第5話隊長探し2
二つ目の心当たりは茶屋であった。
ここの茶屋は一風変わっていて、客は若い娘ばかりである。その若い娘がそろって黄色い悲鳴を上げるのが、ここの店員の青年である。背の高い精悍な顔立ちの男である。この日の焼けた男を目当てにして、連日娘たちが押し掛けるのである。
「いらっしゃいませ。あー貞宗のところの人ね」
男は、涼太を見て一目で鴉隊だと分かった。
鴉隊の証である半纏は羽織っていたので、おかしいことではない。それでも隊長の名ではなく、副隊長の名が出たことが少し妙であった。男はそのことを察したらしく、豪快に笑う。
「俺様と貞宗のやつって、昔なじみなの。隊長さんもそのことを知っているから。あっ、俺様の名前は智草っていうんだ。店共々、よろしく」
なるほど、と涼太は思った。
隊長もきっと身内の知り合いがいる店だから、気安いのだろう。
「隊長さんは三日前に団子を食べに来たよ。やたらと食べてから、しばらくまともに飯を食ってなかったみたいだね」
遭難者のような目撃情報である。
もっとも、智草は慣れっこになっていて注文通りの団子を食べさせてくれたらしい。できれば、その時点で涼太たちに連絡を入れてほしかった。
「もしかして、まだ帰ってきてないの?今回は長いねー」
智草は、涼太に茶を渡す。
注文もしてないので遠慮すると「いいよ、これからご贔屓にしてね」と愛想のいい声が帰ってきた。おそらく、隊長のこともこうやって誑し込んだに違いない。
「まだ、ボクは隊長に会ったことがないんです。どんな人なんですか?」
智草に聞いてみると、彼は少しばかり悩んで「可愛い人だよ」と答えた。
涼太は目を丸くした。
可愛いとは定火消の隊長にあるまじき評価である。
「火消しっぽくない人だし、子供っぽい人なんだよね。甘党だし。取っ付きやすい人ではあるよ。性格は。まぁ、常に迷子だけど」
性格は悪くないが、性質が悪いと評価された隊長だった。
「貞宗は、結構心酔してるね。気持ちは分からなくもないよ。あいつって、小さいものと妹が好きだから」
智草の言葉に、涼太は「妹さんがいるのか」と思うことにした。
副隊長が隊長に心酔していることなどよくあることだと思うが、その理由が「小さくて可愛いから」というのは納得できるものではなかった。だが、よく考えれば宗雪も同じような理由で司の頭をなでていた。
「おっと、こんな話をしていたら……」
智草が、店の出入り口のほうに視線をやった。
そこには男女がいた。
「朱雀隊の隊長に、玄武隊の隊長だ」
朱雀隊の隊長は、女だった。隊長のなかでは、まだ任期が一番短い。名は鈴鹿。
玄武隊の隊長は、おどおどしている男である。朱雀隊の隊長と顔が似ているが、これは彼が鈴鹿の双子の弟だからである。名は、数馬という名だったはずである。
「この店、隊長さんたちがよく来るの?」
涼太が尋ねると「ああ、よくな。持ち帰りもできるから、隊員さんたちの差し入れにも使ってもらっているよ」と智草は答えた。せっかくなので、涼太も団子を注文した。
隊長たちが贔屓にすることも分かるほど、美味しい団子であった。
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