真夜中の仰天

「せいやああああああああああ!」

「うぉおおおおおおおおおおお!」

 かくして、アミナとムサシの雄叫びと共に、各々の得物は、時に、華麗に舞うように、激しい突風のように、次々に剣技を一閃!

 

 ……ドド……ン……!

 そして、今や、勇敢なる剣士二人を前に屈し、その巨体を地面に倒したのは、ティーレックスと呼ばれる、まるで地球にかつて君臨していた肉食恐竜の姿をした魔物であった!


 すると、そんな用心棒たちにパチパチパチパチ……! と、拍手を送っては、

「すごいじゃなーい!」

「うむうむ! 天晴れじゃわい!」

 と、後からマリーたちはやってくるのである。

(…………)

 刀を鞘におさめつつ、ふと、ムサシは、水晶玉の上に乗り、浮かぶ、黒帽子の方を流し目で見ると、多少、魔法の心得もあるのなら、少しくらい加勢してもらえればなどとも思ったが、相手はあくまで依頼者で、これが冒険者の仕事であったと思い直せば、果てなく広がる平原の彼方で、西日がかかりはじめてる事を確認すると、

「もうじき、夜だし……今日は、ここいらで野宿っしょ」

「ねっ」

 などと、アミナと語っていたのだが、

「……ん~、やっぱ、早速、次の街ってわけにはいかないっぽい?」

 マリーは、頬などかきかき、少し困ったふうな笑みを浮かべ、話に入ってきたのである。

「ええ。森を抜けましたけど。思ったより魔物の数も多かったですし。私たちとしても次の街くらいには入りたかったけど、旅路が旅路だし、魔物は、夜行性も多いので」

「そ、そっか……だよね~……まぁ、しょうがない、よね~?」

「ふむ……」

 アミナの説明に、今度、マリーは、ヤガガヤの方を振り向き、何やら互いに頷きあうようにするのであった。


 やがて街道以外、何もない平原の空には、いよいよ満天の星空が瞬きはじめ、二つ並ぶ満月と共に、この世界の久々の自然に触れ、相変わらずの、東京では見た事もない空に、タケルとアミナが見とれるようにしていると、

「どしたの? 二人とも」

 共に焚火を囲んでいる、マリーの大きな青い瞳が、不思議そうに訪ねてきたので、

「う、ううんっ! なんでもないっ! けど、すごいね! ノルヴライトには、そんな伝承、あったんだね!」

 答えるアミナは、年も近い事もあって、すっかり打ち解けた口調となっていて、

「ま、ノルヴライトと言ったらさ~不思議な伝承だらけじゃなーい」

「……私たち、魔王を倒す事ばっかり、考えてたから……」

「えっ! すごーい! 魔王退治なんて! アミナちゃんたちこそ、『光の戦士たち』みたーい!」

「ええのう……若さ、漂っとるのぉ~」

 今度はマリーが驚いてみせたりしている中、ヤガガヤはそれらを眺め、なにやらニヤニヤと、一人、嬉しそうであった。


 今、乙女たちが話に花を咲かせているのは、マリーがシウルプスを旅立つきっかけになったという、呪文を唱えると、どんな願い事も叶えてくれる聖獣が現れるらしい、聖獣のランプについてであったのだ。なんでもその姿は、三本の足に翼をもった、巨大な美しい鳥の姿をしているそうだ。

「……ま、わたしも、たまたま、実家の本棚にあった古い文献で知ったんだけどさー。けど、この光の地、ノルヴライトに生まれたる者と言えばっ! 一度は憧れるのが、冒険ってやつじゃないっ?!」

 マリーは話し、たまたま近くを漂っていた、まるで蛍のようなフェアリーの一つに、触れてみせたりもした後、

「そんで、魔王もいなくなったってわけだしさ! 今がチャンスだーってっ!」

 ただ、聖獣のランプには、ランプだけでなく、それを磨きあげるための聖なるタオル、また、呪文を唱えるための魔法のゴマなどなど、必須のアイテムを色々収集しなければならないらしく、それらは世界各地に散らばっているそうなのだ。

「とりあえず、冒険に必要そうなアイテムは自分で作ってみたりしたけど、わたしだって、一人じゃ冒険できると思ってなかったわよ。うちの街の冒険者ギルドで声かけて、魔法使いなんかもスカウトしてさ~」

