さらば、わたしの幼なじみ

 わたしには、幼なじみがいた。

 名前は一幡葛葉いちはたくずは。わたしと葛葉の大好きなラブコメの主人公と、という面白いやつ。


 葛葉とは幼稚園からの幼なじみで、わたしにとっての葛葉は大事な弟のような存在だった。

 昔はわたしの後ろに隠れていて、男の子にイジメられて泣いてばかり。

 そんなわたしは葛葉をイジメから助けたり、一人で夜のトイレはおろか、お風呂にすら入れないというものだから、一緒に入ってあげたことも多々あったっけな。


 けれど成長するにつれて、わたしたちの関係は徐々に変化を見せる。


 小学校の頃、守られてばかりの葛葉がわたしをイジメから助けてくれた。

 中学の頃、わたしと同じくバスケを始めてくれたのは嬉しかったけど、小学校の頃まで自慢だった高い身長が葛葉に抜かれたときは複雑な気持ちだった。

 そして高校になって、後ろで隠れていた小さな少年は、大きくなってわたしの隣を歩いていた。


 そんな葛葉を好きかどうかと聞かれてると……、分かんない。

 やはり腐れ縁というものが、わたしと葛葉を恋人として意識させないのだろうか。それともわたしにとって、葛葉は大事な弟という思いが拭えないのだろうか。


 でも、一緒にいたい。一緒にいて欲しい。

 友達でもいい。もちろん恋人になるのもいいし、将来のビジネスパートナーでも、わたしの家によく現れる謎のおじさんでもいい。

 どんな関係でもいいから、葛葉はわたしの前から居なくなって欲しくなかった。


 ──でも、わたしは死んだ。たぶん、葛葉も死んだ。


 その後は死後の世界だろうか。不思議なことに、わたしと葛葉の好きだった作品の世界に転移している事がすぐ分かった。

 同じクラスに、原作で見たことのある厨二病ちゅうにびょうを拗らせた少年が居たのが唯一の救い。


 だけどわたしはその作品の。ただ作品に迷い込んだだけの、いわばモブだ。

 だから黒髪ヒロインの東雲雪奈しののめゆきなも、茶髪ヒロインの赤浜夕風あかはまゆうもわたしに絡んで来ない。

 おまけに周りには見知らぬ人ばかり。だからわたしはそんな環境に馴染めず、家に帰ろうとした。

 いや、家を探した、と言えばいいのだろうか。


 そして奇跡的に、わたしの家は見つかった。

 死後の世界なのに、わたしの住んでいた家がそのまま残っている。

 それだけでも驚きなのに、わたしは幼なじみの葛葉を見つけたのだ!


「葛葉!!!!」


 やっと会えた!もう会えないと思ってた!!

 そんな思いが爆発して、背中に大きな声をぶつけた。


 けれど……、わたしを見て葛葉はこう言ったのだ。


「……誰?」

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