自殺しようとしたら先に飛び降りようとしていた後輩を助けてしまって、後輩の為に生きる約束をしました。〜あれ?俺も死のうとしてなかったっけ?

秋之葉Momiji

出会い。

「はぁーあ、疲れた。」


まだ同級生は学校で授業を受けている時間、俺はとある場所に一人で向かっていた。


「ったく、なんでこんな山ん中にあるんだよ……。はぁ、でも山の中じゃなきゃ選んでないか。」


にしても暑い。のどが乾く。

俺は自動販売機でジュースを買う。いつもなら値段を気にして1番安いのを選ぶところだが、もう関係ない。

なぜなら……。


「ふぅ、ようやくついた。ここが俺の最期の場所か。」


そう俺は今から自分の意思で自分の命を投げるのだ。

山の中に設置された高い吊り橋から。








自殺しようとしたら先に飛び降りようとしてた後輩を助けてしまって、後輩の為に生きる約束をしました。

〜あれ?俺も死のうとしてなかったっけ?〜








できることなら今すぐ飛びたいのだが……。

どうやらまだ俺は死ねないらしい。


橋の真ん中の柵の外側で少女が下を見ている。しかも制服、あ、うちの高校だ、ネクタイの色が緑だから一個下の1年生か……。こんなところに居るのだからただ事ではないだろうな。もしかして先客かな?


俺が近ずいて行くとそれに気づいた少女は怒鳴る。


「来ないでください!止めようとしたって無駄ですよ!?絶対飛び降りますからね!?」


やっぱ、先客だったか。


「安心して、別に止めやしないよ。多分俺も君と同じ目的で来てる。」

「……、本当ですか?」

「本当だよ?行かないなら先逝くね?よっと。」


俺が柵を飛び越えると慌てた様子で少女は止めに入る。


「ちょちょちょ!待って下さい!こっから飛び降りたら痛いじゃ済まないんですよ?死ぬんですよ!?」

「知ってるよ?だからここに来たんじゃん。君は何しに来たのさ?」

「────っ!そりゃ、死ににですけど。

なかなか心の準備って出来なくないですか?」

「そんなもの準備したところであの世に行けば変わらないよ。そろそろ逝くよ。」


もうこの世に対する未練は全て断ち切ってきた。思い残すことも特にないしな。


「ストップ!先輩ストップ!」

「なに?まだ何かあるの?」

「私が、先に飛び降りようとしてたんです!

順番守って貰わないと困ります!」


順番ってなんの順番だよ……。これはアトラクションかなにかなのか?


「分かったから、早くしてね?」

「分かってますよーだ……。」



5分後……。


彼女は下を見つめたまま動かない。


「あの、まだ?」

「んなー!!!今、飛ぼうとしてたのに!

し・て・た・のに!!今、先輩に声かけられて止まっちゃったじゃないですかー!!」

「分かった。次は邪魔しないから心置き無く飛んでよ!」


宿題やりたくない小学生か……。



15分後……。


スマホゲームを始めた俺をチラチラ見てくる。



1時間後……。


「……、まだ?」

「……。」


話し掛けたたら彼女は何か悩んでるように下を向きモジモジしだす。


「なぁ、1回こっちに来て、なにがあったのか話さない?」

「なんで先輩に話さなきゃ行けないんですか……。」

「いいじゃん、どうせ死ぬんだし。言ってスッキリしてから逝こう?ね?」


彼女はしばらく考える振りをしてから、


「……、それもそうですね。」


やっぱり聞いて欲しかっただけじゃないか。


彼女は淡々と話し始めた。


「実は私、一個上に彼氏がいたんです。3ヶ月も続いてたんですよ。」

「ほーん。」


一個上ってことは俺の同級生か。


「誰、とは聞かないんですか?」

「聞かないよ。興味ないし。」

「先輩、本当に人の話聞く気あります?」

「あるある。で、その彼氏がどうしたの?」

「あくまでも名前は興味ないんですね……。」


今更人の名前とか聞いたところで意味がないだろう……。


「で、その彼氏が一方的に私を振ったんです。理由なんだったと思います?」

「自殺するくらいだから、好きな人ができたー、とかお前キープだったんだよー、とか?」

「はふぅ、残念です、先輩には心底失望しました。」

「君、今日が会うの初めてだよね?口悪すぎじゃない?」

「え?そうですか?もう人生諦めてるから口調が砕けてしまってるんですかね?」

「そうかもな……。」


話がまた逸れた。


「で?なんで振られたんだ?」

「はい、付き合って3ヶ月記念の日に「家に誰もいないから行こう」って言われたんですよ。」


彼女は無表情を作って続ける。


「それって明らかに体目的じゃないですか。だからまだ嫌って言ったんですよ。まさかそれだけで振られるとは思いませんでした……。お前は身体だけが取り柄なのにって。ヤラしてくれないなら意味はないって。」

「それで死のうとしたの?」

「い、いえ、まだあるんですけど……。」


まだ続くの?


