第16話 異世界攻略、スキル検証2

「よっし、次はあたしの封縛の力を試す感じでいこっ!」


 どうやら無の力に触発されたみたいだ。

 やる気満々、自称ダウナー系はどこ行った。


「あいよ、でもちょっと待って。気が緩んだらなんかちょっとダルくなってきた」


「あー、確かに使徒になったばっかりの神力であんなのブッパしたらダルくもなるか。普通は少ない神力であんなの発動するとか、絶対無理だけど。レイ様の神力超強化のおかげなんだろなー。ま、ならちょっと休んでなよ。ちょうどこっちに向かって亀歩いて来てるし。あいつが来たらあたしがスキル試すから見てな!」


 色々やってたうちに狙ってた亀がこちらに歩いて来ていたようだ。

 なにあれ、頭からデカい縦長の目玉が飛び出してるんだけど。

 しかも甲羅から出てる部分は肌色だし。

 亀なの?システムちゃんと仕事しよ?


「なぁニア、他の異世界もあんな感じなの?手抜きなんだかリアル志向なんだかわかんねーんだけど。雑じゃね?」


「その気持ちはよくわかるから。でも、難易度低い異世界なんてこんなもんだよ。難易度が高くなるほど世界の創り込みが良くなるんだよね。まぁ、あたしはそんなの動画でしか見たことないけどさ。あたし達は暫く神力上げる為に低難易度の異世界攻略する感じかなー。お金は稼げないけど、その間はあたしの給料でなんとか食べていけるっしょ。贅沢は禁止だから。ここのキノコが明日のご飯になるよ」


 なるほど、システム、あるいは創造神様のやる気の問題か。

 そりゃ単純で簡単な異世界より、複雑で高難度な異世界の方がやる気でるわな。

 というか、今聞き捨てならない言葉を言わなかったか?


「え?ニアが俺の事面倒みてくれんの?」


「当たり前じゃん。神は自分の使徒に責任を負わなきゃいけないの。ま、雇用契約みたいにお金払って働いてもらうわけじゃないから、最初の異世界攻略したらコウには自由に生きる権利があるけどね…。あたしの使徒を辞めるのも自由だよ。使徒じゃないと端末使えないからすぐに他の神の使徒になった方がいいけど。…恥ずいけど、誓ってもらったしそこは信用してるから…うん、ま、そんな感じ。ほら、亀来たし、今度はあたしの番だ!ちゃんと見てろし!」


「そっか!ありがと!ちゃんと見てるからバッチリやってこいよ!」


 うちの女神様がとってもラヴい。

 使徒として頑張るぞい、無の力で無双してやらあ。

 ファッファッファ!あ、今は違う感じだったわ。


「覚悟するがいい…虚ろな魂をその身に抱きしかりそめの玄武よ…我が封縛の力で貴様を在るべき姿へと導いてやろう!」


 おい、痛いぞ三十路。

 本人がノリノリなのはいいんだけどさ、見てるこっちが恥ずかしいわ。

 珍妙なポーズとかしちゃってるし。


「我が名は封縛の女神アヤネ・ニア!虚構へ帰れ!えっと、今回は硬い糸にして…いくぞ!神技!女神繋縛重奏ゴッデスバインドアンサンブル!」


 だせぇ…ネーミングセンスは置いといて、途中素に戻ってますよね?

