第15話
教室を確認し終えると外へ出た。
部室棟へ行くつもりだった。
部室棟はグラウンドの隅にあるコンクリート打ちっぱなしの建物だ。運動部の部室が集まっている。男子が一階、女子が二階。各部活が一室ずつ割り当てられていた。
着替えたり、備品を置いたりしていると聞いたことがある。チカの記憶が多く残っているとすれば、ここが一番有力だと思われた。
だから部室棟へ行くのを、最後にしたのだ。
歩きながら、木々の合間に部室棟を見つけ、指をさす。
私たちが通っていた頃は、比較的新しく見えたが、今は壁が黒く汚れ、薄暗い雰囲気を湛えていた。
途中から男性がついてきていないことに気がいた。振り返ると、後方で足を止めている。
女性が引き返した。
私は二人の姿を眺め、そして部室棟へと進んだ。鍵がかかっているのなら、鍵を借りてこなければならない。
どの部室も明かりは付いていなかった。
私は部室の扉にかかったプレートを、一つ一つ見ていく。が、端から端まで歩いても、蹴球部の部室は見つからなかった。
一階も、二階も、何度も見たが、ない。
立ち尽くして、でももう一度確認しようと歩き出したところで、用務員の男性に声をかけられた。
私はこの学校の卒業生であると伝え、サッカー部の部室を尋ねる。
サッカー部は、もう何年も前に男子も女子もなくなったのだと男性は言った。
「ああ、でも…」
サッカー部で使われていたものなら残っていると、さっきの場所から動いていない二人のほうを指さした。
二人がいたのは家庭用のような、物置小屋の前だった。
用務員の男性が鍵をあけてくれた。
長年開けられていなかったせいか、引き戸は重かった。中から埃とカビの匂いが流れ出てきた。
扉の隙間ぶんだけ光が入り中が見える。ビブスが床に落ちていた。
照明はないようなので、扉を大きく開ける。二人はためらいなく中に入っていった。
かごいっぱいのサッカーボール。ストップウォッチ。ホワイトボードには、最後の部員たちが書いたであろう寄せ書きが残っていた。そして歴代のキャプテンの名前も。
チカの名前もあった。
チカは嫌がっていたのに、断りきれずにキャプテンになったのだ。
懐かしい。
ここに残っているものは、なにもかも過去だ。
「あの、ありますよね?」
私は二人に声をかける。
女性はボールを一つ手にとり、目を閉じていた。
男性が頷く。
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