二年目 三月中旬 調査委員会
「馬鹿馬鹿しいと片付けていいんですかね?」
矢野は、防衛省で見付かった資料に関して、調査委員会のメンバーに一応の説明をやった。
もちろん、外れも外れ大外れの話だったとは思っていたが、他のメンバーと情報共有だけはやる必要が有ったからだ。
しかし、何故か、そんな事を言い出したのは……六〇過ぎの憲法学者だった。
もし、「特異型男性」が生物学的には「人間」と見做せなかった場合でも、法的に人間として扱う事は可能か?……そんな問題に対処する為にメンバーに加えられた人物だった。
「ですが……人間に擬態出来る上に、記憶まで複製出来る正体不明の生物など……」
「だが……これまで起きた現象に一応の説明は付く」
「個人的には、考え得る説明の中で、一番、馬鹿馬鹿しい代物だとは思いますが……」
矢野が見せられた資料に書かれていたのは……モンゴルか滿洲で発見された謎の生物……資料の中では「ミ五」という何の意味もない単に研究テーマか研究チームにたまたま割り振られた番号で呼ばれているが……が人間に擬態する能力を持っており、ある条件を満たせば、特定の人物の姿のみならず、記憶や性格さえもコピー出来る、という馬鹿げた話だった。
しかも、研究チームは、複数見付かった「ミ五」の「株」を「品種改良」し、
たしかに、それなら説明は付く。
だが、それは「この世界は神が数秒前に作ったもので、我々の記憶その他のこの世界が遥か過去から存在し続けているように見える証拠は、神が、そんな初期状態で世界を作り出したからに過ぎない」という理論で大概の事を説明出来るのと同じだ。
大概の事は説明出来るが、同時に何の説明になっていない理論も存在する。
『特異型男性は、DNAレベルで人間に擬態出来る生物およびその男系子孫だ。特異型男性にいわゆる「体育会系」の組織向きの性格の者が多いのは、DNAレベルで人間に擬態出来る生物の中でも、そのような傾向を持つ『株』を人為的に選別して人間を複製した結果だ』
この理屈は、特異型男性に関する大概の事を説明出来るが、同時に、何も説明していないに等しい。
特異型男性の既に判っている特徴の多くを説明出来るが、まだ判っていない特徴を予想する事には役に立たない。
それに……。
「問題の資料には、『ミ五』と呼ばれる生物の『株』の選別を行なった際の記録も有りましたが……物理的に無理です」
「何がでしょうか?」
「その記録が本当なら……その作業量は、その報告書を作成した特務機関に所属していた人員では不可能なものでした」
「あまりに馬鹿馬鹿しい仮説だが……その点を解決する方法は有りますよ」
「えっ?」
「だって……
「あ……でも……そんな……」
「とは言え……特異型男性の起源は、今の時点で云々すべきではないとは思います。貴方達、生物学者の皆さんが、彼らを生物学的な人間と判断しようがすまいが……我々は、彼らを法的に人間として扱う事を最終目的として、その為の課題の有無を検討する為に、ここに呼ばれた。違いますか?」
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