第2話 正体


「男欲しーー!」


 放課後。バスケ部の部活動中。

 日が傾き始めた空の下、優奈とその友人のミユは揃って外周をしていた。

 外周中は顧問の目が無いため、自然と気が緩み、外周とは名ばかりの散歩状態となるのが常だ。


「ミユさぁ、最近一日に一回はそれ言ってるよね」


 何度も聞いた嘆きに、優奈は呆れで返した。


「言わせてよー。カレシ欲しいんだもんしょうがないだろー」


 学校のテニスコートを外から眺めながらのろのろと歩き、他愛もない話をしていた。


「ミユだったらクラスの男子達喜んで付き合うんじゃない?人気あるし」

「無理無理。クラスの奴らほぼ猿。下ネタで大騒ぎしてる動物じゃん。せめて大学生か社会人。坂口健二郎とか超良い」

「高校生が社会人と付き合ったら割と犯罪チックだけど」

「そこが燃えるんでしょ。優奈だってムロサトシ好きじゃん」

「や、好きだけどさ、それと恋愛的な好みは違うし」


 真面目に走っている部員に抜かされながらそんな風にのんきに喋っていると、ミユが「あ」と、何か思い出したように固まった。


「…どうしたの?」

「ムロで思い出した。そういえば昨日のドラマ見れたの?」


 ミユの素朴な疑問に、思わず固まった。

 なんとなく目を逸らして指を弄る。


「…あー、うん。電車間に合って、ぎり見れた」

「よかったじゃーん!ふっふっふ、ウチの教えた近道は役に立ったようだね」

「ん?んー、まぁ、ね。うん」

「…何そのビミョーな返事」


 返事に対し、不満そうに顔を覗き込んでくるミユ。

 優奈の脳裏には昨日の神社での奇妙な出来事が思い浮かんでいた。

 忘れようとしてもなかなか忘れられない、気味の悪い出来事。


「ちょっと?優奈ー?」


 言うか言うまいか迷ったが、このまま一人悶々としているのも嫌なので、昨夜の一件をミユに話してみることにした。


 俯いて動かない不気味な男性のこと。その男性がもしかしたら人ならざるものなのではないかということ。そして最後に感じた寒気。

 しどろもどろに伝えた。

 すると、


「ぷ…く…ふふ、ふふふ」


 ミユは笑いを堪えるように口を手で押さえ、そっぽを向いていた。


「な、なんで笑ってるの?」

「だ、だって、優奈が幽霊なんて言うから…」


 ニヤニヤ笑いながら、ミユ。

 その姿を優奈は恨めしそうに睨む。


「ミユは幽霊とか信じないんだ?」


 真剣に話したのに馬鹿にされた態度をとられたので不貞腐れていると、ミユはバツが悪くなったのか、


「あーごめんごめん。ウチ幽霊は信じてる方だよ。だけどその男の人は幽霊じゃないの」

「……どういうこと?」

「そこの神社の管理、ウチの親戚の叔父さんが一人でやってるんだよねー。ちょうど昨日優奈が通った時間帯に」


 ミユの言葉に、優奈は固まった。


「…ってことは?」

「それ、多分ウチの親戚の叔父さんです」

「…親戚の叔父さん…ですか…」

「うん」

「…………」

「叔父さんカワイソー。後で言っとこー」

「う、だ、だって全然動かなくて怖かったんだもん!」

「最近疲れてるみたいだからね。眠かったんでしょ」

「そうなのかなぁ」


 そんな様子ではなかったけど。

 引っかかりを覚えたが、優奈は拍子抜けして、大いに安心した。


 # # #


 その後、くだんのドラマがある日には毎回あの近道を使ったが、特に何も起こらず、時は過ぎていった。


 しかし――

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