第14話
私たちの母校はあの頃と変わらずそこにあった。通っていた頃よりは在校生は減っているようだったが。
学校の中へはどうすれば入ることができるだろうかと、こちらに来る前から考えていた。明確な理由も話せないただの卒業生のために、立ち入りの許可がおりるとは思えなかった。
まさか忍び込むわけにもいかない。
一か八かで直接頼むしかないだろうと、そう考えていた。
次の日の朝、お義父さんから車を借り、二人を乗せて学校へ向かう。
学校の駐車場へ車を止めると、メガネをかけた女性が一人校舎からこちらへ小走りでやってきた。服装や佇まいから、おそらく事務員であろう。
後部座席の二人が外へ出て、その女性と二言三言話すと、私のほうを見て頷いた。そして三人は連れだって校舎のほうへ歩きはじめる。私もあわてて車から降りてあとにつづいた。
今日はテスト終わりで校内に残っている生徒も少ないから、自由に見てまわって構わない。
私が三人に追いつくと、案内してくれている女性がそう話していた。
来客用のスリッパに履き替え、校舎に入る。
何かあったらここに来るようにと、玄関のすぐ隣の事務室を示し、女性はその部屋へ入っていった。
どうやら先に話を通しておいてくれたらしい。どんな理由をつけたのだろうか。
校舎は三棟あって、それぞれが一階と三階の渡り廊下で繋がっている。
学校の正面に位置するこの校舎には、職員室や校長室がある。
一般の生徒はあまり訪れることはないが、私たちは教室の一つ一つをめぐることにした。
ほとんどの教室は、扉をあけて中を見るだけで終わった。
何人もの人間が入れ替わり立ち替わり生活する空間は、さまざまな人の痕跡が残り、混ざり合って、個人の情報というものを消してしまうそうだ。
一つの校舎を文字通り隅々まで見て回ると、次の校舎へ。
そうやって見ていくなかで、一つだけ室内に立ち入った教室があった。
使われなくなった空き教室。
教室を示すプレートは剥がされ、中には何も残っていなかったが、そこは私とチカのいた教室だった。
窓際に寄り、そこからの風景を見て、私ははじめてそのことに気がついた。
二人にはわかったのだろうか。
私は教卓のあった場所に立ち部屋の中を見回した。そして私の机があった場所に立ち、チカのいた机のほうを眺めた。
私が歩き回っているうちに、二人は確認が済んだのか、廊下へ出てしまった。
「チカの記憶がありましたか?」
私も廊下に出て、三人で歩きはじめる。
「いいえ」
「そうですか」
「はい。でも、あなたのものはありましたよ。ほんの微かですが」
私は教室を振り返る。
私の一部がわずかながらでも残っている。少しだけ気恥ずかしく思った。
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