第29話
「全員集まれ!!」
魔人であるモグラ男の合図によって、巨大モグラの魔物が大量に出現した。
それを見て、柊家の魔術師の1人が一ヵ所に集まるように指示を出す。
この人数を相手にばらけて戦っては、数に圧されてすぐに全滅してしまうと判断したからだろう。
「俊夫様を守れ!!」
一ヵ所に集まったのは、魔物に対するためだけのものではない。
大怪我を負った当主の俊夫を守るためでもある。
数人の魔術師たちが回復魔術をかけて、腹を貫かれ大怪我を負った俊夫を助けようと必死になっている。
その状態では戦うことなど当然できる訳でもないため、魔物に襲われればひとたまりもない。
俊夫を救うためにも彼らを守るように、他の者たちは魔物へと対峙した。
「魔物は俺たちに任せて、お前たちはそのまま回復魔術をかけろ!!」
「何としても当主様を死なせるな!!」
「「「了解!!」」」
3人がかりで懸命に回復をしよとする者たちに背を向け、周囲を囲むように魔物に対峙する柊家の魔術師たち。
援軍も合わせた総勢70人の周りに、魔物が地面から次々と現れてくる。
あっという間に10倍近くの魔物が集まって来ていた。
魔人までいるこの状況で、どう考えても勝てると思えない。
しかし、この場にいる魔術師たちは、俊夫が助かればなんとかなるという信頼だけで何とか戦う意思を保っている。
そのため、回復魔術をかけている者たちは、分かっているという思いも込めて返事をしたのだった。
「やれ!」
「「「「「……ギュッ!!」」」」」
集まった柊家の魔術師たちを取り囲む巨大モグラの魔物たち。
それに向けて、魔人のモグラ男が指示を告げる。
その指示を受けて、魔物たちはジリジリと魔術師たちに迫りだした。
「くそっ!!」
「来るぞ!!」
誰から出された言葉かも分からないが、その声によって魔術師たちは武器を構えて目の前の魔物に集中した。
そのすぐ後、魔物たちは魔術師たちへと襲い掛かってきた。
「くっ! このっ!」
「キリがない!!」
戦い始めて数分。
さすが名門といわれる柊家に雇われている魔術師たちというべきなのか、何とか魔物たちの猛攻に耐えている。
俊夫を回復する者たちを中心にし、円を描くように人の壁を作り対応しているが、それもいつまで持つか分からない状況だ。
というのも、倒しても倒しても魔物の出現が治まらないのだ。
武器や魔術で何とか魔物を弾き返しているが、戦っていれば魔力が当然尽きてくる。
巨大モグラの強さもあって、魔力が減る速度が速い。
魔力が減れば疲労ものしかかってくる。
そのため、魔物への対応も鈍ってしまうため、このままではジリ貧と言っていい。
「ぐあっ!!」
巨大モグラの爪が、1人の魔術師の太ももを斬る。
直撃ではないが、浅くない怪我だ。
とうとう怪我を負う者まで出てきてしまった。
「お前…たち……、俺…は、いい……、他の…者を……」
「我々のことはお気になさらず!!」
「傷にふれますので喋らないでください!!」
出血を抑え、何とか回復させようとしているが、俊夫の傷は深く、なかなか塞がらない。
怪我人が出てきているため、俊夫は言葉を詰まらせながら、自分よりも他の者の回復をするように伝える。
しかし、いくら当主とはとは言ってもその言葉を受け入れる訳にはいかないため、3人は俊夫の回復を続けた。
「ぐあーーっ!!」
「大丈夫かっ!?」
魔力が切れかけてきたためだろうか。
大怪我を追い、戦闘に参戦出来なくなる魔術師が出始めた。
怪我を負った者は、円の中心へと送るようにして何とか保護しているが、このままではどんどん戦えるものがいなくなってしまう。
そんな中、1人の魔術師が怪我を負って大声を上げる。
側にいた者が、追撃しようとしている魔物を倒して声をかけた。
「……あぁ、片腕やられただけだ……」
仲間に返答するが、彼の左腕は肘から先が斬り飛ばされていた。
