第5話 美貴へ

    美貴へ


 私、あなたが大嫌い。


 中2の時に同じクラスになって、


 同じ部活に入ってたことから急激に仲良くなって、


 私は1年の時に仲のよかった子とクラスが離れたこともあって、


 美貴と仲良くできて最初は嬉しかったんだよ。


 「私たち、親友になろうね」そう言われてすごく嬉しかったし、


 その言葉通り、いつも一緒にいたし、


 家に帰ってからも電話で長いことお喋りして、


 休みの日もしょっちゅう会って一緒に過ごして、


 こんな友達ができて、本当によかったって思ってた。


 けど、ある日、気付いちゃったんだよね。


 気づいたっていうか、薄々感じてはいたことだけど、


 その目、その視線、


 いつも私を上から下まで品定めするような目で


 その日に私が何を着て何を身につけ何を持っているのか、


 そのどれ一つも見逃さないようにしているような、その目……


 それ、気持ち悪いし、いい気分はしないよ。下品だよ。


 そして、しょっちゅうやる、私を見下すようなその視線……


 自分で気付いてるかどうか知らないけど、


 顎を少し上げ、少し下げた視線で私を見るその目、


 それ、何様のつもりなんだよ。


 そしてそうやっていつも私にべたべたしてくるくせに、


 そこに誰か一人が加わって3人になると、


 いつも美貴が真ん中に入って私に背を向け、


 ずーっと2人だけでお喋りして私を仲間に入れないような


 そんな仕草はなんだか滑稽ですらあったよ。


 なんなのいったい。


 なんだかね、そんな美貴が私には嫌悪感しか持てないくらいになってて


 だから私は他に仲良く話をする友達だっていたわけだし、


 その子たちの中に入って話をしていると、


 どういうわけか美貴をみんなで仲間外れにしているなんて言われて


 あんたは学校に来なくなったよね。


 別にね、私はじゃあそれでもよかったんだよ。


 もうね、めんどくさかったしね。


 あんたは他に仲良くしたいらしい友達だってたくさんいたし、


 その子たちとよろしくやってればいいのに、


 なぜか私に執着して、何故か私が謝って迎えに行くとか、


 正直、意味が分からない出来事だったよ。


 そんなんで、親友って言える?私たち、仲がいいの?


 私は美貴と同じ高校に行きたくなくて、一つランクを下げたよ。


 美貴とまた3年一緒なんて、まっぴらごめんだったからね。


 でも美貴は自分の方が勉強できるからねみたいなこと言ってて、


 なんともいやはや、おめでたい人だと思ったね。


 でも、これで離れられる。離れられた。……と思った。


 学校が別になって、共通の話題も減ってきて、これで関わり持たなくて済む。


 そう思ってたし、実際高校卒業まではそうだった。


 けれど、またその頃からやたら連絡が来るようになって、


 けれど、空白の期間が関わりに距離を作ってくれたようで、


 以前のようにべったりでもなく、ごくたまに一緒にご飯で済むようになって


 まあ、このくらいならと付き合ってきた。


 2人で旅行した時の朝、あんたは洗面所で30分もかけて化粧して、


 次に私が入って身支度はじめて、5分もしないうちに、


 もう出発しないと!!のんびりしてないでよ!……は?誰のせいだよ!


 私はあんたが出てくるの、ずーーーっと待ってたんだよ!


 誰のせいで遅くなってんだよ!


 乗る電車、ギリギリで乗れたとき、あんたなんて言った?


 「佐都子が支度遅いからこういうことになるんだよ」って、は???ですよ。


 私はあんたが出てくるまで歯も磨けず顔も洗えずにいたんだよ。


 それで化粧なんてできるわけないでしょ。あんたバカなの?


 私が結婚するって話した時、


 あんたは私の彼を品定めするようなことをしたよね。


 あんたなんて言った?


