第28話

「フンッ!」


 洞窟内を進む伸たち。

 現れる魔物は全て伸がたちどころに斬り伏る。


「よくこんだけ集まったな……」


 自分が斬り伏せた魔物の山を見て、しみじみと感想を述べる。

 この巨大モグラの魔物は、なかなかの実力を持った魔物だ。

 それがこれほど多く集まっていることが信じられない。

 本当に魔人でもいるのではないかと思えて、嫌な予感しか浮かんでこない。


「収納お願いしていいですか?」


「あ、あぁ……」


 倒した魔物で道が塞がってしまったため、伸は共に行動をすることにした柊家お抱えの魔術師に、片付けるための収納を頼む。

 魔物との戦闘がなくなり、綾愛の警護だけになった彼らは、だいぶ楽に行動できるようになった。

 それにより、収納魔術を使うくらいの魔力は回復したため、泉は伸の言葉に頷いて魔物の死体の回収をおこない始めた。


「……信じられん」


「なんて強さだ……」


「これで高校生だと……?」


 綾愛の頼みもあって伸に魔物との戦闘を任せることになったのだが、すぐにでも援護する気持ちでいたのがバカバカしく思えてきた。

 とにかく出現してから倒すまでの行為が速い。

 苦戦していた自分たちは何だというのだろうか。

 あまりにも強すぎる伸の強さを目の当たりにし、プロの4人は唖然としたように呟いていた。


「っ! また来ました」


『探知まで……?』


 収納し終わったばかりだというのに、またも魔物が出現する。

 それにも驚きだが、プロの4人からすると、伸のその探知の速さも驚きだ。

 周囲を固められた土で覆われているため、探知の精度が通常より鈍る状況だ。

 それなのに、伸は4人よりも速く探知している。


「シッ!!」


 速く探知できれば、その分対処もしやすい。

 魔物が出現してすぐ、伸の刀によって魔物が崩れ落ちた。


「先へ行きましょう」


「あぁ……」


 またも数体をあっという間に倒してしまい、伸は上へと向かう道への移動を開始した。

 それに従うように、4人は綾愛を護衛しながら後を付いて行った。






◆◆◆◆◆


「ハァ、ハァ……、治まったか?」


 他の出口の存在を求めて伸たちが上へと向かうなか、外にいる柊家の魔術師たちは出てくる魔物を相手に奮戦していた。

 その中でも、娘のことが心配な当主の俊夫は、先頭に立って魔物の殲滅に力を入れていた。

 多くの魔物を倒し続けていると、ようやく治まったかのように魔物が出て来なくなった。


「さすが当主様!!」


「獅子奮迅の働きだ!!」


 誰よりも多くの魔物を倒した俊夫に、他の魔術師たちは歓声を上げる。

 娘の綾愛の命がかかっているからと言っても、とんでもない強さををしている自分たちの当主に、改めて感動しているようだ。


「ご当主!」


「あぁ……、すまん」


 魔物はとりあえず治まったように思える。

 戦っていたみんなが喜びの声をあげる中、以前伸を柊邸に招いた時にいた木畑は、動き回って大量の汗を掻いている俊夫へ、水の入ったペットボトルを渡した。

 それを受け取った俊夫は、僅かな休憩として喉を潤す。


「すぐに生存者の確認に向かう!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 水を飲んで一息ついた俊夫は、部下たちに声をあげる。

 中にいる綾愛たちをすぐにでも救いに行こうと考えたのだ。

 綾愛だけでなく、最初に魔物を発見した魔術師たちの班が帰って来ていない。

 彼らも救い出すため、数人ずつの隊になって、洞窟内へと向かう準備を整えた。


「っ!?」


 後は洞窟内へと突入指示を出すという時に、俊夫は異変を感じた。 

 感覚が鈍くなり、体が思うように動かなくなってきたのだ。

 敵の攻撃は受けていないため、このような状態になる理由が分からない。


「効いてきたようですね?」


「木畑……何を……?」


 俊夫の異変に笑みを浮かべながら、木畑が話しかけてくる。

 その反応に、俊夫は戸惑ったように声を漏らす。

 部下の中でも、特に信用している木畑だからこそ、彼の言っている意味が分からなかった。


「さっきの水には麻痺薬を入れておいたのですよ」


「何っ!?」


 先程俊夫が飲んだペットボトルの水。

 その中に入っていた麻痺薬によって、自分が動けなくなっていることを告げてきた。

 それを聞いて、俊夫は驚きの声をあげる。

 木畑が渡してきたため、全く警戒する事無く、しかも動き回った後だったため、結構な量を飲んでしまった。


「……な、何故…こんなことを……」


 木畑により動けなくなったのは分かったが、今この状況でこのようなことをしてくる理由が分からない。

 そのため、俊夫は木畑にその理由を尋ねた。


「答えは……」


「っ!!」


 俊夫の問いに答える木畑の肉体は、おかしな音を立てて変化を起こし始めた。

 突入時の打ち合わせをしていたせいか、周囲の者たちはまだ俊夫の異変に気付かないでいたのだが、木畑の変化によって、ようやく俊夫の方へと視線を向けてきた。


「私が木畑ではないからですよ」


 木畑の変化が治まると、先程まで俊夫たちが倒していた巨大モグラに似た姿の魔物が存在していた。

 しかし、人型に近く、その両腕は筋肉が発達し、魔力も何倍も有している。

 例えるなら、モグラ男といったところだろうか。

 それだけで、先程の巨大モグラよりも何倍も危険な存在なのがわかる。

 しかも、何より魔物でありながら言語を話している。


「き、貴様……、魔人か……?」


 八郷地区に出現した魔物。

 その魔物たちの動きから、その可能性が噂されていた。

 しかし、魔人なんて存在がそう簡単に出現するとは思ってもいなかったが、その考えは失敗だったと俊夫は理解した。


「その通りです……よっ!」


「ぐふっ!!」


 問いに答えるのと同時に、モグラ男は鋭い爪で俊夫の腹を貫いた。

 麻痺薬により魔力も上手く練られない俊夫は、成すすべなく攻撃を食らい、大量の血をまき散らした。


「っと!」


「当主様!!」


 木畑の変化に戸惑い、僅かに反応が遅れた。

 その中でもいち早く動いた者が、モグラ男に槍を突き刺す。

 しかし、その攻撃を難なくかわし、モグラ男はその場から距離を取った。


「貴様!!」


 金縛りのような時間が解け、他の者たちも俊夫に駆け寄るが、崩れ落ちた俊夫からは、大量の血が地面へと流れ出ていた。

 集まった多くの者は、力を合わせてすぐに回復の魔術をかけ始める。

 しかし、かなりの傷のため、間に合うか微妙かもしれない。


「止めを撃てなかったのは残念だが、一番厄介な存在は倒せた。お前たち、やれ!!」


「「「「「っ!!」」」」」


 魔人であるモグラ男の声により、地面が揺れ始める。

 そして、ボコボコと地面に穴が開き、またも巨大モグラの大群が姿を現したのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る