第6話 和尚2

 随分と長い手紙だったな。


 ざっくりとではあるが、佐都子さんの人生が垣間見ることが出来るような、そんな手紙だ。


 あんたが大嫌いだと書きながらも、棺の中に入れることが出来ないでいたのは、こんな嫌な感情を持たせて送りたくはなかったのだろう。親友なのだから。


 何の飾りっ気もなく、素の自分を佐都子さんに対して見せてきた美貴さんにとって、佐都子さんは唯一の親友であり、心許せる人だったのかもしれないな。そしてそこで派生する嫌な感情を、美貴さんに直接言えずに溜め込みながらも、最後まで美貴さんを見放すことが出来ずにいた佐都子さんにとっても、美貴さんは親友だったのだ。


 それでもこうして手紙を書いたのは、自分のそんな感情と向きあって、そうしたもの全て捨て去り、ただただ今は美貴さんを想いたいのだろう。美貴さんにも、いい面がたくさんあって、けれど目を閉じれば嫌な面が思い浮かんで思い出してしまう。その感情を振り切ってしまいたいのではないのだろうか。すべてをいい思い出にするために。


 親友というのは、難しい言葉だと思う。


 本来、人はいい面だけを持っているものではない。


 誰しも、言葉には出さない嫌な面、嫌な感情を持っていて、そうしたものを抑え込んで理性を持って人と接するものだ。


 そうした嫌な自分、吐き出したい自分、それを受け止めてくれる相手は、そう多いものではない。それどころか、そんな相手を持たない人もいるだろう。


 美貴さんには、それがいた。自分を見捨てなかった佐都子さんだ。佐都子さんの持つ人間力、包容力、そんなものが美貴さんに対して作用したのではないか。


 この手紙を読んでいて、手紙を開封するきっかけとなった貴志という男の妻のことを思い出していた。それらは貴志の妻にも備わっていたものではないだろうか。


 美貴さんも、貴志さんも、いい人と巡り合えていたものだと思う。


 どこの街に住むのかわからないこの佐都子さんの想い、心を込めて焚き上げよう。



 さて、今日はもう一通の手紙も届いていたな。


 滅多に届かない宛先不明の郵便が1日に2通も届くというのは珍しいことだ。


「お兄ちゃんへ」と書かれたこの手紙、内容はどんなものだろう?


 家族だからこそ言えないこととは、案外多いものかもしれない。


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