 6つ年上だったからね、あんなオジサンとかさ、お腹出てるとかさ、


 なになに?お金でもたくさん持ってるの?って、失礼な話だね。


 でもね、そんなことどうでもよかった。


 私はね、ただ、愛してくれて愛せて、人生共に過ごせる人だと思ったからね、


 見た目オジサンとか、お腹出始めてるとか、どんな仕事してるとかさ、


 そういうところで選んだわけじゃないしね。


 結婚願望が強いあんたからしたら、自分より先に結婚されるのが悔しかった?


 24の時、あんたが不倫にハマって、私は止めたよね。


 結婚したいのに不倫してどうすんのよ。バカじゃないの。


 「奥さんから奪っちゃう」なんて言ってたけど、


 いつの間にか奥さん、子供産んでたよね。


 その男はだんだん連絡よこさなくなったよね。


 挙句、妻にバレたらお前が慰謝料請求されるぞって、


 そんな言葉吐き捨てたよね。


 結婚相手を見つけたい一番大事な時期に、何年もそんな男に遊ばれて、


 30過ぎて知り合った独身男に、


 一緒に企業しよう、一緒に生きようって言われて浮かれて、


 美貴の友達にも会わせて欲しいとかで、


 あの男、私に会うのはじめてだったのに、


 いきなり出資の話を持ち掛けて、話を聞いたら、


 それあんた騙されてるよって、私はすぐにそう思ったよ。そう言ったじゃん。


 あんたは私を信じなかった。結果どうなった?


 あんた、捕まる寸前だったじゃない。


 私が、あんたは本気でその男を信じてて、本気で一緒に企業すると思ってた。


 あんただって騙された被害者だって、そのくらいは証言したよ。


 でもね、あんたが紹介して出資したあんたの友達、被害に遭ってるよね。


 本当に気づかなかったの?他の友達にも言われたんでしょ?


 見てくれのいい甘い言葉をいくつも並べてお金を引き出そうとする男を


 一度は怪しいって思って欲しかったよ。


 30代後半に、私の夫の友達を紹介したいって言った時、


 40過ぎの男なんか…って、そんなことぐずぐず言ってる間に


 誰かいい人紹介して欲しいって言ってたその40過ぎの男はね、


 あんたより若い女の子とくっついたよ。


 会うだけでも会ってみればよかったのに……そんなことばっかり。


 40過ぎて、もう結婚なんかしないって言ってバリバリ働いて、


 美味しいもの食べに旅行に行ったり、欲しいもの買って、


 「主婦じゃブランドなんてなかなか買えないでしょ」


 そう言って誕生日にもらったブランドのバックね……


 そういえば、あれ、どうしたっけ?


 私はブランドより使いやすさ重視だったからね。


 私の娘の咲希が結婚するときも、あんたは咲希の彼氏を品定めしてたね。


 頼りなさそうだとか、見た目だけがいい男なんじゃないのとか、


 咲希が出産した時、「これで私の老後も安心」って、


 なんで美貴の老後がこれで安心なわけ?


 あ、前にも言ってたね。


 「咲希ちゃんがいるから私の老後も大丈夫ね」って。


 咲希はあんたの老後の面倒なんて見ませんよ。


 あんたが病気になっても、


 若い頃、詐欺の方棒担ぐようなことになって、


 絶縁されてたあんたの兄弟は、それでも義務だけ果たすって感じで、


 結局、私は手を貸さないわけにもいかず……


 私ね、あんたが大嫌いだったよ。


 手を貸したのは、それでもたぶん友達だったし、


 もう腐れ縁だし見捨てられない気持ちだったからで、


 あんたが私に手渡した、


 「生活の足しでも欲しいんでしょ」っていう現金ね、


 本当に失礼な話ですよ。


 私は夫のおかげで生活に困ることもなく、生きていますよ。


 私がしてきた嫌な思い、文句タラタラ書いて、棺に入れようと思ってたけど、


 どうしたことでしょう……入れることが出来なかったですよ。


 こんな長いこと、折々の中で付き合いのあった友達って、


 結局……あんたくらいなものだったわ。


 これって……親友って、言うのかしら。



                佐都子



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る