第17頁  寂しい背中

「u@ahe」


 えぐえぐ、と天狗さんが泣く中、僕はぼんやりと考えてみる。先ほどの天狗さんの仕草には見覚えがあるのだ。僕自身何回かやらかした時にやる。そう、落とし物をした時にやる仕草にそっくりだった。きっと、天狗さんは何か大切な物を失くしたに違いない。本人が川に流されてたし、きっと巾着の口が緩んで中身が出てしまったんだと思う。




※※※




「落ち着きましたか?」

「sh@bnmb」

「何か失くしたんですよね? 一緒に探しますよ」

「atpatx!」


 僕の言葉を聞くと、ぱぁぁぁと顔を輝かせながら膝から下りる。そして地面に転がっていた木の棒を拾ってイラストを描いてくれた。


「これって……」


 出来上がったイラストは葉っぱ。うちわみたいな葉っぱだ。おとぎ話とかで描かれる、天狗がよく持っている奴だね。実際に持ってるんですね。

 だけどあの小さな巾着に入るくらいの大きさってこと? だいぶ小さいな。見つけられるかな。


「jm……p」

「!?」


 僕が不安げな表情をしていたせいか、天狗さんの瞳からポロポロと涙が復活。あぁ、待って、泣かないで。ちゃんと探す! 探しますから!


「大丈夫です、きっと見つかりますよ。手分けして探しましょう?」

「jtpmw」

「僕は下流の方を探します。天狗さんは上流の方をお願いできますか?」


 下流の方は村の方に近い場所になる。いくらこの山に人が近づかないとはいえ、彼が探しに行くのは少々危険だろう。


「2pw6!」


 天狗さんは相当嬉しかったみたいで、僕の首に腕を回してハグをしてくれる。だけど、あ、の、ハグをしてくれるのはいいんですけど……ちょ、ちょっと、力加減考えて、くるしぃ。首締まってます、締まってます! 死んじゃうよ! くっ……全然剥がれてくれないっ! 嘘でしょ、こんなに小さい子なのに力が強い!


「ケホッ、コホッ……意識、飛びかけた」

「?」


 天の迎えが来る直前で、離してくれた天狗さん。僕が酸素を取り込んでいる間、キョトンと首を傾げていた訳だけど、この子無意識で僕を殺しにかかったの? なんて子なの!? 危ない、危険すぎる。小さいからって油断してたけど、結構力強いんだね。




※※※




 2月15日、午前11時、川の下流。


「高いな」


 天狗さんと別れて、とりあえず僕は滝の下までやって来た。上から見下ろした時も迫力が凄かったけど、下からは下からでなかなか凄い。ゴウゴウと凄まじい音を響かせて、落下してくる水。そして弾ける飛沫。

 ……僕はあそこから落ちていたかもしれないんだよね。なんと恐ろしい。絶対死んでたじゃんか。落ちなくて良かった。陸万歳、愛してる。


「さてと、葉っぱを探し……ん!?」


 早速探し物をしようかなと思っていると、僕はとんでもない物を見つけてしまったかもしれない。

 視線を注ぐその場所には、川の中に大きな石が。その石により邪魔されて、水がクルクルと回っている。それ自体は全然珍しいことじゃないんだけど、その回転している水の所に……


「めっちゃあるじゃん」


 先ほど天狗さんが描いてくれたイラストそっくりの葉っぱが、そこにはあった。しかもその数15枚は超えているだろう。

 えっと、この中に天狗さんが探している葉っぱがあるのかな。とりあえず一枚手に取り、持ち上げる。しかし……


「え、大きくない?」


 僕の顔より一回り大きかった。んー、これをあの巾着に入れるのは無理があるよね。まさか小さくできるなんて、便利な力があるとも思えないし……え、ないよね? そんな便利な力。




※※※




「よいしょっと」


 結局僕は両手いっぱいの葉っぱを持って、天狗さんの元へと向かっている。あの後更に川の下流の方を見てきたけれど、それらしい物は見つからず。違うのではないかと思いながらも、葉っぱを抱え歩いている。


「あ、天狗さん」


 僕が戻ると、川岸に体操座りしている天狗さんの姿が。小さい背中を更に小さくしたその様子は、とても愛おしく感じた。きっと彼が探した上流には、葉っぱが見つからなかったのだろう。その寂しい背中が物語っていた。


「天狗さん、戻りましたよ」

「atpwm2」

「この中にあるといいのですが」

「‼」


 抱えてきた葉っぱを地面に下すと、ぱぁぁぁと輝かせながら天狗さんが走ってくる。自分の葉っぱを見つけたのだろうか。というか、このサイズの葉っぱで合ってるんですか。なんか僕がさっき立てたフラグが回収されるような気がしてきたぞ。

 まぁ、でも天狗さんが喜んでくれるなら何でもいいかな。すごくニッコニコなこの笑顔を見ているだけで癒される。さて、彼は一体どの葉っぱを待ち望んでいたのかな。一枚一枚手に取り眺めている天狗さんの行動を待っていると……


「えぇ」


 天狗さんは僕が置いた葉っぱ全部をぎゅうと抱きしめた。全部あなたのなのですか? どんだけ流されてるんですか? その小さい巾着によく収納されていましたね。


「見つかって何よりであります」

「sojrm ,」


 僕の苦笑いに対して、天狗さんは満面の笑み。うんうん、良かった良かった。彼が笑ってくれるなら、もう何でも良くなってきた。でも次からは気をつけてくださいよ。


「ibson@」


 そして天狗さんは、再び懐から巾着を取り出す。だけど、あれ? それはさっきと同じ巾着袋ですか? さっきは目を閉じた状態の顔が描かれていたような気がするんですけど、今はパッチリ目が開いている。僕の見間違いかな。

 僕が目を擦っているうちに、天狗さんは巾着袋の口を広げ、葉っぱのほうに傾けて……


「……」


 見事にフラグが回収されましたね。某有名なピンク色の丸いキャラクターの吸引力が如く、あっという間に15枚の葉っぱが吸収されてしまった。そして、巾着の口をしっかりと紐で結び、満足げに懐へしまっている。もういろいろ突っ込みたい所はあるけれど、キリがない気がするので、僕は何も言わない。

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