「その後、直ぐこの前の期末テストがあったじゃないですか。」

「うん、あったね……。」

「それで、振られたのがテスト前だったので全然集中できなくて結果もボロボロだったんですよ。それが昨日両親にバレちゃって……。

それで成績に厳しい両親にお前を育てている意味を考えろって、挙句の果てに勉強も出来ないようなお前に意味はないって言われて。」


彼女は続けるが、作り続けていた無表情も決壊寸前だった。


「それで、私、自分の生きてる意味が分からなくなって。生きる意味ってなんなんだろう、て考えてたら自分のことが分からなくなって。生きる価値もないのかなって、そんな考えが浮かんでそれで死のうと思っても死にきれなくて……。今日ここに、来ました。」

「そうだったのか……。」


こういう時は変に慰めなくていい。変に元気づけなくていい。

ただ共感してあげるだけでいいんだ。


「でも……、ひぐっ…、わだじ……、じにだぐないよー!!!!!!ふぇー!!!!!!!

まだ死にたくない。まだ生きていだいんでずぅー!!!私に価値価値ってそんなに生きるのに価値が必要なんですか!!!!!」


彼女はもう無表情を貫くことは出来なかったらしい。心の中から溢れた何かが目と鼻から流れ出てゆく。


この際、誰にも貸したこのと無い胸を貸してやるか……。


嫌われてもどうせ死ぬんだし……。

俺はそっと抱きしめる。なんだか恥ずい。


「ふぇー!!!!!!!!ふぇー!!!!!」


俺の中でも彼女は泣き続ける。

これぐらい泣けばスッキリするだろう。

それにしても生きてる意味、か……。


「なぁ、泣きながらでもいいから聞いて貰える?生きる意味ってそんなに大切?もし、それが大切だったとしても、意外とその辺に落ちてそうなもんだけど。でも大切なのは生きる意味を持つことじゃなくて、それを如何に大切にすることじゃないのかな?」

「うぐっ……。ひぐっ……。生きでる意味が落ちでる?」

「ああ、探せばたくさんありそうなもんだろ?例えば、美味しいパン屋さんがあって毎日そのパン屋さんに通って店長とお喋りして、パンを買って食べる。これを楽しみにするならこれも生きる意味の一つだ。」

「えっと……、つまり?」

「他人に生きる意味がないって言われたって、自分に生きる理由があればそれは生きる意味があるって事だ。つまり、君はやりたいことがあるならまだ死ななくていいはずだ。自分が生きたいように生きて行けばいい。」