 だが、この魔法使いが曲者だったそうだ。自分の姿に化ければ、色仕掛けで、なんと、とある精霊相手から情報を聞き出そうとしたのだという。

「ぱ、ぱふぱふだとかいってっ! クビにしてやったわよっ! けど、そのおかげで、ヤガガヤちゃんに会えたんだもん、ねー」

「のー」

 そして、マリーが首を傾けるふうにして名を呼べば、魔女もおなじようにし、にこやかに答えるのである。ムサシとアミナは、年齢差を飛び越えたように仲が良い、なんとも不思議なクライアントだと、顔を見合わせたが、まだこの時は、二人の驚きの関係を知る由もなかった。


 やがてお開きとなる頃合に、マリーが、リュックから、なにやら一掴みを取り出し、プシュッとなど押したふうにして放り投げれば、それは見る見る風船のように膨らむと、あっという間に、地面に張られた状態のテントと化すではないか。

「すっげー! これも機術?」

「まーねーっ」

 人工革と言うらしい、まるでムサシたちの世界のビニール製のようなそのテントを、しげしげと侍が眺めていると、マリーは事もなげに答えたが、

「……けど、これ、ヤガガヤちゃん、いれて、ギリギリ三人が限界、カナー……」

「あー、それなら、お構いなく、うちら、交替でやるから」

「どうする? ムー君、どっち先がいい?」

 最早、すっかり一介の冒険者の勘を取り戻していたムサシとアミナは、尚、焚火をくべつつ、慣れたふうに周囲を見回し、打ち合わせすらはじめたのだが、「あーのーっ!」とマリーが大きな声で呼びかけてきたので、振り向けば、ヤガガヤもマリーも何かを話したそうに、もじもじともしているではないか。だが、結局、「……まぁ、いっか。おやすみっ」「……しっかり頼むぞえ」などとテントの中に入っていくのであった。


 更に夜も深まり、テント内に並べられた二つの寝床のマットも、まるでアミナたちの住む世界にも似た素材で、寝巻変わりの、ピンクのロングシャツの中は、まるでノーブラのマリーと、相変わらず真っ黒づくめのヤガガヤは、一つを分け合うように目を瞑る、相変わらずの仲の良さであったが、その上をアミナはソロリソロリとまたいでいくと、すっかりいびきをかいて大の字に爆睡している、ザンバラ頭の鼻先など、ちょんちょんと、指で押してみた。


「ん……」

 起き上がると、ムサシは自らの頭を丁髷に結い直し、取っ散らかっていた刀の鞘も手に、アミナと無言のキスで交替を確認し、やがてあくびをしつつもテントを出、

「よいしょ……」

 とりあえず、アミナは、胸部装甲を外しては、得物は傍らに置きつつ、マリーたちには背を向け、横になった。


 どれだけ時がすぎただろうか。既に、すっかり剣士の勘は取り戻していたアミナの事である。何かの視線に気づき、ふと、目を開いたが、それは丁度、「だいじょぶじゃわい……寝とる……寝とる」などという嗄れ声の囁きと共に遠のいていくと、「……ほんと~?」と、小声で答える声もあるところで、

(……マリーさん……?)

 思わず、アミナは、その体勢のまま、聞き耳を立てる格好となってしまったのだが、

「マリーや……もっと、ぱふぱふじゃ」

「……ええ? 吸うなら、はやく吸っちゃってよ~っ……!」

「ぱふぱふ、じゃっ」

「しょうがないなあ……えいっ……ぱふぱふ……っ……ぱふぱふ……っ」

「ぐふふ……」

 明らかに、魔女の老婆の愉快気な笑みのくぐもり方は、まるで、アミナの胸の中で喜んでいる時のムサシのようではないか。


(………………?!)

 聖騎士の少女は事態が全く飲み込めず、途端に顔も真っ赤に、体を固くするしかなかった。やがて、「あんむ……」としたヤガガヤに、「は……あ……」などと反応するマリーは、思わず手で口をおさえたようであったが、ハァハァじゅるる……なんぞと、魔女が吐息に涎を混ぜ合わせれば、「ん……ん……っ」などなど、乙女は、体をひくつかせているようなのだ。

(………………?!)

