第27話

「泉っ!!」


「「「「お嬢!?」」」」


 伸の丘柄もあり、周囲の魔物がいなくなる。

 そして、伸の背後にいた綾愛は、怪我をしている泉へと駆け寄った。

 助けられた4人は、魔物を倒した伸にも驚くが、綾愛の存在に驚きの声をあげる。


「何故ここへ?」


 何故当主の娘である綾愛がいるのか分からない。

 そのため、井上は思わず問いかけていた。


「大量の魔物の発見を聞いたすぐ後に魔物に出口を塞がれてしまって……」


「そんな……」


 この4人も出口へ向かっている最中だった。

 事前の調査では、出口は1つしか確認されていなかった。

 そこが魔物に塞がれているということになると、ここにいる者たちは外に出る方法がなくなってしまった。


「……あの?」


「んっ?」


 見つけた4人が綾愛と話し始めてしまったため、伸は蚊帳の外になってしまった。

 そして、外に出る方法を考え始めたタイミングで、伸は手を上げて話しかけた。


「泉さんでしたっけ? 怪我を治療したらどうですか?」


 綾愛が駆け寄った泉という人間は、両足に怪我を負っている。

 しかも出血量から言って結構深いように見える。

 ひとまずこの周辺の魔物は倒したので大丈夫だが、いつまでもここにいる訳にはいかない。

 今のうちに回復することを伸は薦めた。


「……我々はここまでの戦いで結構魔力を消費している。彼を回復すると戦える人間が減るためどうするか悩んでいたんだ」


 洞窟内にはまだ魔物が存在しているかもしれない。

 出口が塞がれている今、魔力切れは即刻戦闘不能になってしまうため、彼らは誰かが泉を背負って移動することが良いのではないかと考えていた。


「……柊は回復魔術使えないのか?」


「使えるわ」


「じゃあ、泉さんの怪我を治してくれ」


「分かったわ」


 探知で発見した4人を見てみると、確かに魔力を消費しているように感じる。

 しかし、まだあの魔物と戦うことはできそうだ。

 そうなると、この中で戦うのが危険なのは綾愛だけとなる。

 そのため、回復魔術は綾愛に懸けてもらおうと思った。

 綾愛もその指示の意味を理解しているのか、すぐさま頷きを返した。


「おいっ! そんな事をしたら、お嬢が……」


「そうだ。まだ魔物と戦うことになるのだから、お嬢を危険に晒すことになるかもしれない」


 たしかに綾愛が戦うには荷が重い魔物ではあるが、身を守るくらいはできる。

 そのためにも、疲労を感じるような魔力消費をしない方が良い。

 伸の勝手な指示に、山下は思わずその指示を止めに入ろうとした。

 山下と同じ考えが浮かんだ安井も、伸の指示に異論を唱えた。


「魔物は俺が相手をするので、皆さんは漏れた魔物から柊を守ることに専念して頂ければいいです」


「「「「……何?」」」」


 4人は伸の言っている意味が分からない。

 それもそのはず、伸の強さがまだ分かっていないからだ。

 柊家当主の俊夫からは、実力には太鼓判を押すという話を聞いていたが、所詮は綾愛と同じ高校生という思いが抜けない。

 先程助けられたのも、不意打ちによる攻撃だったからだと思っているのだろう。


「それなら別に平気でしょ?」


「それはできるが……」


「当主様に目をつけられているからと言っても、君も高校生だろ?」


 たしかに、漏れた魔物を相手に綾愛を守ると言うだけならたいして苦でもない。

 しかし、魔物がまだまだいるかもしれないというのに、高校生の伸にだけ任せるということはできない。

 山下と井上は、伸の意見に待ったをかけた。


「大丈夫っす。このモグラ程度ならたいしたことないので」


「この程度って……」


「しかし……」


 強がりなどではなく、伸は本心から言葉を発する。

 自分たちプロでも苦戦しているというのに、高校生の伸にそこまで実力があるとは常識的にどうしても思えない。

 伸が言うたいしたことないという魔物に怪我を負わされた泉が、やや落ち込むように呟き。 

 安井はどうしても納得できない思いをしていた。


「みんな! ここは彼に従ってくれないかしら? 彼はもう何百もの魔物を倒している。ここだけの話、お父様より実力は上よ!」


「「「「っ!?」」」」


 納得できない表情をしている4人に、綾愛が話し始める。

 高校生の伸が、そこまでの実力を持っているとは思えなかったのは自分も一緒だった。

 しかし、意識のしっかりした状況で見た彼の動きは、父以上といっても間違いないと思えた。

 状況が状況であるため、この中で一番強いものが一番戦いやすいように隊を組むのが適切だ。

 そのため、綾愛は伸に代わって4人を説得した。

 その綾愛の言葉に、4人は驚く。

 綾愛は父の俊夫を尊敬しているように思えた。

 その俊夫以上というなんて、相当なことでもない限りあり得ない。

 しかも、自分たちが退避しつつ数十倒した魔物を、伸が数百倒しているというのも驚きだ。

 今嘘をいう意味がないため、4人も綾愛の意見に言葉が出なくなった。


「……お嬢が言うんでしたら」


「そうだな……」


「分かりました……」


「俺も……」


 伸の言うことは信じられないが、綾愛の言葉なら信じられるといったところだろうか。

 4人は順番に了承の返事をした。


「じゃあ、柊頼む」


「うん」


 4人はは完全に納得しているような返事ではないのは、伸も分かっている。

 どうせ魔物を倒せば実力を分からせることはできるのだから、その反応は気にしない。

 それよりも、早々に泉の怪我を治し、体勢を立て直したいため、伸は綾愛に回復魔術をかけるように急かした。


「皆さんは連携して周囲の探知をして柊を守ってください。俺が前へ出て魔物を倒します」


「あぁ……」


 泉の足の回復が済み、綾愛は大量の魔力を消費したらしく疲れた顔をしている。

 しかし、ここからは4人に守られながら進むので、ある程度休憩できるはずだ。

 元の4人組に戻った彼らは、綾愛を中心に据えるようにして体制を整え、伸の指示に頷く。


「それで、これからどこへ向かうんだ?」


「こっちへ行くと上へ向かう道があります。もしかしたら、外に出る隙間があるかもしれません」


 伸の指示に従うのはひとまず良しとして、出口は魔物で塞がっていると綾愛が言っていた。

 そのため、出口に向かう訳にはいかないとなると、どうするのか気になる。

 何か考えがありそうな伸へ、井上は問いかけた。

 洞窟内を探知したことで、ある程度内部の様子が分かった。

 下へ向かっても出口があるようには思えないため、伸は上を目指すことにした。


「……分かった」


 伸のその考えに、4人は目を合わせて頷き合う。

 そして、先程問いかけた井上が代表するように返答した。

 たしかに、人が簡単に出入りできる場所というのはあそこだけだったが、外に繋がる隙間のようなものがあるかもしれない。

 可能性はどれほどあるのか分からないが、何もしないよりかはましだろう。


「では、行きましょう!」


「「「「おうっ!」」」」「うん!」


 そうして、伸は出発の掛け声をかける。

 それに反応するように4人と綾愛は返事をし、先へと進みだした伸の後を付いて行くように移動を開始したのだった。


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