やはりこの青春ラブコメは間違っている①
どうしよう? どうすればいい?
これは夢か? でもそれならさっき、目を覚ましているはずだよな?
そもそも、どうして俺は『俺まち(もしかして俺の青春ラブコメって間違ってますか? の略称)』の主人公になっているんだ?
完成したパズルに当惑する俺。
しかしここでぼーっとしていても、何も解決しない。
「…………」
でもそれより、
あーもう見てるだけで心臓が破裂しそう! 泣きそう! だけど目線が離れないです!!
「…………」
「どうした、東雲」
しまった。つい東雲さんを見過ぎてしまっていた。
これもしかして、原作通り罵られるやつだよね?
えっ、いいの? あのセリフ、聞けちゃうの!?
しかし彼女は頬を赤く染めて、もじもじとした様子でこう言った。
「……そ、そこの男の、眩しい目を見てると、その……」
えっ? なんで照れてるの? いや可愛いけど、そんなことされたら困るよ!!
こっちは「下卑たいやらしい目付きを向ける、このゴミを具現化した男は誰ですか」って罵倒セリフを求めてたのに。いや、何言ってんの俺。
「コイツが? 眩しい? 東雲、先生が優秀な眼科を紹介しようか」
先生は先生で酷すぎだろ。
俺のことボロクソ言うのは原作通りだけど、東雲さんと考えが噛み合ってないし、言葉の一つ一つが胸に刺さって痛すぎる……。
「……で。その方は?」
目について指摘された東雲さんは、メガネをかけて顔を上げる。
おぉ、メガネしののん、来たコレ。
「コイツは入部希望者だ。名前は一幡葛葉。普段から『青春はクソだ』と言って他人を見下すような態度を取ったり、お前のような女に下卑たいやらしい目付きを見せたりする、ゴミを具現化したような男だ」
勝手に入部希望者にさせられて、何の部活に入るかはツッコまない。だってこの先の展開は読めてるから。
でもさ。でもさぁ……。
『ゴミを具現化した男』って表現、アンタが使うなよ!!
もうやだこの先生。口が悪いのは知ってたけど、こんなの心が痛くなるからマジで無理! よくこんなこと言われて耐えられたな! 本家の主人公さんよ!!
ちなみに東雲さんに言われるのは、大歓迎です。
「ということで東雲には、この男の歪んだ考えを正すべく──」
「お断りします」
ここでようやく本家本元の、雪の如く冷たい声が発せられた。
けれどここから、俺が予想していたルートから脱線する展開に発展することに。
「私には平坂先生のおっしゃることが理解できません。彼の目、ちゃんと見ましたか? あのまっすぐ活き活きとした瞳。それはまさに夢や目標に目を向ける、青春を生きる若者ではありませんか」
……あれ? あの毒舌ヒロインが俺をベタ褒めしてる?
「それに初対面とはいえ、彼が人を見下すような人間でないことくらい分かります。きっと彼は誠実で優しくて、他人を見下すことなく仲間を大切にする熱い方なのでしょう。勉強熱心で部活にも熱心。部活では全国大会を目指して日々の努力を怠らない。朝練で早く来て、夜は遅くに残って自主練。そう、彼はいわばジャ〇プ系主人公です!!」
やばい、涙出そう……。
今まで目立たないモブキャラみたいな生活を送っていたのに、美少女に見た目だけで褒められる日が来るなんて……。
でも俺、勉強熱心じゃないし。確かに部活には熱心だけど、目当ては全国大会じゃないし……。
いや、なんか言いにくいな。
俺は沈黙を貫き、勝手にハイスペック主人公にされる様を見届けた。
すると東雲さんはこちらを向いて、
「見たところ……、バスケ部でしょうか?」
「えっ!? 確かにそうだけど」
本家では帰宅部なのに、彼女は俺がリアルで入部している部活を当ててみせたのだ。
そして予想が当たったと分かると、彼女は俺に小さく微笑んでからまた、先生を強く睨みつけた。
「先生、お言葉ですが、あなたが眼科に行くべきでは無いでしょうか?」
「うぐっ……。まぁ、それはまぁ、その……。すまん、言い過ぎた」
ばつが悪い表情を浮かべながら謝罪する先生。
しかし東雲さんの言ったことにはいくつか誤りがあるものだから、俺としては罪悪感で胸が一杯だ。こっちこそごめんなさい、先生!
「ということで彼はバスケで忙しいでしょうから、入部の件は──」
「ちょっと待ってくれ東雲!!」
しかし物語の都合合わせだろうか、先生は俺を入部させるべく食い下がる。
「さっきのは悪かった。でもお前の力が必要なんだ!!」
「わ、私が……、この人の!?」
声を引きつらせて驚く東雲さん。何故頬を赤くする!? あのクズ主人公が入部するんだぞ! もっとこう……、嫌がれよ!!
「あぁそうだ。コイツちょっとおかしいんだ。嫌と言うほど説教された私の名前を忘れるし、西暦何年ですか、なんてタイムリープをしたかのような質問までしてきたんだ。しかもこんなゴミのような作文を『書いた覚えありません!』とか言い出すし……」
「まぁ、それは大変!!」
そう言うと彼女は俺に駆け寄り、自分の額を俺の額にくっつけてきて……。って、なにやってんの東雲さん!!
「先生、この子熱があるみたいです!」
「やはりな。コイツ、頭がおかしくなるくらい疲れてるのかもしれないんだ」
「それで、私たちの力が必要、ということですか?」
「あぁ、そうだ」
突然の出来事に混乱する俺。頭はぐるぐる掻き乱されたかのように回るが、このあとの驚愕な発言は聞き逃さなかった。
「この一幡葛葉には、現代社会に疲れてグニャグニャに歪んだ心と思考を癒やして治療すべく、キミたち『文芸部』もとい『天使部』に入部してもらう」
(あとがき)
皆さん初めまして。そうでない方は、いつも緒方の作品を読んでくださりありがとうございます。
今回は一風も二風も変わった『異世界転移ラブコメ』を書いてみました。
正直あの名作を使っているため、畏れ多さで胸一杯です(笑)
そして「面白い!!」「すこ!!」と思った読者様にお願いです。
良ければ☆や応援、応援コメント、作品のフォローなどしていただけると嬉しいです!!
それらは僕の血骨となり、更新速度もどんどん速めてまいりますので、何卒よろしくお願いします!!!!
ここで補足。今作の主人公『一幡葛葉』ですが、偶然にも転移先の作品の主人公と同じ名前という設定です(後々、それが分かるエピソードを公開予定ですが)。
それでは、「この先は想定外の驚きとコメディ、甘々の連続だぞ」という言葉を残して、私はドロンします。
明日からの更新を、どうぞお楽しみに。
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