一年目 十二月上旬 医療検査技師・荻野貴子

「ここだけの話だけどさ……」

 荻野貴子は、部屋に来ていた恋人の加藤田宏志に、そう言い出した。

 高校の頃の同級生だった宏志と再会したのは1年半ほど前。

 たまたま、宏志が入院中の上司の見舞の為、貴子の勤め先の病院に来た時だった。

「何が?」

「このニュースの……最初の1人、私が検査したのかも知れない……」

 貴子は、そう言ってスマホの画面を宏志に見せる。

 五月ごろにある全国紙が独占スクープした「ある遺伝的欠陥を持つ男性が、特定のCT用造影剤を注射された状態で短時間で大量のX線または放射線を浴びると死亡する可能性が有る」と云うニュース。

 それを政府が本当だったと認めた事が報じられていた。

「えっ?」

 宏志は、あまりに唐突な話をふられて戸惑っているようだった。

「ごめん……忘れて……」

「おい、どうした? そっちから話ふっといて……」

「い……いや……自分から言っといて……何だけど……あの時の患者さん……。思い出したくないのに……時々、思い出してしまうような……本当に酷い……」

「おい……大丈夫か?」

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