三話「任命式。喝采の拍手に包まれて……」 その3
そしてしばらく間を空けてから、純香さまは一歩前に出る。
「それでは最後にみんなに入場してもらおうかしら。みんな入りなさい」
純香さまが突然呼びかけると、今まで舞台袖に居たみんながステージの上へと戻ってくる。
「それでは最後に今年度の抱負をキングとクイーンが順番に発表していくわね。まずはクローバーからでいいかしら?」
「もちろんよ。それではしのぶ。いいわよね」
純香さまの問いに萌さまは即答し、しのぶさまにも同意を促す。
「………はい」
相変わらずの沈黙の間を置いてだが、すぐにしのぶさまも同意する。
「それじゃ行くよ。萌は今年こそは、生徒がみんな怪我をしないようなそんな学校を作りたいと思います。だからみんなも怪我したら駄目だよー。絶対に駄目なんだから」
萌さまは保険委員らしい怪我に関することを述べていた。
だけど最後の一言には、ちょっと変わった感じの反応を感じ取ってしまう。
それが萌さまの人気なんだろう。
「……次は…………私です……今年は………………そうね。悪い呪いに掛からないような………そんな平和な年になれば…………………いいわね」
最後の間は何となく迷っていたような気がする。
しのぶさまはむしろ悪い呪いとか好きそうだ。
そしてしのぶさまも言い終わるとまた、萌さまとは違う歓声がステージに届けられる。
それにしのぶさまは小さく手を振るとまた一歩後ろへと下がってしまう。
「それでは次は私から行きますわね。楓もいいでしょう」
「ええ。構いませんよ琴実さま」
萌さまとしのぶさまが終えると、次はダイヤのお二人が前へと出る。
「私はですね。今年は文化祭や学園祭といった文化的な行事を活発にして行くつもりですわ。ですので、皆様方も今年は心地の良い行事を数多く提供できますので、ご期待してくださいませ」
琴実さまは自身にみなぎった口調で語る。その様子にはとても大きな拍手が送られた。
琴実さまの言葉にはきっと、多くの生徒が自信を貰っているんだと思う。
「私用かもしれないけど、私は後輩に気軽に話しかけてもらえるような、そんな先輩になりたいな。……うん。それが私の、塚山楓の今年の目標」
楓さまはしばし迷うけど、すぐに言い切る。
その姿には、やはり強い拍手が送られていた。
それが何となく、その目標は楓さまのイメージに合うように僕には感じた。
「じゃあ次はつかさがやるね。聖華も準備は出来てるよね」
「もちろんです。ではつかささまからお願いします」
聖華さまはいつものように優しそうな口調で答えていた。
「はい。つかさはね。今年は……キングになったんだからものすっごく、頑張っていくよ。だからみんなもつかさを頼ってね。本当にすっごい頑張っちゃうから」
つかささまが言い終わると、熱い声援が送られる。
その歓声は特に『頑張って』という趣旨の言葉が多かったと思う。
沢山の歓声を受けて、つかささまは満面の笑顔で手を振っていた。
そしてつかささまの様子をじっと見ていた聖華さまも優しそうな笑顔でつかささまを見守っているように感じた。
その聖華さまもタイミングを見計らい、一歩前へと出る。
「では次は私が話します。私は今年の目標としては、自分で主体的に行動していきたいと考えています。去年はまだよく分からないことが多く戸惑ってしまった事がありましたので、今年はそうならないように全てに積極的に行きたいと思います」
聖華さまは力強く宣言する。
客席からは拍手が送られ、聖華さまは静かに手を振る。
そしてその様子を見届けてから純香さまが前へと出る。
「それでは最後は私たちだけど……渚先にやる?」
「えっ………はい。もちろんです」
渚さまはすぐに了承し、渚さまは一歩前へと出る。
「わたくしの今年の目標は、もちろん素晴らしい学園生活を送ることです。そしてそのためにもわたくしはスペードのクイーンとして頑張っていきます。全身全霊を掛けて職務を果たしますわ。全てを全力でこなすことこそ大事なのですから」
渚さまは少々気の強い口調で答える。
そしてその渚さまの言葉を聞き終わると、再び数多くの歓声が渚さまに送られた。
その歓声は思ったよりも大きく、しばし鳴り止みそうに無かった。
だけど、しばらくし様子を伺っていた純香さまはそっと前へと出る。そして渚さまはそれに合わせてすぐに後ろへと引く。
純香さまが一人前に出ると、自然に客席も静かになり、全ての人が純香さまに視線を向ける。
純香さまには何だか人を一瞬で自らに注目させる、人をひきつける何かがとても強いように感じた。
「では最後に私から一言申し上げます。私の今年の目標は、全ての生徒が楽しい学園生活を送ってもらうことです。そして悩みがあれば生徒会にいつでも相談出来るよう、気軽に誰でも入れるような、そんな生徒会室を作りたいと考えています。私たちはいつでもあなたたちを待っています」
純香さまはしっかりと最後まで硬い雰囲気で話し続けた。
そして生徒たちはそれを真剣に聞いていた。
それを見届けると、純香さまは最後に少し表情を崩し、続きを話す。
「そして………これはプライベートだけど。乗馬部の選手としても今年は大会で優勝します」
最後は笑顔で締めくくる。
その純香さまの姿に客席からは今までで、一番強い拍手が送られていたようだ。
その拍手の雨の中、静かに幕は落ちていき、僕たちの任命式は終了となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます