北へ向けて
ノルヴライトとは広大な大陸の世界である。無論、ジゲン国のような島国もあるが、中大陸、小大陸などとも称される大地すら海の上に浮かぶ、ムサシたちのいた世界など及びもつかない広さだ。その北の果ての国となれば、教皇領とも言われるイシュガール国までは長い道のりだった。既にその日、グリターニャ領を出発していた彼らだが、よくある冒険者の仕事の一つとして、行商人の魔物たちの警備も買ってでて移動手段とすると、その荷馬車の荷台の中の会話は、お喋り好きなムサシのみならず、リーファインとくっついて離れようともしないピクシーのココまで同類と来れば、これまで以上に会話もはずむ冒険となりそうだ。
と、話は、既にあっちこっちへとつれづれに任せていた彼らであったが、ふと、思い至ったのはムサシで、それは、言わば、このノルヴライトという地の国家の中でも、中心的な存在の一翼を担っている、ルナアンヌ神聖王国なのに、イシュガールとはまるで飛び地のようにして何故に離れているのか 、という素朴な疑問なのであった。
「あん時は、魔王を倒す事でいっぱいいっぱいだったからな~」
馬の足音に荷台の車輪に任せるまま、丁髷を揺らしつつムサシが述懐するようにすれば、「やはり、貴公らが……」などとリーファインは改めて感心するような素振りをみせていると、榛色の瞳をクルリとさせたアミナは、かつての冒険の、自らが召喚された王都の記憶などを手繰り寄せるようにしながら、「ほら。私、聖騎士だけど、冒険のできるフリーランスの方の、自由聖騎士だから、王族の方々の事までは、そこまで立ち入る余裕も、なかったんだけど……」などと前置きはしつつも、
「……教皇になれる人って、王族の方々の中でも、ちょっと訳があるみたい……けど、ほんと、そうだね。ほんといっぱいいっぱいだったね。はじめての異世界だったし……」
「あら、やはり『光の戦士たち』の皆様は、どこか遠い世界からの来訪者だったのですね~っ! どんな素敵な世界からいらしたのかしらっ」
「こらっ! ココっ! ぶしつけだぞ!」
「まっ、この感じなら、もう隠す事でもないっしょ。そだなー。先ず言える事は、ここより空気は汚ねーは、あちこち公害だらけの異常気象で、多分、近々、人類、詰みって感じの世界かな~」
「えっ……コ、ウ、ガ……? イ、ジョウ、キ……?」
「まっ、いつ滅んでもおかしくない世界、って事よっ」
「なんと……!」
「ちょっと! ムー君!?……うん。確かにね。リーファインさんやココちゃんが来たら、ちょっとびっくりしちゃうかも。こんなに自然が残っているところも少ないし……けどねっ! それを変えよう! もとに戻そうってがんばってる人たちもいて……!」
中二病侍がニヒル顔に、冗談なのか本気なのかも解らない内容を切り出しはじめれば、真に受けている異世界の人々に、優等生アミナがフォローをいれたりしつつ、時に、現れる魔物たちをも倒しながら、一行は北上を目指していくのだった。
「とおりゃああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
そうして、魔物が現れれば、アミナもムサシもそれぞれの得物を引き抜き、雄叫びと共に突進していく。
「GAOOOOOOOOO………!」
眼前に立ちはだかるは、トロールよりも難敵であるゴーレムの、岩の塊にも似た巨大な姿であった。サイクロプスほどでないにしろ、それに準じる、固い甲羅にも似た拳から繰り出す強烈な攻撃には注意しなければならない。
そこらに生息する魔物たちの多くが、より強敵となっていってきている。ムサシとアミナは、かつての異世界の冒険と照らし合わせれば、これが、尚、魔王がいづこかで健在している故なのか、かつての魔王領へと足を踏み入れていっているからなのかは、見極めは難しいところだった。
と、ムサシ、アミナに負けず劣らずの雄叫びをもって、竜の牙でできているという愛用の槍を振り回し、加勢をしていたのは、無論、リーファインである。そうして、彼女が、ビュン……! などと、そのポニーテールを踊らせながら空へと自らを蹴り上げた時には、他の二人は、それを頼もしく見上げ、これから、何が起こるかを容易に想像できたのだ。
