第7話 お兄ちゃんへ

     お兄ちゃんへ


 あの日、お兄ちゃんがお姉ちゃんになって帰ってきたとき、


 お父さんの怒りは沸点を通り越してその先へと飛び、


 家の中がぐちゃぐちゃになって、そのあとお父さんは泣いていた。


 男なんだから男らしくと言われてきたお兄ちゃんだったけど、


 もしかしたら……と、私は思っていたよ。


 高校を卒業して東京へ行ったお兄ちゃんが、


 いつの間にか大学も辞めて働き始めたときも、お父さんは怒ってた。


 でも、それはお姉ちゃんになるためのお金を早く貯めたかったんだね。


 私は、その気持ちが理解できるよ。


 お兄ちゃんがお姉ちゃんになって、後継ぎはお前だって言われたよ。


 女の私が後継ぎになれるなら、お姉ちゃんが後継ぎでもいいじゃん?


 お父さんは言ったよ。お兄ちゃんには子どもが産めないんだって。


 お父さんは代々続いた家を自分の代で潰せないって思ってるんだね。


 だから、私に継がせようとしている。私には子どもが産めるから。


 男は男らしくって育ったお兄ちゃんの辛さ、知ってるよ。


 女は女らしくって育った私も、同じ辛さを味わったから。


 私が継いでも、お兄ちゃんが継いでも、同じことなのにね。


 でも、お父さんには言えなくなっちゃった。


 私たち、身体を交換出来たらよかったのにね。


 私、頑張ってみるよ。


 心を殺せば、なんとななるかもしれないし……


 男の相手だって、きっとできる。


 お兄ちゃんはずるいよ。


 自分ばっかり先に逃げちゃって。


 ……オレだって、逃げたかったよ。



 これは辛いだろう。


 お兄さんの気持ちがわかりすぎるくらいにわかるから、父親の気持ちが身近にいてわかりすぎるくらいわかるから、彼女……いや、彼は言い出せなくなってしまったのだろう。


 家というものは時には厄介なものになる。代々続いてきた家ならば、尚のことそうだろう。自分の代で終わらせるわけにはいかないという父親の気持ちも理解できる。


 がしかし、本当にそうだろうか?子を想う親ならば、子を理解しようという気持ちもあるのではないか。この妹が……いや、弟というべきなのか、差出人が兄に……いや、姉に直接言えずに気持ちを手紙に認めるのだから、そこまで家族を思いやれる、そう育った環境に期待したいものだ。


 彼がこの先の人生に、未来に希望を見出せますようにと祈りながら、焚き上げさせてもらいましょう。




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