一年目 十二月中旬 会社員・加藤田宏志

「あれ? 岸村さんもですか?」

「おい、君もか……」

 加藤田が勤める事業所で最も大きい会議室に集められたのは……全員が男性だった。

 あの奇妙な報道の直後……まるで、あらかじめ準備されていたように、ほぼ全国民に対し、ある検査が実施されていた。

 もちろん、まだ受けていない者も多数居るが、加藤田の勤務先のような大企業やその系列会社では、会社ぐるみで検査が行なわれる事になった。

 学生などは、学校で検査を受けさせられているらしい。

 自営業者や勤め先が中小企業の者は地方自治体が、市民会館や公立の体育館などを一時的な検査会場にしていた。

「いや、同じ敷地内で働いてる割に、久し振りだな……」

 2年前に加藤田が部署異動する前の上司だった岸村はそう言った。

「ええ……」

「そろそろ、ウチに戻って来てもらえないか? 一時的に貸すつもりだったのに、もう2年だ。以前、君が担当したお客さんで新しい案件が……」

「すいません、手短に終らせますので、静粛にお願いします」

 集められた皆が雑談をしている中、そう切り出したのは、白衣を着た三〇代ぐらいの眼鏡の男。

「当事業所の産業医の梶山と申します。え〜、皆さんは、先日の検査の結果……えっと、まだ正式名称は決ってないらしいのですが通称『特異型男性』と判断されました」

 産業医は……淡々と、そう告げた。

「なんだ、そりゃ?」

「さ……さぁ……」

 その事が、どれ位重要な事なのか……加藤田には、さっぱり判らなかった。

 ひょっとしたら、説明している産業医にも判っていないのかも知れない。

「皆さんは……あるCT用の造影剤を投与された状態で、短時間に大量のX線に被曝した場合に死亡する可能性が有ります。後日、配布するシールを保険証に貼り付けておいて下さい。入院などをされた際に、そのシールが貼られた保険証を病院側に提示すれば、皆さんにとって危険な検査は行なわれない筈です」

 何から何までが意味不明だった。

 多分……産業医も、政府などから言われた事を伝えてるだけで、何が起きているのか理解出来ていないのだろう。

 その時……誰かが手を上げた。

「質問ですが……ウチの事業所は……2〜3割が女性従業員の筈ですが……」

「それが……?」

「何で、その……ここに居るのは男だけなんですか?」

 その一言で……加藤田も気付いた。

 もし……自分達が、ある特定の医療検査を受けると死ぬ特異体質だとして……その特異体質の持ち主の総称が「特異型」なのだ?

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