一話「絵柄だけのトランプカード」 その1

朝礼が終わり、号令も終わり、一時限目までの束の間の休憩。


僕は朝礼の二分前にギリギリで教室に入る。普段は十五分前に入るので僕としてはある意味遅刻だ。


「はあ」


思わずため息。そして授業の用意をする。だがそこに一つの声。


「ねえ。どうしてギリギリなの?」


「なんだ祐ゆう次じか。別に大した事じゃないよ」


「……うそだろ。洸夜がギリギリで来る時はたいてい何かある」


「そっ。そんなこと」


「あっほらっ。声がおかしい。やっぱり」


どうやら祐次の問いには逃れることは無理らしい。観念して朝のことを話す。


「黒い髪が腰まであるか」


「うん。やっぱり女の子かな」


「この学校って男子校だぞ」


「…………」


僕は思わず黙ってしまう。凄く間抜けな発言だと自分でも思う。


「でもいくらうちでも腰までの長い黒髪でしかもストレートで洸夜が思わず見とれるような人となると、多分あの人だろうな」


「だっ!誰っ!?」


僕は思わず強い声で聞いてしまう。そして回りが自分を振り向くのを見てすぐに下を向く。


「……ごめん」


ほんの少し小さい声で謝る。祐次には聞こえたと思う。


「別に。でも洸夜がそんな興奮するなんてよっぽど気になったんだな」


「そっ。そんなこと」


「まあいいけど。えっとそれはスペードクイーンだな」


「クイーン?やっぱり女の人?」


でも男子校だし。どうしてだろ。


「違うよ。生徒会の役職みたいなものだよ」


祐次はすぐに否定した。でも生徒会なのにスペード。しかもクイーン。不思議だ。


「洸夜も初等部からのトラディスィオン生なら知ってるはずなんだけど」


「ごめん。でも中等部じゃ普通に生徒会長とかだったし」


「高等部は特殊なんだよ。三年生がやる生徒会長はキングカルテット。二年生がやる副会長はクイーンカルテット。カルテットの呼び名はそれぞれトランプのスペード、ハート、ダイヤ、クローバー。それで恐らく洸夜が言ってる黒髪の先輩は二年生で副会長やってる人だと思う」


「へえ。それで名前は?」


生徒会の役職とかは完全に失念してたので正直助かった。けど僕はその人の名前が知りたかったからすぐに続きを促す。


「綾あや河かわ渚なぎさ。サファイア組だよ」


その名前とクラスを聞いたとほぼ同時に授業が始まるベルが鳴った。








お昼の長い休み。僕は急いで二年サファイア組に向かう。


「あの。すいません。渚先輩は居ますか?」


僕はクラスに付くとドアの前に居た上級生に声をかける。


するとその先輩は渚先輩を探してくれる。そして戻ってくる。


「ごめん。どうやら綾河は生徒会室に行ってるらしくて」


「いえ。ありがとうございます」


僕は返事を済ませるとすぐに生徒会室に向かう。








「それで駄目だったんだ」


「うん」


僕は祐次と食堂でランチを食べている。


生徒会室には行ったがどうやら大事な会議中らしくて入れずに戻ってしまった。


「どうしても綾河先輩にもう一度会いたいなら方法はあるよ」


「えっ。何?」


僕はその時は凄く嬉しそうな顔をしてたんだと思う。我ながらすぐに表情に出るのは恥ずかしい。


「放課後すぐに雪ゆき美みさんに頼んで取り次いでもらえ」


「雪美さんってあの西崎にしさき雪美さん?」


「ああ。クローバージャックだし」


「クローバージャック?」


少し混乱気味だ。クローバージャック?


「朝言い忘れてたけど二年と三年同様に一年にもカルテットがあるんだ。ジャックカルテットで主に雑用担当かな」


「それでどうして雪美さんが生徒会なの?まだ選挙やって無いのに」


どうしてだろ。大体まだ入学して十日。そんな時期にいきなり生徒会選挙があったとしても、それはそれで困るけど。


「ジャックは現在のクイーンが選ぶから。まあキングが関わることも多いだけど」


驚いた。そんなシステムなんだ。どうやら祐次は学園のあらゆる情報に詳しいらしい。


「でもどうして選ばれたんだろ。まだ知り合ったとしてもほとんど間もないのに」


「クローバークイーンのしのぶ先輩が言うには雪美さんのウェーブの金髪がタイプだったらしいけど」


「……そう」


金髪がタイプ。そんなのありなのか。僕はクローバークイーンの人が選んだ動機に少し驚いていた。


「何驚いてるんだよっ」


祐次は僕の背中を軽く叩く。


「それに会いたいならちょうど良いじゃん。都合よく同じクラスにすでに生徒会メンバーが居るなんてある意味ラッキーだよ」


「そっ。そうか。そうだよね」


確かにそうだ。同じルビー組にジャックがいるなら都合が良い。


「よしっ。じゃあ放課後は話しかけよう」


僕はそう決めるとすっきりした気持ちで残りの食事も食べられた。

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