第5話

「昨日の試合を見ていて分かったと思うが、金井のような近接戦特化の人間がいる」


 翌日の魔術の授業で、三門が昨日の伸たちの戦いを例に挙げた説明を始めた。

 了は昨日の戦いで身体強化の魔術だけしか使っておらず、1人だけ魔力を放った攻撃といったことをおこなわなかった。

 魔力を放って戦うというのは、現代にとっては普通のことなのだが、了にはそれができないということだ。


「しかし、魔力を飛ばした遠距離攻撃は、他国から伝わってきた技術に他ならない」


 この世界には色々な種族がおり、魔物や犯罪者と戦ったりすることに使うのは同じであっても、その種族によって魔力の使い方はバラバラだった。

 どこの国にとっても魔物の存在は問題事。

 お互いに技術を教え合い、魔物に対する技術を高め合ってきた。

 

「むしろ、昔に遡ると、大和人としては金井の方が主流だった。刀で戦うにはどう魔力を扱うべきかという観点から発展させていったからだ」


 大和皇国は島国であるため、それによって独自の魔力使用方法が発展してきた。

 刀を主とした近接戦闘の技術が発展し、身体強化技術が他国より優れることになった。

 自分に魔力を纏わせ続けるという技術を向上させ続けたため、自分から離れた場所へ魔力を飛ばすという行為が他国の人間と比べると苦手な部類に入っている。

 それもだいぶ昔の話で、最近ではそこまで差はなくなりつつある。


「何かしらができなくても、他でカバーできると判断すればちゃんと評価する。何かしらに特化した人間は、状況や仲間の援護次第で大きな成果を発揮するものだ。だからみんな短所より長所を伸ばすことを意識するというのも手だろう」


 了のように、時折何かしらの技術に特化した者が出ることがある。

 三門が言いたいのは、了のように遠距離攻撃ができなくても近接戦闘で実力を見せれば、ちゃんと評価されるということだ。

 自分がバランス型の万能タイプだからこそ、三門は特にそう思っているのかもしれない。

 さすが教師を多く輩出する一族の者だ。

 了にとっては、最適な評価を下す人間が担任だといえるだろう。


「話が変わるが、この学園の卒業資格と共に魔闘組合に登録される。分かっているだろうが、魔術関連の仕事に就くには有利な資格だ」


 魔闘組合は魔物を相手に戦うためにできた組織だが、それだけではない。

 最近は犯罪者を捕まえたり、生活向上を目的とした魔術を使った道具の開発なども目的としている。

 直接魔物と戦う前線の人間でなくても、魔術関連の仕事に就くなら魔闘組合に登録されているといないでは収入面で大きな差が出る。 

 国立の魔術学園に入学していて、そのことを知らない人間はいないだろう。


「そして、魔闘組合の人間は関係なく強さが求められる。そのため、2年になったら魔物と戦う訓練も開始されるため、1年のうちにそれぞれ隊(パーティー)を組んでおくように」


 魔闘組合員資格には、【魔物が出た場合、組合員は非組合員を守るために勤める義務がある。】とされているため、自分の身を守りつつ市民を避難させる時間を稼ぐ実力がないことには話にならない。

 もしもの時のために、この学園でも2、3年になったら魔物と戦う訓練をおこなう。

 魔物と戦う場合、1人で戦うようなことはしない。

 もちろん1人で戦う人間もいるが、そういった者は世界トップレベルの人外染みた実力の持ち主でしかない。

 数人で隊を組んで事に当たるのが基本となっていて、隊内の連携や攻守のバランスが求められる。

 組合員の多くは魔術学園出身者であるため、学生時代からの仲間がそのままプロとして隊を組んでいることが多い。

 先のことはともかく、授業のためにも自分たちで組む人間を見つけておけということだ。


「んっ、時間だな。じゃあ授業終わりだ」


 隊を組むことを指示したところで、授業の終了時間が来た。

 それを腕時計の振動で察した三門は、授業を終了してタブレットの電源を消して教室から出ていった。






「隊決めか……」


 昼休みになり、伸は了と共に学食に来ていた。

 国立であるため、基本的に学生は無料となっている。

 評判のいいカレーを食べながら、伸は三門が言っていた隊のことを考えていた。


「伸と俺が組むとして、他にどんなのが必要だ?」


「そうだな……」


 伸からすると、別に隊なんて組まずに単独行動で構わないのだが、とりあえず高校卒業までは目立たなく過ごしたい。

 そうなると何人かで組んで、援護重視の立ち回りをするのが1番だろう。

 決まっているのは了と組むことだけで、まだクラスメイト全員の実力を把握していない今では、組みようがないというのが伸の本音だ。


「おいっ!」


「「んっ?」」


 伸と了が向かい合って話していた所に、声をかけてくる人間がいた。

 その者の方に目を向けると、そこには昨日伸たちと戦った石塚と吉井がトレイを持って立っていた。

 そして、2人は伸たちの許可を得ることなく、そのまま空いてた隣の席へと腰かけてきた。


「……何だ?」


 せっかくの昼休みなので、食事時ぐらいおとなしく食べたいところだ。

 また揉めるようなことはしたくない伸と了は、昨日揉めた相手が何しに来たんだと思った。


「お前ら2人で隊を組むんだろ?」


「あぁ……」


 伸と了と同様に、石塚と吉井も授業で三門が言っていた隊について話があるようだ。

 その話の振り方からするに、この2人も組むことを決めているようだが、何だか伸は嫌な予感がしてくる。


「じゃあ俺達と組もうぜ!」


「……どういう風の吹き回しだ?」


 案の定、石塚が提案してきたのは、予感通りの提案だった。

 揉めたばかりだというのに、何で伸たちを誘ってくるのか分からない。

 何か企んでいるんじゃないかと疑いたくなるような提案のため、伸は思わず真意を尋ねた。


「単純に実力が分かるのがお前たちだけだってことだ」


「……そういや、そうか」


 揉めたからこそ、実力を知ることができた。

 勝った伸たちもだが、石塚たちもそれは同じだ。

 実力が分からない人間を誘うよりも、分かっている人間と組んだ方が良いというのは当たり前だ。

 2人の表情を見る限り、特に何か企んでいるというより、純粋に自分たちに勝った伸たちと組んだ方がやり易いと考えてのことのようだ。

 この2人、結構さっぱりした性格なのかもしれない。


「お前の近接戦、俺と吉井は遠距離、新田は……援護だな」


 昨日の戦いで、伸は了を上手く援護できる人間程度の印象しか石塚にはないのだろう。

 まぁ、確かに少ししか動いていないからそう思うのも仕方がない。

 たしかに、近距離と遠距離のどちらの戦いでも対応できそうな悪くはない提案かもしれない。


「……どうする?」


「保留!」


 伸は別にメンバーは誰でも良いのだが、この2人は揉め事を持ってきそうで気が引ける。

 そのため、了の問いに対し、伸はまだ決定するのはやめておいた。


「おいっ!」


「そりゃねえだろ!」


 せっかく声をかけたというのに、あっさりと断られた2人はツッコミを入れてくる。

 しかし、保留ということはまだ可能性のあるということでもあるので、腹を立てた様子はない。

 結局、その話はそこまでとなった。


「何だ、お前らも入試の筆記よくなかったのか?」


「お前よりか上だと思うけどな」


「でも試合で負けてんじゃねえか」


「「うっ!」」


 隊を組む話はそこで終わったが、4人はそのまま普通に昼食をおこなうことになった。

 全員見事にカレーということもあってか、味の評価から話が弾んでいった。

 すると、伸が思った通り、石塚・吉井の2人も了と同様に的当ての点数が良くて入学試験を受かった口らしい。

 入試の時の筆記のことを話し合っていると、伸以外は結構ギリギリだったという話になっていき、また軽く揉め始めた。

 しかし、昨日のことを了が言うと、まさにぐうの音も出ないといったような表情になった。


『結局こいつらと組んじまいそうだな……』


 なんだかんだ言っているが、3人は結構相性は良いように思える。

 そんな3人を見ていたらこの2人でも良いかと思えてきた伸は、了から言ってきたら受け入れることにしようと考えるようになっていた。


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