その飛躍の秘訣も、彼女が身にまとう、竜からもぎとりし固い鱗をも原料としているという、竜騎士専門の装備に宿る魔性の力を、厳しい訓練のたまもので御しているからこそなのだが、竜騎士とは、確かに竜を倒すために特化した騎士ではあるものの、決して竜のみのために存在しているわけではない。今や、大空高くから振り落とすように落下してきた乙女は、その槍でもって、とうとう真っ二つに、岩肌の巨人を打ち砕き、
「GAAAAAA…………」
既に、猛者三人による猛攻を前に、かなりの手傷を負っていたゴーレムは、断末魔と共に、その流れに身を任せるしかないのであった。
「ふぅ…………」
ココが、無邪気に、周囲を飛び交い、その雄姿を誉め称える中、エルフの乙女は地面にまで突き刺さった槍を抜くと、額の汗をぬぐった。かつての自らの旅の一行にもいた、竜騎士であった仲間の事などを思い出しながら駆け寄るムサシとアミナも、共に擦り傷なども否めない。それはすっかり、かつて魔王にせまるだけの実力を取り戻しつつある彼らをもってしても、奮戦ではあった事を物語っていた。
北に向かうにつれ山岳地帯も多くなってくる大地には、いよいよ日も暮れかけ始める茜色の広大な空が覆っていた。旅の一行の中でも目ざといムサシが手ごろな洞窟を見つけると、アミナが、マリーから譲り受けたテントを張り、突然の出現にココもリーファインも機術のハイテクノロジーに感心しつつ、皆が慣れた手つきで次々に仕事を行っていけば、焚火を囲む、今宵は、洞穴での野営となりそうだ。
「魔物の質も難儀になってきてるし……だだ広いとこよりマシっしょ」
「うん、そうだねー」
最早、異世界に慣れ切った剣士たちは、ついこの間までが高校生とは思えない熟練の探検家だ。
「ココはいまのうちに充分、あったまっといた方がいいかもしれんな」
「ひぇ~っ! お姉さまったら、なんてご無体なっ」
目の前では、リーファインがココの事をからかったりしていた。
火をくべ、すっかり気心もしれた者同士となれば、洞穴の隙間からでも拝む事のできる、この異世界の満天の星空の元、食事をし会話をする事も、冒険の醍醐味の一つと言えよう。そしてリーファインの興味と言えば、どうやらムサシとアミナが、ある意味、恋のキューピットをしたと言ってもいいかもしれない、グリターニャの伝説の魔女、ヤガガヤの事であった。
「四百年も……我らエルフでもそこまで生きる事は叶わぬぞ……本当にいらっしゃったとは……!」
「まあな。もう、男なんだか女なんだかもわけわかんなかったよ。いつも真っ黒づくめでさ~。ある意味、バケモン」
「もぅっ! ムー君?!」
そうしてヤガガヤと言えば、長寿の秘訣でもあるという、その性的指向の事である。リーファインは、狩った獲物に調味料をまぶしあぶったものの肉片を、食べやすいようにちぎってやると、それに無邪気に飛びついてくるココの事をじっと見つめてみたりしつつ、
「まぁ……なんだ、その……女同士、ではないか……」
その言葉のいづこかには自分にも舞い降りた似たような案件を前にしての、戸惑いのようなものも見え隠れしていたかもしれない。ただ、そのヤガガヤの全てを受け入れたマリーの年のほどを聞けば、青い瞳はまん丸くして驚いたのだ。
「や、わかるよ。オレも最初は、ぶっちゃけドン引きだったしな……」
「でも、マリーさん、すごい想ってたし! シウルプスに着いた後なんて、ヤガカヤさん、すごいがんばってたし! 寧ろ、素敵だなって思ったかなっ 」
「そ、そういうものか……」
「ねっ! お姉さまっ! ワタクシだって、たまたまゾッコンになってしまったのが、お姉さまってだけですのよっ」
そして、ムサシとアミナの語りにリーファインが答えていると、それまでただただ無邪気していたココが割って入り、妖精のストレートな告白を前に、エルフの乙女の表情も少し変わっただろうか。ただ、
