第33話
「終わりだ。死にたくなければ大人しくしているんだな」
「ぐぅ……」
伸の攻撃によって片腕を失い、最後の手段として人質の奪取を狙った魔人のモグラ男。
その企みをあっさりと見抜き、伸は残りの腕を斬り飛ばした。
モグラ男にとって最大の武器である爪を失い、戦う手段はほぼ残っていない。
残っている足のみで戦えるというならそれでも構わないが、これだけの実力差を見せつけられておいて伸に勝てるとは思わないだろう。
刀の切っ先を向けられたモグラ男は、怪我による痛みに顔を歪ませながら唸り声を上げた。
「おぉ……」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
「スゲエぞ!! 少年!!」
「魔人を倒しちまいやがった!!」
勝負がつき、無力化されたモグラ男を見て、ジワジワと広まるようにして柊家の魔術師たちは喜びの声をあげた。
大量の魔物の出現だけでなく魔人までも出現した時は、誰もが死を意識したことだろう。
しかし、それがまさか1人によって、しかも高校生によって制圧されるとは思いもしなかった。
まさかの勝利に感情が高ぶり、歓喜の声をあげてしまうのは仕方がないことだろう。
「……喜んでいるところ申し訳ないのですが、魔力封じの道具ありますか?」
「……あっ、あぁ……」
喜びに水を差すようだが、この魔人の拘束が済んでいない。
現状ただの高校生に過ぎない伸は持っていないが、魔闘組合に登録されている柊家の魔術師なら、魔物や犯罪者を捕まえる時に使用する魔力を封じるための道具を持っているはずだ。
この魔人を無力化して拘束するために、伸は魔力封じの道具の提供を求めた。
それを受けて、数人の男性が魔力封じの道具を持ってこちらへと駆け寄ってきた。
「動くなよ!」
「くっ……」
魔術師たちに危害を加えないように、伸は睨みを利かす。
それによって動くことを止められた状態のモグラ男の足に魔力封じの道具が装着され、鎖を何重にも撒いて身動きできない状態へとされて行った。
それを、モグラ男は悔し気な声を出しながらおとなしく受け入れるしかなかった。
「俺を捕まえてどうしようって言うんだ?」
「さぁ? ただの高校生の俺が決めることじゃない」
「はっ……、何がただの高校生だ……」
拘束されたモグラ男の身柄は、そのまま柊家の魔術師たちに任せた。
伸との戦闘で大怪我を負って大量に魔力を失った上に、魔力封じの道具を装着されている。
どんなに抵抗しても、すぐに彼らによって抑えられてしまうだろう。
去り際に、モグラ男は自分に勝った伸へと話しかけた。
この後このモグラ男がどうなるかなんて、伸にとっては何の興味もない。
魔人の生け捕りなんてこれまでの世界の歴史で数回しかないため、恐らくは人体実験のモルモットにされるのだろうが、そういったことは大人に丸投げだ。
伸の返答を受けて、モグラ男はこんな高校生が普通の訳がないと、飽きれるように呟いていた。
「少年……」
「あっ! 大丈夫っすか?」
「あぁ……」
連れ去られて行くモグラ男を眺めていると、伸は後ろから声をかけられた。
その声の方へと振り向くと、側に綾愛を引き連れた俊夫が立っていた。
どうやら、回復魔術によって傷が塞がり、何とか一命をとりとめたようだ。
しかし、大量の出血によって貧血状態なのか、顔色は良くない状態で伸の問いに答えている。
「今回は助かった。まさか魔人まで始末してしまうとは……」
「いや、言われているより弱い魔人で助かりました」
「ハハッ! 弱いか……」
立っているのもやっとの状態でわざわざ話してきたのは、感謝を伝えるためのようだ。
柊家の当主である俊夫に、伸は頭を掻いて照れながら返答する。
その返答に、俊夫は乾いた笑いと共に呟く。
身内に擬態されていて警戒が薄れていたとはいえ、自分はあっさり殺されかけた魔人。
それが伸にとっては弱い部類に入るというのだから、驚きを通り越して呆れて来る。
「それはいいんですけど……」
「……あぁ、分かっている。今回のことは君の名前が出ないように、柊家による討伐として広める」
「それでお願いします」
魔人を倒したことによる感謝はありがたいが、少々問題がある。
ことがことだけに、魔人の出現を抑え込むことは不可能だろう。
そうなると、誰が魔人を抑え込んだのかという話になり、自分の名前が広まってしまうかもしれない。
そのことを言おうとした伸を俊夫が手を上げて制止して、伸の言いたいことをくみ取ったように返答した。
「えっ? 何で? 魔人を倒したなんて大々的に広めるべき栄誉なのに……」
伸が名前を秘匿したい理由を俊夫は知っているためすんなりと話が進んだが、綾愛はその理由を知らされていない。
そのため、手柄を横取りするようなことを言う父と、それを受け入れる伸の反応に首を傾げる。
そして、納得できないのか、異を唱えるように2人に話しかけてくる。
「……彼にも色々と都合があるんだ」
「でもっ!!」
娘の言葉に、父である俊夫は濁すように答える。
高校生にもなればそんなことで納得できる訳もなく、綾愛は父の服を掴み、強い口調で反論しようとした。
「あの魔人は俺が倒した。その俺が柊家の名前を上げるために使ってくれって言っているんだから、何もしていないお前は受け入れればいいんだよ!」
「っ…………」
伸の都合を知らないため納得できずにいる綾愛は、父の俊夫に掴みかかる勢いをしている。
溺愛している娘につらく当たれない俊夫は、困ったように黙るしかない。
このままでは収まらないようなので、伸は悪役になることにした。
この戦いで、綾愛ははっきり言って戦いに参加できなかった。
何もしていなかったのに文句を言う資格はないと、一番の功労者である伸に強い口調で遠回しに言われ、そこから綾愛は何も言えずに俯くしかなかった。
「……本当にそれでいいのか?」
「えぇ……」『色々あるけど、ぶっちゃけ面倒事は先延ばしでいいだろ……』
魔人を捕まえた者として知られれば、鷹藤家もそう簡単に手を出しをしてくることはできなくなる。
そのうえで柊家が協力すれば、大きく揉めるようなことはないかもしれない。
そう言ったことも分かっているうえで、伸は了承している。
しかし、鷹藤家がどう出るか分からない以上、出来る限り秘匿したいというのが伸の考えだ。
最後の確認をするかのように問いかけてきた俊夫に、伸は頷きを返したのだが、内心では先に延ばせる面倒事はその時に対応すればいいという考えだった。
「全員聞け!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
方針も決まり、俊夫はこの場にいる人間を全て呼びかける。
怪我人と回復魔術をかけている者以外は、当主である俊夫へ向けて背筋正しく直立した。
こう言ったところは、さすが名門家。
しっかりと訓練されているように感じる。
「今回のことだが……」
そして、俊夫は全員に伸の存在を秘匿するように箝口令をしくことになった。
誰もが突如現れた英雄のことを広めたい気持ちでいたため、綾愛のように納得できないような表情をしたが、自分たちの命を救ってくれた英雄自らの願いだといわれたら異論を唱えることなどできない。
ここにいるのが柊家の人間だけだったのが幸いだったというべきだろう。
俊夫の言葉に、魔術師たちは渋々ながら受け入れられたのだった。
『まぁ、どうせバレるだろうな……』
とりあえずこの場にいた者たちは受け入れてくれたが、人の口に戸は立てられない。
秘密といっても、どこかから漏れてしまうことだろう。
『そん時はそん時か……』
夏休みの宿題は追い詰められるまでやらないタイプの伸は、あまり深く考えないことにした。
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