一幡クズ葉

「まず始めに、俺は青春を謳歌する愚か者は視界から消えればいいと思います」


 ──また、声が聞こえる。


 今度は男の声だ。どこから聞こえているのだろうか。


「青春って、馬鹿馬鹿しくないですか? 都合通り上手くいかないのに,無駄に頑張ってて暑苦しいし。努力が認められて、それが実になるのは陽キャとかカーストトップのヤツらだけ。陰キャボッチの俺には青春のとりこになった者たちの思考が理解できません」


 聞き慣れた声。だけど聞いていて不快にしか感じない。誰なんだ、こんなクソみたいなことを言っているのは!

 ここは一言、俺が喝を入れて──


一幡いちはた

「はい?」


 ──えっ、俺?


 視界が開けると、教室にいることが分かった。俺が通っている高校の教室だ。

 さっきまでは珍しくオシャレにキメていた私服姿だったのに、今は高校の制服姿。

 いつもの見慣れた光景が広がっていることから、残念ながら俺は授業中に夢から覚めたのでは無いかと落胆しかけた。

 しかし目先に見える大きな違和感が、俺の頭を混乱させる。


「聞いてるのか、一幡」


 教壇には俺をキッと睨む女の先生。さっき俺を呼んだ声の主らしいが、俺はあの黒髪ロングヘアの先生を知らない。

 そもそも俺の担任は男だし、教科担当に黒髪ロングの女の先生なんていない。誰かの代行で来たのだろうか。

 もっともらしい理由をつけて今の状況を飲み込もうと試みる俺。だけど見知らぬ先生にまた声をかけられ、肝心な自分の現況に目を向けた。


「なにとぼけた顔している。さっきまでの清々しい姿勢はどこいった?」

「……いや、あの今、何の時間だか──」

「はぁぁ? 今さっきまで作文読んでただろ。……お前のは作文とは言い難いが」


 作文? 何の?

 更に現況が飲み込めなくなるも、何故か手で広げられていた原稿用紙が視界に入ったので、なんとか持ち直す。


「いや、いい。続きを読め」

「えっ? あっ、はい。えーっと……」


 とりあえず読んでみよう。そして早く終わらせて、今置かれている状況を整理せねば。

 俺は書いた覚えのない作文を初めから、目で追いながら声に出して読んでみた。


「昨年度の振り返りと今年度の抱負。二年三組、一幡葛葉。……まず初めに、俺は青春を謳歌する愚か者は視界から消えればいいと……ってなんだよこれ!?」


 序盤からあまりにも酷すぎる!

 それから読むのをやめて文章をザッと見たが、こんなの高校生が学校で書く作文じゃない。過激なヘイトスピーチだ!

 なんだよ、『愚か者』だの『ゴミ』だの『クズ』だの……。『青春って馬鹿馬鹿しくないですか?』って──。

 なんで俺、こんなクソみたいな原稿書いたことになっているの!?


 ──まず始めに、俺は青春を謳歌する愚か者は視界から消えればいいと思います。


 ていうかさっきのって、俺の声じゃん! なんで俺、こんなこと言っちゃってんの!?

 理解の追いつかない俺の思考回路はショート寸前。

 そんな俺の額に、勢いよくチョークが飛んできた。


「いだっ!!」

「『なんだよこれ!?』はこっちのセリフじゃ、たわけ!!!」


 ……んな事言われても、知るかボケェ!!!!


「もういい、クズ。授業が終わったら私について来なさい」

「えぇ……」


 目が覚めたら教室にいて、いきなり見知らぬ先生に連行されるハメに。

 一体これはどういうことなんだ?

 俺はこれから、どうなってしまうんだ?

 結局状況が理解出来ないまま俺は着席するが、その前に一つだけ違和感に触れることに。


「てか、なんでいきなり下の名前なんですか?」

「何となくだ、気にするな」

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