「……こーらー。大人の会話に、子供がはいるものではないぞ」
などと、リーファインは諭すようにすれば、「ココ、子供じゃないですわよ……」などと、妖精は口を尖らしてみせたりするのであった。
やがて、時間は過ぎ去っていく。語り合いはおひらきとなった。そして、これまで以上に凶暴な魔物たちが跋扈しているといえば、見張りにも注意が必要だが、今回の旅路は、戦闘においても十二分に心強い、竜騎士が同行しているというのは、ムサシとアミナの負担も減るというものである。
見張りの順番をムサシもアミナも終え、リーファインに番を回そうとする時には、既にリーファインは起きて、準備すらはじめている。
そしてリーファインがココと共にテントをでていけば、二人水入らずの時間である。思わず、アミナが、「ムー君……」と、その背にツンとつま先で訪ねると、寝ぼけまなこながら、「ふにゃー。アミナー」とその胸に飛び込んでくるのがザンバラ頭だったりして、愛おしげに髪を撫でてやれば、アミナも眠りにつこうとするのだった。
やがて、アミナも眠りに落ちていったそのはずだった。
ただ、しばらくして、「はぁ……はぁ……あっ!」などといって切なげな吐息が聞こえてきたと思い、ジュルルル……! と、まるでなにかを吸い出すような音が外から聞こえれば、その榛色の瞳も、思わず、開いてしまい、思わず懐を見下ろせば、ムサシすらも丁度、大きく目を開けているところだったのだ。
「…………」
「…………」
そして、呆然とした二人が、声のする方へソロリソロリとテントの中からこっそり顔をだしてしまう事は、最早致し方のない事であろう。
「お姉さま……綺麗ですわ……はむ……チュウ……チュッ……」
「ああ……!……あんっ」
なんという事だろう! その見張りのためにくべられた炎のそばでは、今や、リーファインの鎧という鎧は脱がされ、地に突き立てた槍に両手ですがるようにして、ポニーテールの金髪の髪を揺らし、喘ぎ、豆粒のように小さかったココは、人並みの幼女ほどの大きさに化けていると、愛おし気に、透き通るほどの白い肌で突き出された、その大きな尻の中へと口淫をするところではないか。
「コ、ココっ! そ。そんなとこっ! ふわあああんっ!」
「ふふ……チュウチュウ……お姉さま……かわいいっ」
「見張りもあるのだ! こ、これ以上は……も、もう……! 」
「大丈夫……お姉さま……ココに全部、委ねてっ」
ココからの愛撫を一心に受けながら、リーファインは、瞳を潤ませ、振り向いていたりしたが、上気するその顔の表情には、口ほどの抵抗を感じるものはくみ取れるものはなかった。
「は、はじめて、なのだから、な……や、やさしく……っ」
「あらっ……充分、やさしくして差し上げてるつもりですけれど……」
「そ、それは、そうだが……あっ……あんっ」
「お姉さま、気持ちいい?」
「……はぁ……はぁ……あ……あん……き……き、気持ちいいっ……!」
「嬉しいですわ…………っ」
そして、その尻の割れ目にゆっくりと顔を埋めて口淫をするココのそれは、とても大事なものを優しく愛でるような啜り方で、
「あああああああああ!」
とうとう、リーファインは人生ではじめての絶頂を迎えてしまったようなのだ。
「…………」
「…………」
ムサシもアミナも、まるで固まったような笑顔で顔を見合わせたという事は、言うまでもあるまい。ただ、その後は、まるで物音を立てないようにして、そろりそろりと寝床に戻っていこうとしていると、
「はぁはぁ……ま、まったく、二人が起きてしまったらどうするつもりだったんだっ」
「だってぇ~、やっとココの事を受け入れてくださってんですもの~。こんな機会は一気に攻めませんと~っ」
「……強引、なのだな」
カチャリカチャリと鎧を装着し直す音が、外からは聞こえてくる。ここに旅の仲間たちに新たなカップルが生まれたという事は、ムサシもアミナも、いつしかのように祝福すべきなのだろう。
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