「────っ!」


彼女は目を見開くとまた俺の胸で泣き出した。

「ど、どうしたの?だいぶ落ち着いたと思ったんだけど。」

「他人に……、ひぐっ……、そんな、こと言われたの……、初めてだから……ひぐっ、嬉しい、くて。」


そうか、そんなことか。俺も死ぬ前に何か一ついいことができたかもしれない。



10分後……。


「大変お見苦しいところをお見せしました。」

「ぶふっ!」

「な、なに笑ってんですか!」

「いや、その顔で言われてもなーって、現在進行形でお見苦しい顔だよ?」


俺の前には鼻水がたれたままで鼻っ柱と目元を真っ赤にした彼女が立っていた。


「うるっさいですよ!でも…ありがとうございました……。」

「ん?なにが?」

「そ、それを私の口から言わすんですか……、」

「ごめん、愚痴を聞いた事?」

「ちが、まぁ、それもありますが、抱きしめてくれた事ですよ!」

「ああ、あれ?嫌じゃかなかった?」

「はい、彼氏にも抱き締められたことなかったので、少しびっくりしましたけど。暖かくて、優しくて、と!とにかく!良かったんです!」

「はいはい、良かったね。」


良かった、どうやら嫌われはしなかったようだ。


「むぅー、抱き締めてくれた時の先輩じゃない……。」


なにやら冷たくあしらわれたのが気に食わないらしい。


「さて、じゃあ今度は先輩の番ですね!」

「は?なにが?」

「あれだけ私に言わせといて、自分はそのまま死ぬつもりですか。私みたいに泣き叫んで下さいよ。抱き締めてあげますから。」

「真顔で何言ってるんだ君は、だいたい死ぬ前にそんな汚点をこの世に残して行けるか。俺は女子高生のしかも、後輩の胸で泣く趣味とかはないの。」

「いいじゃないですかー。言って下さいよ。私が先輩の自殺止めて見せますから。」

「さっきまで止めるなって言ってたやつのセリフじゃないよね?」

「いいから!茶化さない出ください!」


はぁ、あんまり人に言うようなことじゃないんだけどな。まぁ、それでこの子が納得してくれるならしょうがないか……。


「はぁ、学校の近くに前まで孤児院があっただろ?」

「はい、ありましたね。」

「俺、あそこの出なんだ。」

「へぇー、そうなんですね。それで?」

「それで?って君、びっくりしないの?」

「しませんよ。それくらいたくさんいるでしょう。世の中広いんですし。」

「君、変わってるね……。」


昔はそれだけの理由でイジメられたりもしたんだけどなー。


「良く言われます。」


彼女はクスリと笑う。


「で、俺の将来の夢はそこで俺を育ててくれた先生と一緒に働くことだったんだ。恩返しも兼ねてな。」

「だけど2ヶ月前位からあそこ空いてませんよね?」

「ああ、突然だった。末期のガンだったらしいんだけど連絡が来て病院に行った時には既に……。その後、孤児院も閉院した。まぁ、孤児達は他の場所に引き取られたって聞いてるけどね……。」

「そう……、だったんですね……。」

「それで、誰の為に、どのようにして生きるかってのを失くしたんだ。先生と孤児院も無くなったからね……。さっき「生きる意味くらいその辺に落ちてる」とか言った手前、これに変わるものはなかったらしいね。ずっと小さい頃から大事にしてきてたものだったからな。」


俺が自虐的に話終えると、おずおずと聞いてくる後輩。


「……先輩は、やっぱり飛び降りるんですか?」

「まぁ、その為に来たからね。」

「それは、生きる意味が無くなったからですか?」

「まぁ、そういうことになるかな?」

「私は死ぬのが怖かったんですけど、怖くないんですか?」


彼女が何か言いたそうに、だけどなかなか言えないのかおかしな顔になってる。


「死ぬのはあんまり怖くないかな……。それより、言いたいことあるんじゃない?ハッキリいいなよ。」


彼女は観念したかのように口を開く。

まぁ、無難に死ぬのはやめてくださいとかかな。


「先輩、私に1発殴られてみないですか?」


うん、予想の斜め上すぎて見えない。


「どうしたの?変な趣味にでも目覚めた?」

「いいから!殴られて、ください!」


言うや否や、思いっきり殴りかかってきた。

バシーン!俺の頬にちっちゃい拳が入る。


「っててて。いきなり何すんのさ。痛いじゃない。」

「今、先輩は死にました。」

「へ?」

「だから、今、先輩は死んだって言ったんです!」

「うん、聞こえた。聞こえたよ?ハッキリ聞こえたけど、ごめん、意味わかんないや。」

「だから、1回死んだんですから、今の先輩は死んでるも同然です!」

「1回落ち着こう?何言ってるのか分からないよ?」

「もう!なんで分からないんですか!」


逆ギレされた。理不尽だ。圧倒的理不尽だ。


「つまり、先輩は今。生きてる意味のない、屍ってことです。」

「は、はぁ、」

「つまり、生きてる意味があれば、先輩は死ななくても良いんです!」

「つまり?」

「私が、先輩の生きる意味になります!」


顔を赤らめた後輩は声高々に宣言した。


「私が、先輩の生きる意味になります。先輩は黙って私を見てて下さい!甘やかしてください!頑張った時は思いっきり褒めて、抱き締めて頭を撫でて下さい!そして、私の料理を食べて美味しいねって言うだけでいいんです!私、先輩が生きてて良かった。今日、死ななくて良かったって思えるように!精一杯頑張ります!だから!どうか私を生きる意味にしてください!どうか、私の生きる意味になってください!」


この子は言った。私の為に生きろと。

俺の為に生きると。

こんなこと言われたのは初めてだな。

少しだけ、死ぬのを後回しにしてもいいかなと、この子の為に生きて見るのも悪くないなと思った。


そっか、まだ俺は生きていてもいいのかもしれない……。


「ふふっ、ふはははは!!!!!」

「な、何笑ってるんですか!」

「いいや、なんでもない。ただ、君の為に生きてみるのも悪くないかなって……。」

「じゃ、じゃあ!」


そんなに驚いた顔をしなくてもいいじゃないか……。本当に見てて飽きないな。

うん、訂正だ、俺はこの子の為に生きて見るのも悪くないんじゃない。

俺はこの子の為に生きたいんだ。


「ぜんばぁ〜い!!!!!」


後輩がまた抱きついてきた。


「大丈夫だって。もう飛ばないから……。」

「もう、絶対!ぜぇーったい!死ぬとか言わないでください!」

「それを君が言う?」

「うるさいです!」

「まぁ、何はともあれこれからよろしくな!」

「はい、不束者ですがよろしくお願いします!」

「それはちょっと違うくない?」

「良いんです!あってるんですよ!」


こうして俺たちは自殺スポットの吊り橋で出会い、お互いがお互いの為に生きる約束をしたのだった。

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