第2話 夕季

 出すことのできない手紙を預かってくれるところがあります。


 そのサイトを見つけたのは、ほんの偶然だった。家から……ある時から部屋からすら出ることができなくなってしまった私を思ってか、私は両親から、パソコンを使いその中で配信される教材を使い勉強をするという方法を与えられ、元々勉強が嫌いではなかった私は、それを使って、画面の向こうの『先生』たちから勉強を教わっていた。


 そんなふうだから、パソコンだけが唯一の友達で、けれど、そこから教わることはとても多く、その中で見つけたのは、「宛先不明郵便預かります」という言葉だった。


 そこには、


 『私は、それで救われました。私は、私には、その死を願うほどの憎しみを抱えた相手がいました。このままではそれを実行してしまいそうで、気付けばその方法を探っている。そんな自分がとても怖くて、それでもそれを止められずにいました。その方法をいくつかクリックしていると、そこからふと飛んだ先にあったサイトが、そのサイトでした』


 そんな文言と共に、「宛先不明郵便墓地宛て」という送り先が書かれており、その文章の下にあるコメントを書く欄には「自分も救われた」とか「私も出しました」など、いくつかのコメントがあり、その中には、手紙の末尾に自分の住所も実名も書いたという人がいて、心休まる返事が届いたというコメントすら書かれていた。


 夕季は、なんだそれ、そんな怪しげなところに自分の住所や実名など書くなんて、バカじゃなかろうかと画面に向かい毒づいていたが、それを目にした時から、その事が頭から離れられなくなっていた。


 自分も書いてみようか。自分の住所なんか書かなくていいんだし、墓地宛てっていうんだから、そのまま心の闇を葬ってもらえるのではないか。そんな都合のいい考えも浮かび、このままじゃいけない、なんとかここから出なくちゃと、向谷杏璃を亡くしたあの日から抱えた恐怖の中から抜け出せずにいる自分のこの感情を、誰かに縋って消してもらいたい、あの日の自分と決別したいと、日々その気持ちが強くなり、読む人がいないその手紙を書いた。


 杏璃ちゃんは、あれからもずっと生きていて、中学でもたくさん友だちを作って、高校生になって恋をしたり夢に向かって充実した人生を送っている。そう、自分に言い聞かせ、そんな人生を謳歌していると自分に言い聞かせるように、その手紙を書いた。


 学生時代を、人生を謳歌している杏璃ちゃんとは対照的に、自分はあの日から閉じこもって恐怖と闘ってきた。私だって、人生を楽しみたい。そう思ってもいいよね?だって杏璃ちゃんは人生を楽しんで生きているんだから。


 そう、自分に言い聞かせ、それを現実のものとする。


 私は、杏璃ちゃんに、幸せに生きている杏璃ちゃんに手紙を書く。



 ……お願い、誰か助けて……



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