前々大丈夫ではない様子だが、精一杯の強がりを言ってっているようだ。
「フフッ……」
「……?」
配下の魔物たちに戦わせて、それまで何もしていなかった魔人のモグラ男は、笑みを浮かべながら斬り飛ばされて落ちていた腕を拾い上げる。
腕をどうする気なのか分からず、斬られた魔術師の男性は首を傾げた。
「ハハハ……なかなか美味いではないか!!」
「なっ!! ……食ってやがる」
落ちていた腕を拾いあげたモグラ男は、ボリボリと音を立てるように食べ始めた。
しかも、その味に満足したのか、上機嫌で笑い声を上げる。
その様子に、やられた末路を想像してしまったためか、魔術師たちはみんな顔を青くした。
「やはり魔物にとって魔力の多い人間が美味というのはたしかのようだな……」
「……何? まさか……」
落ちていた腕を食べ終えたモグラ男は、確信したように笑みを浮かべる。
その言葉に、1人の魔術師が何か違和感を感じた。
そして、どうしてこれだけの数の魔物がここに集まっていたのかの理由が分かった気がする。
以前、八郷の各地に出現した魔物たちににより、何人かが四肢の一部を失う大怪我を負った。
魔闘組合の魔術師たちが駆けつけたことで、死人が出なかっただけでも良しとしていたのだが、それは大きな間違いだったのかもしれない。
人間の肉体の一部の収集があの時の狙いで、八郷地区の名門である柊家の側に身を隠していたのも、魔力保有量の多い人間の一網打尽が狙いだったのかもしれない。
「喜べ! お前ら柊家の人間は俺の食材に選ばれたのだ!」
「……な、何だと……」
やはり、魔術師たちが先程予想した末路こそが、このモグラ男の狙いだった。
先程腕を食べたことで口の中を血で真っ赤にしつつ、モグラ男は両手を広げて偉そうに主張してきた。
完全に上から目線の発言だ。
「柊家当主の味はどんなものか楽しみだ……」
未だ傷が塞がらず、横になった状態で回復魔術をかけられている俊夫を見つつ、モグラ男は涎を垂らしながら舌なめずりする。
俊夫に先程の腕以上の味を期待しているのだろう。
「まだまだ魔物はいるぞ。いつまで持つかな?」
「なっ!?」
「そんな……」
弱っていく人間を見るのも楽しいのか、モグラ男は自分で手を下すつもりはないようだ。
指を鳴らすことによって、またも地面から大量の魔物たちが出現してきた。
かなりの量を減らせたと思っていたのに、また振り出しに戻ったような数を見て、魔術師たちは心が折れかけた。
「くそっ! このままでは……」
敵の数が戻ったが、こちらは怪我人ばかりで戦える人間は半分以下に減っている。
絶体絶命の状態に、魔術師たちの誰が死を覚悟し始めていた。
「ハッ!!」
「「「「「っっっ!!」」」」」
何者かの声と共に、突如竜巻が巻き起こる。
その竜巻に巻き込まれ、多くの魔物が切り刻まれて上空へと吹き飛ばされた。
突然の状況に、柊家の魔術師たちだけでなく、モグラ男も驚きの表情で声が聞こえた方向へ顔を向けた。
「やっと出られたら大変なことになってんな……」
この場にいる多くの者の視線を一身に受け、戦場へと姿を現したのは伸だ。
「……たしか、彼は……」
「……新田とか言う小僧だったな?」
伸の姿を見て、柊家の魔術師とモグラ男が呟く。
柊家の魔術師たちは、俊夫から実力に太鼓判をされた少年。
モグラ男は、昨日殺した木畑へと擬態していた時に、ここまで送ってきた若い人間と言った意識しかない。
「逃げろ、少年!! こいつは魔人だ!!」
「えっ? あれが魔人?」
いくら俊夫に認められていても高校生でしかない。
そのため、柊家の魔術師の1人が、この場からの逃走を指示した。
しかも、驚異度を簡潔に分からせるために、魔人という言葉も付け加えてだ。
その言葉に、伸は驚きの声をあげた。
『あの程度で?』
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