第21話お披露目式
宗雪のお披露目式に、涼太は鴉を連れていくお役目を担うことになった。迷子防止である。涼太も手持ちの中で、できるだけ立派な着物を選んで着てきた。だが、鴉の加恰好を見た瞬間に、自分恰好のことなど涼太は吹き飛んだ。
白い着物に紫色の羽織をはおった姿。髪を止めるは、涼太が進言した翡翠の飾り。そのほかの小物も翡翠色でまとめられていて、今日の鴉は隊長の威厳に満ちていた。今の鴉の隣に立つものは、なんであってもくすんでしまうだろう。涼太は、そう考えた。
白虎隊の百人屋敷で行われたお披露目式には、各隊長が訪れていた。それぞれが隊の色を示す着物を身に着けて、自分たちの仲間に入る若者の前途を祝う。きっと他の隊員たちの貞行のように隊長の恰好に心を砕いたに違いない。どの体調も威厳に満ちていた。
白虎隊の百人屋敷に隊長たちが並び、その付き添いの隊員たちも式の始まりを今か今かと待ち浴びる。
最初に行宗が、今回集まってくれた人々に礼を述べる。全員がその礼に拍手をし、式が始まった。青龍隊の隊長が祝辞をのべて、他の隊長もその祝辞に続く。粛々とした行事に参加する鴉の横顔は、いつもよりもはるかに年上に思えた。
隊長の祝辞が終わると、今度は司が前に出る。
平服ではなく、司も正装をしていた。
彼は長い烏帽子をかぶり、白い装いで刀を持っていた。小さな彼があるくたびに涼太は裾を踏むのではないかとひやひやしたが、そのような粗相は起らなかった。
「司」
宗雪が、自分の幼馴染を呼ぶ。
司は、白虎隊の色である白の鞘に閉じ込められた刀を取り出す。そして、それを宗雪へと手渡した。
「この刀が、新たな白虎隊隊長を守ることを祈る」
司は深く一礼をして、列に戻る。
小さく、とても小さく、宗雪は呟いた。
「この刀が、市政の人々を守ることを祈る」
それは、宗雪の本心に思えた。
「今のは?」
涼太は、鴉にたずねた。
「今のは隊長になって、市民を守りますって誓いだよ。一番大切な人に誓うんだ。私も、兄に誓った」
鴉は、寂しそうに微笑む。
「お兄さんですか……?」
嘉新素の昔話に何度も出てきている人間である。だが、いまだに涼太はその兄と顔を合わせたことがなかった。鴉と同じように常に迷子になっているのだろうか。だとしたら、会えない理由も頷ける。
「うん。その話はお披露目式のあとでしようか」
今は祝いの席だからね、と鴉は言った。
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