 封縛の女神アヤネ・ニアは健在でしたか。

 亀がニアの両手から出現した無数の白っぽい透明な糸で縛られていく。

 俺はとりあえずこの戦闘を生暖かい目で見守る事にした。


「糸を引っ張れば倒せる気がする…まだだ!あっ、どうしよ、うん、よし!解放リリース!!」


 亀が糸でバラバラに引き裂かれた。

 うん、漫画みたいだね。

 バラバラ死体、すげーグロいわ。


「ど、どうだ!コウ!我の勇姿は!」


 ほんと自分の呼び方安定しないなブレブレ女神よ。

 でも技の名前はともかく、地味に格好良かった。


「良いんじゃない!?格好良かったぞ!成長したらもっと良い感じになるんじゃないか!?」


「うひひ、だよね!だよねっ!格好良く敵を倒したのなんて初めてっ!あぁ!もっと、もっと成長して強くならなきゃっ!」


 内容はあれだったけど、凄く嬉しそうで良かった。

 満面の笑みで跳び跳ねながら喜ぶ姿を見るとこっちもほっこりするわ。


「あっ、コウ!!キノコが隣に!」


「へ?うおっ!いつの間に!」


 土管を背にして休んでいたのだが、どうやら後ろから回りこんで来たみたいだ。


「この封縛の女神!アヤネ・ニアに任せろ!今度は鎖だっ!喰らえっ!女神繋縛重奏ゴッデスバインドアンサンブル!」


 キノコに太めの黒い鎖が巻き付く、嫌な予感がしますよこれは。


「おい!?鎖じゃ綺麗に切れないんじ…」


解放リリース!!」


『あ…』


 キノコがね、死んだよ。

 鎖でぐちゃぐちゃに潰されてね。

 そりゃあ満遍なく潰されたらさ、デカい目玉2つも弾けるさ。

 至近距離にいた人は悲惨だよね。

 目玉の謎汁スプラッシュが直撃するから。

 俺は今までの人生でよっぽどじゃないと吐くことはなかったんだけどさ。

 口の中にまで謎汁が入ると、我慢できなかったよね。

 だって、滅茶苦茶クサイし苦いんだもん。


「ヴおえぇぇぇっ!!…ヴッ…エェェッ…」


「コ、コウ!ゴメン!違う、わざとじゃないの!!うっ,,くっさっ!!あああ、どおしよ!?」


 チキショー!わざとじゃないのは分かってるしオロオロしてる姿も可愛いな。

 だがいかんせんこっちも、胃の中身を解放リリースしてるんで気にするなとも言えないのよね。


「ゴメン!ゴメン!調子に乗っちゃったの!エッチな事以外なら何でも言うこと聞くから!許して!お願いします!!」


 だんだんとこの臭いに慣れて吐き気が収まる。

 ニアがとっても魅力的な提案をしてくれた。

 うん、俺がニアにして欲しい事が決まったよ。

 酸っぱ臭い口でニアにお願いを告げる。


「ニア、これから戦闘中は中二病禁止な。ちゃんと言うこと聞いてくれよ?」


「はい…。ごめんなさい」


「無理に格好つけなくてもちゃんと良く戦えてたぞ。封縛の力、ニアにぴったりなんじゃない?俺はあんな感じのスキル好きだぞ」


「そうなの?うひひ、ありがと!」


 ふぅ、一件落着と。

 俺はくっさいままだけどね。


 その後、落ち着いたニアが自分の収納から500mlのペットボトルに入った美味しい水を4本と、タオルを出してくれた。

 謎汁が直撃した頭を洗い流し、服にかかった部分を拭き取ると、ちょっと臭うくらいの状態になったので先に進む事にした。


「それじゃ真っ直ぐ旗に向かって歩いて、?箱から普通のキノコを回収してから帰る方針でいこっか。途中で出た亀はあたしが、キノコはコウが倒していこ」


「了解、張り切っていきますか」


 最初の?箱までに亀とキノコに一体ずつ遭遇したが、今度はお互いに落ち着いて倒した。

 ニアは亀の首だけに糸を巻き付け、首チョンパ。

 瞬殺、死体も綺麗だしサクッと収納する。

 俺はまた不幸な事故が起こらないように、キノコから離れた場所で無玉に最小限の力を込める。

 今度はビー玉位のサイズでバリバリしてない。

 片手で銃の形を作って人差し指から撃ち、着弾したら爆発するイメージだ。

 結果は威力を抑える事には成功したが、それでもオーバーキル。

 キノコは跡形もなく爆散した。

 離れていて正解だったよ。

 クサイのはもうコリゴリでヤンス。


「威力はとんでもないし、見栄えも良いけど使いづらそう。近くで使われたくないわー」


「それな、近距離で使ったら巻き添え喰らうわ。ま、成長したら使いやすい技が増える事を祈るしかないかね。で、?箱に着いたけどこれどうすればいいの?叩くとか?」


「そうそう、叩いた所から生えてくるから逃げられないように捕まえて。この場所の?箱はキノコで間違いないから」


 普通のキノコを採集するには不穏な言葉が混じっていた気がするが、とりあえず叩いてみよう。

 ?箱を軽く叩くと、赤い傘に白い丸模様、両手で抱えられる位のずんぐりしたキノコが生えてきた。

 滑りながら移動し始めたのでとりあえず捕まえて観察してみる。


「…なぁニア、美味しい普通のキノコって言ってたよな。なんか目玉付いてるし生き物だよなコレ。目付き悪いキノコと違って、愛嬌ある目玉でちょっと可愛いんだけど」


「ん?そりゃ付いてるよ。原作でも付いてるし生きてたっしょ。貸してみ、早いとこシメて収納しないと。生きてると収納入んないからさ。次はコウにやってもらうからよく見てなよ。こうやって、目玉のちょっと横に手を差し込んで、奥から指で目玉を手前に優しくグリグリすんの。ほら!ボロッと目玉落ちたっしょ?もう片方も同じように、っと。両目が落ちると死ぬからそのまま収納に入れれば終わり。コイツの目玉も潰すと謎汁出てクサイから気を付ける事、食べれなくなるからね」


 キノコだからか血とかは出てないけどエグくない?

 これ、小学生が小遣い稼ぎでやってるのかよ。

 足元に転がる目玉が俺を見てる様な気がして、精神的ダメージ半端ないんだが。


「……俺もやるの?なんか魚シメるみたいに淡々と殺ってたけどさ。素手で、少し可愛い生き物の目玉を生きたままほじくるのは、ハードルが高いというか…」


「あっ、こういうの無理系なタイプだ。女子は無理な子多いよ、あたしは平気だけど。じゃあ、普通のキノコの処理はあたしがやるからいいよ。無理強いしたって嫌なもんは嫌っしょ?」


「悪いけど頼むわ、正直まだ殺す感覚に慣れないし。目付き悪いキノコ殺すのも、少し罪悪感あるんだよね」


「しょうがないって。地球、特に日本じゃグロも好きな人しかあんまり見る事無いんでしょ?これから慣れるしかないね。でも、覚悟はしてて、見た目完全に人間の敵もいるからね。割り切れないと病んじゃう人もたまにいるし。神界の異世界にいる生物は、本物の魂が入ってないって事はしっかり覚えてて。システムの創ったゲームのNPCくらいに思っておくといいよ」


 神界で生活するには考え方が甘かったかもしれないな。

 システムが地球の物語をパクって異世界創ってるなら攻略するのに殺しなんて常識だろ。

 ラヴ&ピースでモンスターや魔王がいる異世界攻略なんてまずありえない。

 なんの為のスキルだって事だよな。

 うし、気持ちを切り替えていこう!


「やっぱ俺もキノコの処理やるわ!こんなのも出来ないで異世界で無双なんて出来ないしな!」


「そっか、ま、無理しないで頑張りー。お腹減ったしさっさと終わらせよ」


「オッケー、さっさと攻略するべ」





 その後、普通のキノコを3匹自分でシメた。

 やっぱり少し気持ち悪さはあったが、NPCだと思う事にしたら罪悪感は薄れた。

 亀はニアが倒して死体を収納したが、キノコは俺が爆散させるので放置。

 フラワーの出る?箱は今回はスルーらしい。

 そんなこんなで旗に到着。

 5m位の棒の天辺にある、白い布にドクロマークが書いた旗を触ればクリアらしい。


「コウが上に登って触ってきて。あたしが登ったらスカートの中絶対覗くし」


 紳士としてそりゃあ覗きますよ。

 覗かない方が、あなたのスカートの中に魅力を感じない、って感じで紳士として失礼じゃないかと思うんだけど?

 まぁ、試したい事もあるし黙って俺が登りますけどね。


「はいよ、無の力で簡単に登れそうだから任せとけって。じゃ、行きまーす!」


 無の力で自分を軽くするイメージをしてジャンプする。

 イメージ通りふわふわとゆっくり上昇、旗に触って棒を掴んだら、スキルを解除して滑り降りる。


「何?今のやつ、楽しそう」


「スキルの説明でも言ってたじゃん。多分無重力とかそんなの。とりあえずこの異世界は攻略したってことでいいのか?」


「なるほどね。うん、攻略済み。んじゃ、右手あたりにでも端末出てくるイメージして」


 右手に端末をイメージ。

 すると重さを感じない、薄くて縁が黒い端末が出てくる。

 見た目完全にスマホだなコレ、画面には異世界、ショップ、ステータス等書かれた項目がアプリの様に並んでいる。


「ちょっと見せて、神と使徒の端末じゃ性能違うからさ。…うん、その異世界のとこ押して。亀とキノコの世界(済)ってこの世界の情報表示されたっしょ。初回攻略が終わると、攻略した異世界の名前に(済)って出るんだよね。報酬とか攻略条件は今はいいから飛ばして、帰還、ってあるじゃん。そこ押してみ」


 地球でやってたようなゲームに近いな。

 主人公が生身の自分で命の危険もある事を除けばだけど。


「了解、帰還をポチっとな。あれ?端末が消えた…うお!?扉が出て来たんだけど!」


 何も無かったはずの目の前に、急に木製の質素な扉が出現。

 神界に来てから、何度かこういった扉で移動しているのを見た。

 今まで見てきた扉と違って地味でボロっちいけど。


「その扉の中に入れば神界に戻れるよ。基本的に異世界に入った場所へ戻るから、さっきの応接室だね。じゃ、帰ろっか」


「なるほどね、了解。帰ろ帰ろ、疲れたわ」


 扉を開くと向こう側は全体が白く輝いていた。

 そういえばメイさんにおんぶされて扉をくぐったなぁ、なんて思っていたらニアが先に帰ってしまった。

 振り返って、もう一度異世界を見渡す。


「うん、楽しい。女神様も可愛いし。使徒になって正解だったわ。糞ビッチが協会にすぐ連絡してたらこうはならなかったかもしれんし、ある意味感謝だな。これから頑張ろっと」


 これから始まる神界生活に期待に胸を膨らませながら、ボロっちい扉の先へと足を踏み出した。















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