第26話 異世界攻略 1
結論から言います。
俺、この世界知ってるわ。
青い空、何処までも広がる砂漠の中に四角く石畳が張ってある。
その真ん中に佇む、黒い髪を逆立て鉢巻をした、破れた胴着を着た男。
ファイティングポーズをとったまま、ピクリとも動いていない。
これ、バー○ャファイターだろ。
「あれに近づけば戦闘が始まる。一体倒すと次の敵が出てくる。数種類いる敵を、8体倒せばクリアだ。どんな敵が順番に出るかはその時次第だな」
「…了解。これって、原作通り素手で戦わなきゃいけないんですか?ポリゴンを無理矢理人間にしたみたいで、めっちゃキモいんですけど。素手で触りたくないんですけど」
何でシステムさんは微妙に生々しくするの?
亀とキノコといいさぁ。
あれ絶対中身も入ってるでしょ。
「原作を知っているのか。ここは模造された世界だぞ。原作のルールを守る必要はない。攻略条件が敵を倒せだけだからな。倒せれば何でもいい。だが、今回は剣で戦ってみろ。これから一緒に異世界攻略をするんだ。一応、黒石君の実力を把握しなければいけないからな」
マジすか。
何でもいいなら、離れて無玉ブチこんで終了させたいんだけど。
だが、シンさんが剣で戦えというなら仕方ない。
今日はチュートリアル、言われた通りにやっていこう。
「了解!じゃ、行ってきます!」
大鉄剣を取り出し、生ポリゴンに近づく。
奴とは3mほどの距離、奴はまだ動かない。
先制攻撃をしようと、剣を振りかぶった瞬間。
奴が動いた。
ステップ、一瞬で奴が近づく。
「はやっ!?うごっ!?」
鳩尾に衝撃、腹にパンチをもらった。
ヤバい、思っていたより威力が強い。
生ポリゴンを舐めてた、めっちゃ痛いぞ。
「くっそ…っえぐぅ!?ゴハッッ!ガ!?」
パンチが顔面を直撃、さらにボディに連発でくらった。
血の味がする、口の中が切れたようだ。
…糞ビッチを思い出すな、この痛みと味。
一方的にやってくれやがって、イライラしてきたぞ。
「調子こいてんじゃねぇぞゴラァァァァ!!!」
無の力で奴を軽くするイメージをして、蹴り飛ばす。
ダメージを与えれた気がしないが、大きく吹き飛んでいった。
態勢を立て直し、倒れた奴に走って近づいていく。
「潰れろやオラァッ!!!」
起き上がろうとする奴に、全力で剣の腹を叩きつけた。
地面と剣にサンドイッチされた奴の血が飛び散る。
巻き藁に復讐を果たした時もそうだったが、全力で攻撃した割には手応えがない。
せいぜい蝿叩きで蝿を叩き潰したぐらいの感覚だ。
剣を持ち上げると、潰れた奴の肉塊が転がっている。
グロくてキモいが、それよりもざまぁという気持ちが大きい。
イライラして頭に血が上っているのもあるが、躊躇なくこちらを殺そうとしてくる奴に、罪悪感など感じるのが馬鹿らしくなったからだ。
所詮はシステムの造ったNPC、ちゃんとした生物じゃない。
「あー、なんか吹っ切れた。次から容赦なくぶっ殺しにいくからな、生ポリ共」
何もなかった空間に、髭面おさげのおっさんが現れる。
走って近づき、剣を思いっきり薙ぎ払う。
おさげのおっさんの体が横に両断された。
「おっしゃあ!!初めて斬れたぞ!綺麗に刃が入ればちゃんと斬れるじゃんね!」
初めて剣を刃物として使えた事に、テンションがアゲアゲ状態。
その後の生ポリゴン達も危なげなく試し切りの的になってもらい、無事仮想戦士の世界の攻略条件を満たした。
「最初は敵を倒すのに戸惑っているように見えたが、大丈夫だったな。正直、敵に攻撃をくらった時はどうなるものかと思ったが、良くやった」
「あはは…単純にキレて吹っ切れただけですよ。ところで、気は進みませんが奴等の死体は空間魔法で収納した方がいいんですかね?ニアと亀とキノコの死体を収納してたんで、やり方は分かりますよ」
石畳は奴等の血と肉で真っ赤になっている。
だが奴等には内臓が入っていなかったので、そこまでグロくない。
安っぽいスプラッター映画のセットって感じ。
「空間魔法でか…?あぁ、使徒になって初めての異世界だったからスキルの練習を優先したのか。黒石君、異世界の敵の死体やアイテムは、空間魔法と違って触らなくても半径3m以内で、回収とイメージすれば端末に保管されるぞ。持ち帰れるもの以外は回収できないし、直に持って帰ることもできないがな。空間魔法もその点は一緒だぞ。注意点は、端末に保管できる量には上限がある。上限に達したら契約した神の異世界に置いてもらうか、アイテム欄から処分する、協会で買い取ってもらう等して空きを作るといい。ちなみに、アイテム欄から処分するくらいなら、協会で買い取ってもらえ。そこの死体も全部で500円にはなると思うぞ」
グロ死体に触らなくてもいいのはありがたいね。
つーか、空間魔法さん端末保管のせいで立場無くね?
