第9話 女へ

     女へ


 ふざけんじゃねーよ、人を馬鹿にするにも程があるだろう。


 絶対に許さない。絶対に復讐してやる。


 もうすぐ結婚だって?ふざけんじゃねーよ。


 お前の夫になる人に、全部ばらしてやるからな。


 あれを見たらお前の夫はどうするだろうな。


 その男にも気の毒だから結婚前にばらしてやろうと思ったけど、


 その男には申し訳ないけど、


 女を幸せの絶頂から不幸のどん底に落とすために、結婚はしてもらう。


 いつがいいかな。


 結婚式の日か?新婚旅行に行く日か?帰ってきた日か?


 お前の親にも、その男の親にも送り付けてやるよ。


 相手の家のこともちゃんと調べ上げているんだぜ。


 どうなるだろうな……


 お前の人生ぶち壊しだな。おもしれーな。


 お前はそれだけのことをしたんだ。ざまーみろ。


 生き方って大事だな。


 お前がしたことが全部自分に返ってくるだけだ。


 自業自得ってやつだ。ざまーみろ。



 玄信は、手紙を読み終えると目を閉じ、深く息をついた。 


 恐ろしい手紙だな。強い憎しみと、見えてはいないけれど、きっと深い悲しみが底にあるのだろう。心底信頼していた相手からの裏切りで苦しんでいるのだろう。そして、その辛さと闘っているのだろう。


 こうして復讐してやるんだ。幸せにはさせない。そう思うことで自分を奮い立たせているのだろう。本当に手紙にあるような復讐をするならば、ここに手紙など書いて寄越さないのではないか。


 迷い、葛藤、苦しみ、そんなものが見え隠れしているこの手紙の主は、本来心の優しい人なのではないか。だからこそ、実行できずにいて、誰かに背を押してもらいたいと思っているのかもしれない。


 手紙はその背を押す手助けになるだろうか?いや、ならないのだろう。だからこそ、ここに送られてきた。宛先が『女へ』なのだ。誰も読まないだろう。が、万が一にも誰かの目に触れたら、そんな想いから、名前さえ書くことが出来ないでいる。そんな人だ。


 人に対して、これだけの苦しみを与えた人間は、いつかきっと苦しむだろう。それができてしまう人間なのだから、誰に対しても、そういう人間性はどこかできっと、顔を出す。どんな形であれ、なにかを後悔することがあるのではないだろうか。


 因果応報という言葉がある。その言葉が生まれた意味を考えて欲しい。


 送り主の記載があれば、そう伝えてやりたいのだが……いや、送り主もちゃんとわかっているではないか。自分のしたことが自分に返る。自業自得だと。


 だからこそ、送り主が自分自身で書いている『生き方が大事』それを自分にも当てはめて生きて欲しいと、切に願う。

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