 アミナは、すでに自分の頬が熱いのか、背中に伝わってくる、何がしかの熱気のせいなのかも解らぬほど、事態を飲み込めずにいた。


「あの若造……ちょいイケメンじゃったから……おぬし……ちょっと、その気になったじゃろ」

「……っ! い、言ったでしょっ。こ、これからも、いい男には目移りしちゃう、かもだけど……って……」

「ぐぬぬぅ……! やはり………! あんむっ」

「あん……あ……ちょっ……いた……っ! で、でも、女の人は、ヤガガヤちゃんだけ、なんだからっ!」

「ほんとかえ? なら、今日も、桃のようなここを、こっちに見せてくれるかえ……?」

 激昂したかと思えば、今度、魔女の口調は、まるでおねだりする子供である。

「ええっ~……こっちから、なの……?」

「うっひょっひょ……」

 そして、「も~う……」などとぼやきつつも、その願いを叶えてやるためのような、マットの上を擦る音がすると、

「……ほら……」

「うっひょ~、スッベスッベじゃわ~い……」

「ふふ……ねっ……これだって、ちょっと、はずかしいんだから……だから、ご機嫌、なおして~」

「ああ……ああ……『若さ』が……香ってくるわい……!」

「……め・し・あ・が・れ……っ」

「…………ヂュルルル!!」

「はぁああああああ!!」

 途端に激しく何かを吸われ、予期しない激しさに、マリーは思わず声をあげてしまったのだ。

(………………?!)

 そして、その音に似た何かをアミナは聞いた事があるのである。それは、まるで、ムサシが自らにする口淫のようではないか。


 ヂュウヂュウ……! ヂュルルル……!

「あ……ん……あん……っ!」

 ただ、延々とそれのみが繰り返されてると思われる行為は、ムサシのそれよりも、一際に粘着的で、遥かに激しくすらあり、

「……ほれ、声が……うるさいぞい。これでもくわえてろい……!」

「ふ……んっ?! んっ……んっ……んっ……!」

 ヂュウヂュウ……! ヂュルルル……!


 明らかに魔女の舌が這いずり回る中、その全てを受け入れている乙女は、スタイルもいい自らよりも遥かに小柄なそれに、この時ばかりはどこまでも従順である関係のようであったが、とうとう、

「あぁあああああん! ヤガガヤちゃ~ん!」

 ヂュルルルルル…………!

 こらえきれなかった絶叫と共に、とどめとばかりに啜り上げる音も激しく、

(…………………?!)

 とうとう、アミナは、大混乱のままに、思わず、振り向いてしまったのだ。


 大赤面の聖騎士のすぐ隣では、肌に汗すら浮かべた裸のマリーが四つに這い、体を波打たせていて、猿轡かわりの毛布も口からはらりと落ち、瑞々しい桃のような尻の割れ目には、皺くちゃヤガガヤの、黒帽子に黒づくめの姿が、恍惚とした顔をして埋もれていたのだ!

(……………?!)

 想像絶する光景を目の前に、アミナが更に混乱をきたした事は言うまでもない。そして、満足気に皺だらけの口元が、タラリと何か垂れるのも勿体なさげにしながら、舌なめずりし、隙間から離れる頃、ピクンピクンと未だ波打つままに、乙女は、どこか遠いところを見、尚、魔女の眼前に、自らの桃のような箇所を献上するかのような体勢でいて、魔女は魔女で満足気にそれを眺めては、尚、余韻を楽しむかのように撫でると、終いには自らのよだれまみれとすらなっているその桃色に、頬ずりなんぞもはじめたが、どうやら、その激しさは、とっくに外まで聞こえていたのだ。


 気づけば、テントの入り口のジッパーはとっくに開かれていて、そこにはアミナ同様、目も丸くしては、顔も真っ赤に、ムサシが覗き込んでいるところで、そんな異性の視線に気づけば、マリーもハッとして「きゃっー!」と驚き、自らの体を隠してみせると、「このヘンターイ! ちかーん! どスケベ―!」などという怒号に、ムサシも慌てて逃げ出したが、尚、はぁはぁと紅潮おさまらぬ顔は、落ち着きを取り戻すと、

「……まぁ、いっか。いづれは話さなきゃーって思ってたし……」

 などと、へたりと内股の女座りをした膝には、もう食えぬと言わんばかりにゲップまでしている魔女が横たわろうとすれば、乙女も膝枕で迎えてやるではないか。











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