ニアって、昨日まで空間魔法しか使えなかったはずだよな…。
「あのー、シンさん。もしかして、空間魔法ってハズレのスキルだったりします?」
「…使いこなせなければ、ハズレと言ってもいいだろうな。使いこなせるようになれば、ある程度の距離の好きな場所に自分や物を移動させたりできるんだがな…難易度難しいをクリアできるくらいの神力があれば、少しは使いこなせるはずだぞ。それまでは端末保管より収納できるスキルといった感じだな。勿論、空間魔法の収納にも利点はあるぞ。端末保管は異世界の物しか保管できないが、空間魔法ならそれ以外も収納できる。ショップの使えない異世界攻略に、手ぶらで色々な荷物を持っていけるからな」
晩成型のスキルって事か。
成長するまでは荷物持ちスキルでしかないな。
「…空間魔法しかスキルを持ってない神って、戦闘の異世界攻略で難しいをクリアできるまで神力を上げれたりします?」
「…ハッキリ言えば正攻法で神力を上げるのはまず無理だ。ただ、方法はある。1つは高額だがショップでスキルを買うだ。ただし、戦闘に使えるようなスキルは5000万はするからな。空間魔法しか使えない者が稼ぐには、かなりの時間が必要だ」
スキル高いな。
日本の一般人だったらどれだけ節約しても、5000万貯まる頃には人生折り返してんじゃないかね。
「2つ目は、裏異世界に何度も連れて行ってもらう。裏異世界については、後で詳しく話すつもりだったが少し覚えておけ。攻略課の主戦場だからな。普通の異世界と違って裏異世界は、1日に入れる上限無し、クリアしたらその裏異世界は一度消える、個人の働きは関係無しに報酬は頭割りになる。そして、危険だ。ピンキリだがな。そんな裏異世界に足手まといを連れてパワーレベリングしてやる奴はまずいない。自分が死ぬ可能性が上がる、報酬が減る、クリアできるかもしれない裏異世界が次いつ来るかわからない、デメリットしかない。しかも他のパーティーが同じ裏異世界に行く事を希望したら、抽選になるからな。さて、この話は終わりにしよう。なーに!アヤネさんも、もう黒石君という使徒がいるし、創造神様からスキルも戴いたんだ。それに2人共、ちゃんと成長するまで俺が面倒見てやるんだからな!…ほら、死体を拾ってさっさと帰るぞ!」
「了解ッス!」
格好つけたのが恥ずかしかったのか少し顔を赤くしながらそっぽを向くシンさん。
兄貴ィ、一生かはわからないけどついていきます!
「よし、回収は終わったな。端末を開いて異世界アイコンを押せ」
指示に従い、異世界アイコンを押すと端末から白くて丸い光が現れ、胸に飛び込んできた。
「うわっ!なんか入った!?」
「それが初回報酬の神力だ。攻略条件を満たした後に異世界アイコンを押せば手に入るぞ。亀とキノコの世界の神力は小さすぎて見えなかっただろう?お金は自動的に端末の財布に入ってるから安心しろ」
あの時も神力出てたのかよ。
ま、超簡単なら報酬が小さすぎても仕方ないか。
「帰るぞ、何もしなければ異世界に入った場所に繋がるからな。一服したら次の異世界だ。今日は後2つ攻略するからな。行く予定の異世界は決まっている。急ぐぞ」
「了解!タバコ休憩があるのはありがたいです!」
仮想戦士の世界、攻略完了。
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