第25頁 小さな宝物
2月20日、正午、アサヒのログハウスの隣。
「ん?」
ネズミたちを埋めた後、ふと背中に視線を感じた。振り向けばそこには……
「雪だるま?」
何とも立派な雪だるまが。僕の身長くらいはあるだろうか。首元にはマフラー、目鼻口もきちんと作られている。
アサヒさんが作ったのかな? あれ、でもさっきまでここにありましたっけ?
「……ん?」
しげしげと観察していると、今瞬きしました? あ、また動いた。普通の雪だるまって動きませんよね? と、いうことは……
「こんにちは?」
「uibwn」
確信を持てずに告げた僕の挨拶に、しっかりとした返事が返ってきた。まさかと思ったけれど、やはり異形なのですね。
そして雪だるまさんは再び僕にペコリとお辞儀をすると、ログハウスの方へ。コンコンと壁を叩いている。
「あ、こんにちは、雪だるまさん」
「atmj7~o6」
出てきたアサヒさんと楽しそうな会話が始まった。動く雪だるまって実在するんですね。おとぎ話のような存在に、感動を覚える。
見た所特に怪我をしている様子はないし、治療のためにアサヒさんを尋ねた訳ではなさそうだね。良かった。
「わぁ、今回はたくさん貰えたのですね」
「54n2hatw」
「それは良かったです」
「baonp、fpwakgpaw]。ma」
「陸奥さんにですか?」
あれ、今僕の名前が出ましたか? アサヒさんたちの方を見れば、ちょうど雪だるまさんと目が合った。すると、恥ずかしそうにしながらも、ニッコリと微笑んでくれる。
「陸奥さん、今お時間いいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「雪だるまさんがお見せしたい物があるようなのです」
雪だるまさんから楽しそうな音符が出ているような気もするが、軽い足取りで僕の元へ。見せたい物とは何なのだろうか。そう言えば、さっきアサヒさんにも何か見せてましたね。
楽しみにしながら見つめていれば、胸のボタンを開けて、パンパカパーンとコートらしき服を開帳。そこには、ビー玉や綺麗な石、貝殻など色とりどりの品々が。
「これは?」
「i@hgwsn,nbuoj.rg@gabi」
「村で佇んでいると、子供たちがくれるそうです。『雪だるまさんどーぞ!』と」
アサヒさんの言葉を通じて浮かんだ、微笑ましい光景に思わず口元が緩んだ。
大人の身長ほどある雪だるま。もし村に現れたら、不気味さも忘れて子供たちは大喜びするだろう。そしてそんな存在に自分の宝物をお裾分け。これは子供たちの宝物の欠片のようだ。
「jtpamtgawtj,agajtj37j2tpw,jpj5m5」
「『関わってくれることが嬉しくて、毎年冬になると人里に降りているんです。彼らが触れてくれる手が温かく、今も胸に残っています』」
「uahbn]w]akge]b」
「『子供たちがくれた宝物は、大切に家に保管しています。今年も新しい思い出が増えることを嬉しく思うのです。彼らの優しい心を、あなたにもお伝えしたくて』」
照れくさそうにはにかみながら呟かれた言葉を、アサヒさんが声に乗せて紡いでくれた。
聞いている僕の方が温かくなるような、優しい時間。ほんの少しのその関わりでも大切に持ち帰ろうとしてくれる雪だるまさんに、じんわりと胸が熱くなった。
「良ければ貰ってくれませんか?」
気がつけば、僕はそう伝えながら、付けていたネクタイピンを差し出していた。すると雪だるまさんは驚いたように手を上げて、ぶんぶんと首を振る。
「ksjgux」
「『違うんです。何かをいただこうと思い、見せた訳じゃなくて』」
「分かってます。だけど僕が貰ってほしいと思ったんです」
雪だるまさんの中でキラキラと輝く思い出たち。素敵だと思ったし、純粋に羨ましかった。
「雪だるまさんが大切にしてくれる思い出の中に、僕との関わりも入れてもらいたいと思ったんです。ダメでしょうか?」
「hubrsb」
「『いいのですか』」
「もちろんです」
「bgos@,oraemm」
「『ありがとう、ございます』」
ソロリソロリ、と、まるで高価な宝石でも扱うような丁寧な仕草で、僕のネクタイピンを受け取ってくれた雪だるまさん。そして嬉しそうにニッコリと笑ってくれる。
「こちらこそ、ありがとうございます」
雪だるまさんとのやり取りは、僕の中でもキラキラとした思い出として残りそうだ。胸がポカポカと温かい。
※※※
2月20日、午後5時、アサヒのログハウス。
「onsbml」
「お気をつけて。陸奥さん、雪だるまさんが境の奥へ帰るそうです」
しばらく雪だるまさんが話してくれる子供たちとの思い出に耳を傾けていたが、徐々に辺りが暗くなり始めていた。
「busn@b」
「『たくさん話を聞いてくれてありがとうございました』」
「いえ、楽しかったです」
ぺこりとお辞儀をして、雪だるまさんが堺の方を振り返る。その方角には、人間が異形の天敵である鉛で作った25m越えの柵が。木々の間からほんの少し柵が見えていた。柵を見つめる雪だるまさんの瞳が、悲しそうな色を示したのは、気のせいではないだろう。
「境のギリギリまで、ご一緒してもいいでしょうか」
「uvbs@n」
「やった! ありがとうございます!」
頷きながら微笑んでくれる雪だるまさんに、思わずガッツポーズが出た。
花ネズミたちの脅威の身体能力の話を聞いてから、ずっと気になっていたのだ。本当に異形たちは25m越えの柵を「ぴょん」と飛び越えることができるのか、と。その瞬間を、是非とも見てみたい!
……それに何より、あんなにニッコリと笑ってくれる雪だるまさんに、悲しい顔で帰ってほしくないって、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます