第4話
「これから金井・新田組と石塚・吉井組の試合を始める!」
了とクラスメイト達とのケンカに巻き込まれる形になり、試合することになった伸。
審判役の三門によって、ルール説明がされ始めた。
武器は有りだが、訓練用の木で出来た物のみで、大怪我を負わせるような攻撃は禁止。
危険と判断した場合は、審判の三門が止めに入るとのことだった。
それ以外は特になし。
結構大雑把な試合ルールに思えるが、魔物や犯罪者が相手の場合はそもそも審判なんていないのだから、この程度で良いという判断なのだろう。
余談だが、伸は今になって相手の2人が石塚と吉井と言う名だと分かった。
初日の自己紹介は聞いていたが、耳に入っていなかった。
髪型をオールバックをして180cm近い身長のやせ型が石塚、ボサボサ頭で170cm前半くらいの身長をした中肉の方が吉井だそうだ。
2人とも耳にピアスをしていて、若干チャラそうな印象を受ける。
「それでは……、始め!」
「ウオォー!!」
三門による合図によって試合が開始された。
その合図と同時に、手に木刀を持った了が敵の2人に向かって突っ込んで行く。
先手必勝と言う所だろうか。
「へっ! 脳筋バカが!」
「くらえや!」
近付いてくる了に対し、石塚と吉井は右手を向ける。
そして、その手に魔力を集めて魔術を放ってきた。
的当てで使っていた魔術で、野球ボール程の大きさの魔力の玉が了へと飛んできた。
「くっ!!」
足下目掛けて飛んできた魔力球に、了は接近するのをやめてバックステップする。
授業の的当てを見ていたが、石塚・吉井はかなり魔力を飛ばすことが上手い。
全弾的の中心に近い部分に当てていたところを見ると、相当自信があるのだろう。
両手を空けるために、2人とも武器は持っていない。
「くそっ!」
魔力を飛ばせない了からすると、相性的にはかなり悪い。
先程と同じように近付こうとすれば魔力球による攻撃を受けてしまうため、了は一直線に進むのをやめ、左右にステップを踏みながら的を絞らせないように迫ることに変えた。
「接近戦を好むやつなんてただの動く的だ」
「俺たち相手に近付かせねえよ」
「くっ! ふっ!」
自信があるのも頷ける。
2人の魔力球は狙ったところへ飛んでくるため、了がある程度の距離から近付くことができないでいた。
飛んで来る魔力球の速度は速いが、了は身のこなしによって躱せてはいる。
しかし、このままではただ時間が過ぎるだけだ。
『これで良いのか?』
『OK』
石塚・吉井組の魔力球に手を焼いている了だが、躱すタイミングに合わせて、確認するように伸へと目を向ける。
その了の視線に対し、伸は声を出さずに頷きを返す。
試合開始してこうなることは、伸によって伝えられていた。
最初は2人がどう動くかを見て、そこからこっちの攻撃を開始するということだった。
別に伸なら2人程度一瞬で倒せるが、そんなことすれば実力がバレる。
平凡な高校生活のためにも、あくまで自分は了の補助的な立ち位置を演じるため、様子見と言う名の時間稼ぎをしただけだ。
そんなこととは知らず、了は充分動いてくれている。
これで後は予定通りで大丈夫だろう。
「よし!!」
「んっ?」
「何だ?」
伸の頷きを見て、了は今度はこっちが攻める番となったことを理解する。
これまでのようにがむしゃらに近付こうとするのをやめ、了は距離を取るように少し退いた。
木刀を構えて何かする気の了に、石塚・吉井は一旦攻撃をやめて首を傾げた。
「むんっ!」
「身体強化か……」
「だから何だってんだ!!」
魔力を全身に纏い、了は身体強化の魔術を発動する。
身体強化は少し難しいが、高校生になれば使えてもおかしくない。
入試の試験官に勝ったというくらいなのだから、使えることは簡単に予想できた。
しかし、伸とは違い、石塚・吉井の2人は予想していなかったのか少し焦った表情をした。
それでも勝てると思っているらしく、すぐに落ち着いた表情へと戻るが、そんな低い洞察力でよく入試を受かったなと思いたくなる。
了とは反対に、この2人は的当てだけに照準を合わせたのだろうか。
「行くぜ!」
「「っ!!」」
身体強化した了は、試合開始早々と同じく一直線に2人へと走り出す。
しかし、これまでとは違い、移動速度が跳ね上がっている。
その速度を見て、石塚と吉井は慌てて両手を前にかざした。
「この!」「止まれ!」
2人は、これまでのように片手による攻撃ではなく、両手から連射するように魔力球を発射し始めた。
「オラ! ラッ!!」
「吉井! 全力だ!」
「あぁ!!」
倍に増えた魔力球に臆することなく、了は直進をやめない。
迫り来る魔力球を木刀で弾きながら、ズンズンと2人との距離を詰めていく。
それを見て、石塚と吉井はさらに連射の速度を上げた。
「ぐぅ……!」
石塚まであと少しという所まで近付いた了だが、近付いた分防ぐ事しかできなくなる。
連射に対応することに必死になり、その場で膠着することになった。
「お前ら2対2だって忘れてるだろ?」
「っ!? あぶねっ!!」
これまで完全に空気と化していた伸が、ここでようやく動きを開始した。
石塚と吉井の視線から外れるように動き、死角から魔力球を飛ばして吉井に攻撃をした。
吉井は何とか伸の魔力球を躱したが、了への攻撃の手が僅かに鈍る。
「おまっ!」
思わず吉井の攻撃が鈍ったことで、了への攻撃が僅かに治まる。
そのせいで止め切れないと悟った石塚は、後方へ跳び退きながら高速連射を続ける。
「フンッ!」
「何っ!?」
1人だけの手数なら対応できるといわんばかりに、了は石塚へと迫る。
了の反応は素晴らしいが、至近距離の連射の全弾を弾くのは難しい。
連射の内の1つが、了の顔面に直撃すると石塚は思ったが、その魔力球が何かに当たったかのように弾かれた。
「ハッ!」
「っ!!」
まるでそうなることが分かっていたように近付いた了は、そのまま木刀を石塚の首へと振って寸止めした。
「石塚! アウト! ……続けるか? 吉井!」
「……いいえ」
真剣なら首を斬り飛ばされていたところのため、当然石塚は退場となる。
審判の三門は、石塚の退場を宣言し、石塚を援護しようとしたのを伸に止められていた吉井に、試合を続けるか問いかける。
2人でようやく了1人を抑えていたのに、片方がやられては同じように負けることは目に見えている。
勝てないと判断した吉井は、三門の問いにで負けを認めた。
「んじゃ、終了! 金井・新田組の勝利!」
「「シャッ!!」」
吉井のギブアップに、三門は試合終了の宣言をした。
勝利を受けた伸と了は、ハイタッチをして勝利を喜んだ。
「上手く自分を消してたな? 最後は魔力障壁の援護か?」
「はい。了頼みの策っすけどね」
勝利した伸に、三門が話しかける。
伸が了をどう援護するかを楽しみにしていたようだ。
最後に直撃すると思った石塚の魔力球を弾いたのは、伸による援護だ。
的当てを見ていた時から、伸は石塚と吉井が魔力を飛ばした攻撃が得意なのは分かっていた。
その2人相手に、接近勝負の了がどれだけ対応できるかがカギだった。
了は伸の思った通りの実力で、石塚・吉井の意識が伸に向かないようにするという作戦通りの展開になった。
最後は、直撃をさせないという伸の言葉を、了が信じて突き進んでくれたことによる勝利だ。
これで、動き回った了に対し、伸はコソコソ動いていたと観戦していた生徒たちは思うだろう。
「金井の実力は分かっていたが、お前もなかなかだったぞ」
「ありがとうございます」
三門の表情と言葉から、どうやら及第点はもらえたらしい。
おの褒め言葉に、伸は感謝するように頭を下げた。
平凡な高校生活を送るには、このまま三門のようにバランス型の人間と思わせる方が良いかもしれないと、伸は思い始めていた。
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