第78話 バトルジャンキーどもに無理矢理連れてこられた戦場で、機動要塞に睨まれて、俺はもう限界です!
「ピェァァァァァァァァァァァァ」
首根っこを捕まえられた俺は、まるでクマに抱きかかえられたシャケのような気分を味わっていた。ハチャメチャな速度で敵味方が一瞬で通り過ぎていく。やだーーー! こんな地獄、絶対にやだーーー!
ビチビチビチビチ。俺のキャバリーがせめてもの抵抗を行うも、完全にホールドされており、何の成果も得られない。むしろ、バランスに狂いが生じ、俺の目の前――空防越しだが――をレイザーが駆け抜けた。ヒィッ!
『ハハハハハハハハハ! まあ、暴れるな。スリルを味わいたいなら止めはせんがなぁ!』
あかん。暴れたら余計にヤバい。イヴァルともども撃墜されて、さよならこの世、こんにちは来世である。こうなったら、俺の目的は一つ。逃亡して幸福を得る……。それだけよ。それだけが満足感よ!
しかし、現実は非情である。遠距離攻撃型キャバリーのくせして、やたらと出力が高い! 無駄にカネをかけすぎである。もうちょっと節制しろぃ!
『ホゥラ、ここが激戦区。地獄の中の地獄よ! さあ、心ゆくまで愉しもう!』
ちょっとなにいってるかわからない。俺は、激戦区に来て笑っている皇族の正気を疑った。こんなバトルジャンキーな奴と同じ血が半分でも俺にも流れているのか……。実に怖ろしい話だ。俺は戦いなんてマジ無理。ごめんである。
『イヴァル殿下。自分が先行します!』
イヴァルの視線の先に躍り出た連邦のキャバリー。カスタム機らしく、かなりの腕前を誇っていたとみえるが、イヴァルとエイジの前にはただの雑魚キャラでしかなかった。ほぼ同時に、銀光の流星となったシルヴァリオンに両断され、更にノスフェラトゥが吐き出した毒々しい血色の光線に炙られ、爆発四散した。おお哀れな……。
『ほう、貴様……。自分の討ち漏らしを余に供するだと? 不遜だな』
傲岸不遜天上天下唯我独尊なイヴァルが獰猛さを隠そうともしない声を放つ。こいつ――自分の獲物を取られるのがそんなにイヤか。バトルジャンキーの考えはわからん。敵を倒してくれるって言ってるんだから、任せればいいじゃないか。さっさと安全圏へと逃げたい俺からみれば、願ってもないありがたい話だ。
大丈夫だ。たとえ百人に囲まれていても主人公サマならなんとかなる。
『……が、余は許そう。貴様の腕は帝国にとっても得難い財産だ。それに――兄上の大事な兵だ。余が誅罰するわけにもいくまいて』
……ほらな? 俺なら多分同じこと言ったら殺されている。間違いない。
『イヴァル殿下……』
『しかし、だ。余は皇族。貴様に遅れを取るなど名折れも甚だしい。したがって……』
ノスフェラトゥの後方に敵影。同時にシルヴァリオンの背後にも――。
唐突に顕れた彼らは、顕れた時と同様に唐突に退場していた。シルヴァリオンの剣がノスフェラトゥの背後の敵を突き貫き、ノスフェラトゥの光線がシルヴァリオンの後方の脅威を寸分違わず撃ち抜いていた。とんでもない奴らだ。一緒にされたくない。
『ここからは競争だッ! 余の周囲コンマ50に位置する帝国兵に告ぐ。これより一切の行動を禁ずる。これは厳命である!』
そう叫ぶやいなや、イヴァル機は俺を放り投げる。そして。複雑に回転しながら周囲にレイザー弾を乱れ撃った。うわっ。あ~れ~と叫ぶ間もなく、俺のコクピットをかすめるレイザービーム。恐ろしくて反応できなかった……。宇宙のねずみ花火と化したノスフェラトゥから発せられた光線は、周囲にいた連峰のキャバリーのことごとくに着弾していた。曲芸と呼ぶにはあまりに剣呑な攻撃……。あと、数センチでも動いていたら、俺も蒸発させられたか宇宙に放逐されていたかもしれん。
『帝国兵よ。行動を許す。我ら帝国に仇なす不埒者を誅滅せよ!』
皇族の威厳で銀髪の皇子が命じると、先ほどの神業を視たからか、にわかに伯爵軍が勢いづいた。前線に立ち雄姿を見せつけるイヴァルは、確かに皇族たる責任を負っているのだろう。均衡していた戦いの天秤は、帝国側に僅かとはいえ傾き始めていた。
そこに、鮮烈な銀色の流星が瞬く間に敵機を一掃していくのだ。古い英雄譚めいた姿は、心奮い立たせるには充分な輝きを放っていた。
だが、連邦が対策を講じていないわけがなかった。
『ッ!』
極太のビームが戦場に迸り、飲み込まれた哀れなキャバリーが融解し、爆裂の大華を咲かせた。それだけに留まらず、周囲にいたキャバリーたちも、光線が生み出した高熱の余波だけで耐熱限界を迎えて爆発していく。
『我が兵を……! おのれ、何者だ?』
光線の発生源を睨むイヴァルとエイジ。俺は放り投げられた時の勢いで目が回ってそれどころではない。
『! ヴァーゲンブルグか!』
ヴァーゲンブルグ……。なんだったか。眼球はおろか脳内まで撹拌されて朦朧とした俺に、巨大な機影を視た瞬間に走った電流。そうだ、思い出した。
俺の記憶通りに、そいつはキャバリーをゆうに超える巨体を見せつけていた。キャバリーさえも小さくみえるそれは、小型機動要塞。
『フン、ウドが。去れ』
イヴァルのノスフェラトゥが熱光線を撃った。驚くよりもまず、攻撃を仕掛けるところが戦闘民族っぽい。紅の光線は周囲にいる連邦のキャバリーを呑み込みながらヴァーゲンブルグへと向かい、その巨体に大穴を――
『――ッ。いかん!』
開けなかった。
それどころか、透明な障壁が兇悪な吸血鬼の毒を遮り、周囲へと拡散していく。威力そのものはあまり減衰されていないらしく、触れたものを融解せしめる熱量が降り注ぐ。即座に撃ち込んでいた光線をキャンセルしたイヴァルだったが、野放図に反射された光線は敵味方の別なく被害をもたらしていた。
『貴様ァ!』
激昂するイヴァルの声に応じるように、今度はシルヴァリオンが仕掛けた。右手に握った剣を振るう。質量攻撃ならば、障壁を破れるかもしれないとの判断なのだろう。しかし、月姿刀の一太刀さえも障壁は遮ってしまった。
「ウッソだろ……」
ヴァーゲンブルグ、ゼルヴェルア。登場するまで数年かかるはずの連邦が開発した試作機動要塞。エイジとイヴァルをもってしても、勝てるかどうか怪しい強敵。シルヴァリオンと同じく、本来まだ姿を現さないはずの機体が、俺たちを感情のないカメラアイで睨んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます