家の奥から彼女の声が響く。


「ったく、左側の戸棚の下にあるから。」

「お!これいいやつですねー」


すっかり打ち解けて彼女も遠慮が無くなったなー。まぁ、それを許してる俺もだいぶ甘いのかもしれないけど……。



「どうです?美味しいですか?」

「そりゃー市販のやつだからね、安定した味で落ち着く。」

「もう!そういう事言ってるんじゃないですよ!ほら、色々あるじゃないですか。愛は最高のスパイスとか……。」


いや、お茶にスパイスとか求められてもな。まぁいいや、今聞きたいのはそこじゃない。


「なんでここに来たの?」

「理由なんてなんでもいいじゃないですか。先輩と一緒に居たかっただけですよ。」

「ああ、そう。で、本当は?」

「名前聞いてなかったなー、っていうのと今日先輩の家に泊まりますね?」


あー、そっかそっか!確かに!名前言ってなかったわ!多分後半は聞き間違いだろう。

……、一応聞いておくか。


「えっと、お泊まり?」

「はい、お泊まりです。」

「stay home?」

「Yes、stay home」


オーマイガー。


「そういうのはちょっと良くないんじゃない?

倫理的に考えて。」

「ええー?私、家出してきたって言ったじゃないですかー?先輩が泊めてくれないとツイッ○ターで募集かけて知らないおじさんの家に泊まることになりますよ?いいんですか?」


くっ、卑怯な!普段なら絶対好きにしてとか言ってるけど、さっきの約束があるからそれも出来ないしな……。


「はぁ、しょうがないか……。寝床は俺の布団貸すから嫌かもしれないけどそれ使ってね」

「べ、別に嫌なんかじゃないですよ!!むしろご褒美です!もうありがとうございます!いただきます!」

「そ、そう」


今どきの女子高生って男の寝た布団に抵抗がないのか?あといただきます!ってなんだよ……。

と、くだらないことを考えていたところで


「あ、先輩、名前!!」

「うお!びっくりした、そういえば忘れてたね」

「本当にもー、おっちょこちょいなんですから♡」

「君も忘れてなかった?」

「忘れてませんよ!そんなことより早く!名前を!教えてください!」


あ、こいつ誤魔化してやがるな。まぁいいか、これ以上なんか言うと更に怒って面倒そうだ


「先輩、なんか失礼なこと考えてません?」

「気のせい気のせい。さて、自己紹介だったな、俺の名前は根付陽太(ねつきようた)。もうネクタイの色で分かってはいると思うけど、そこの神無月高校の2年生だ。」

「よく出来ました!抱き締めてあげます!!」

「やめて!それ、君が抱き着きたいだけでしょ!?」

「うぎゅ!!」


俺は彼女が飛び付いて来るのをアイアンクローで押さえつける。

何かで見たことあるなーと思ったらこの前金曜ロードショーでやってたルパンダイブだった。幸いなことに着ていたものは脱げてないけどね。


「先輩〜!もっと甘えて下さいよ〜」

「嫌だ!っていうかこっちはもう自己紹介したんだ、君は?」

「ああ、私ですか、私は学校では結構有名なんですけど知らないですか?」

「うん、知らない。」

「す、素直ですね……。まぁいいでしょう、私は水面陽姫(みなもひめ)見ての通りピチピチ美少女JKです♡」

「自分で言うの?」


そんなにか?と思って彼女の容姿を見てみる。

黒く、艶やかな髪。

鼻筋が通っていて顔のパーツもしっかり整っている。

太すぎず痩せすぎずのその身体は締まるところは締まっていて、出るところは出ている。おまけにスラリと長いモデル顔負けの足。

今まで性格のインパクトが強すぎてよく見てなかったが、紛うことなき美少女だった。


「陽姫、よく見たらめちゃくちゃ可愛いね。」

「───っ!よく見たらってなんですか!?ってか今可愛いって言いました!?先輩、そういう事絶対言わないタイプだと思ってました!」

「え?そう?俺も普通に可愛いものには可愛いって言うよ?」

「んもう!褒めたって何も出ないですよ!?」


と、陽姫は顔を真っ赤にしてテンションMAXのご様子。


「先輩!今日はお礼に夕ご飯、私が作りますね?フンフフンフフーン♪︎」


何やら陽姫はすごく気分が良いようだ。

あ、そういえば冷蔵庫の中身あったっけ?

俺は立ち上がって確認し、やっぱりないことに気付く。


「陽姫、ご機嫌なところ悪いけど、食料ないから買いに行こっか」

「え?一緒にですか!?一緒になんですね!?」

「う、うん、一緒に行くから1回落ち着こ?」


彼女が前のめりで迫ってくるのを何とか押しとどめる。


「そうと決まれば早く行きましょう!!

あ、先輩!手繋ぎますか……?」

「繋がない!繋がないからね?そんなに期待した目で見ても無駄だからね?」

「ちぇー、先輩のイケズー」


だが、夕飯まで作ってもらうのだから多少のご褒美は上げてもいいかな?と思う俺はやっぱり甘いのだろうか?でもしょうがないよね?結構見てて面白いし。


「帰ってきたらたくさん抱き締めてあげるから、外では大人しくしててね?」

「ええー!?先輩が、デレた……!まさか、ツンデレ属性だったんですか?そうなんですか!?ねぇ!ねぇ!」

「うわ!こら!抱きつくな!スリスリするな!」

「んー!先輩ぃ〜!!!」


前言撤回、陽姫を甘やかすのは当分やめようと決意した俺だった……。

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