二年目 三月中旬 会社員・加藤田宏志
恋人の貴子は警察に通報しなかったらしい……つまり、やましい事をやっているのは貴子の方だ。
あの日の朝の出来事以降、宏志は、そう考えていた。
しかし、土曜の朝に、その希望的観測は、あっさり潰えた。
「加藤田宏志さんですね」
「は……はぁ……」
休みの日の朝の9時、自宅のチャイムを鳴らしたのは4人の……全員そろって妙にガタイが良い男達だった。
そして、そいつらが懐から取り出したのは……警察手帳。
2人は加藤田が住んでいるアパートが有る市の、残り2人は貴子が住んでいる賃貸マンションが有る市の警察署の所属だった。
ドラマなんかに出てる警察手帳とは、ビミョ〜に違うな……。
茫然自失から回復して、最初に宏志の頭に浮かんだのは、そんな感想だった。
「『ストーカー行為等の規制等に関する法律』に基き荻野貴子さんへの接近を禁止するように警告します。この警告に従わなかった場合には逮捕される可能性が有りますので、御注意下さい」
「えっ? いや……あいつは、俺の恋人」
「その点が問題でして……『ストーカー行為等の規制等に関する法律』こと通称『ストーカー規制法』は、主に自分を相手の恋人だと考えている人が対象でして」
「ま……待って下さい……何の……」
「荻野さんにフラれた怨みで付き纏っていたのなら、別の法律が適応される可能性が高いですが……まだ、貴方は荻野さんに恋愛感情を抱いているようですので、ストーカー規制法の対象となります」
「い……いや……でも……俺は……あいつの恋人」
「貴方は荻野さんを恋人だと思っていますが、先方はそう思っていない。このような状態では、通常、貴方達が恋愛関係にあるとは見做せません。貴方がやっているのは一方的な付き纏いです」
「そ……そんな馬鹿な……」
「では、こちらの紙に書かれている行為を荻野さんに対して行なった場合、逮捕される可能性が有りますので、良く読んでおいて下さい。疑問等が有れば、私が担当になりますので、こちらまで御連絡下さい」
そう言って、刑事の1人は、名刺とA4の紙を宏志に渡した。
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