第77話 リベルはケチな二等兵でさぁ、へへっ!
あれ? なんか、敵が目の前にいるんですけどォォーー?
周囲の動きに合わせていたら、敵でした……なんてシャレにならないぞ!
「ぶええええ⁉ なんでなんで? 連邦なんでぇぇぇぇぇ! きぃぃぃぃぃやああああああ」
反射的に身を引いた瞬間、コクピット目がけてビームが放たれていた。あと、ほんの僅かでも遅かったら、俺は宇宙のもずく――じゃない、宇宙の藻屑だ。……そもそも藻屑なんて宇宙にはないか。
いつの間にか俺の隣りにいた友軍(ということにしておこう)が、俺を撃ってきた連峰のキャバリーを一発で仕留めた。爆発するキャバリー。俺も一歩間違えていたらああなっていた、と思うと背筋が凍る。
俺はブリブリ思った。
そのキャバリーは原型が何なのかわからないほどカスタムされていた。或いは、本当に一から製造されたオートクチュール機なのかもしれない。全体的に黒く、しかし、ところどころに深紅と金の装飾が施されている。外側が黒く、内が紅い翼膜は吸血鬼のマントみたいで、中二カッコいい。俺も、自分が乗りたいとは思わないが、ロボットに心ときめくほどにはオトコノコである。
とりあえず、俺の生命を救ってくれたキャバリーに手を上げて礼を告げようとした、ら……?
「イ、イ、イイ、イ……イヴァルゥゥゥ~~~?」
なんか、妙に見覚えのある方がコクピットに座ってらっしゃるじゃあ~りませんか!
なんで、こいつがこんなところにいるのか。普通、
そして、この疫病神2号がいるということは、だいたいの場合、疫病神1号が……
次々と両断される連峰キャバリー。すれ違いざまに機械兵を破断していく流星は凄まじく疾く、だというのに小回りもきいている。
『イヴァル殿下、あまり前に出られぬようお願いいたします。殿下の露払いは自分が努めますので』
出た……。疫病神、不滅絶対のナンバー1。エイジ・ムラマサ。しかも、なんだあの機体。あれ、シルヴァリオンじゃねえか! いや、なんか未完成って感じだけど、むしろ模型で展開される裏設定的なバージョンっぽい。
白と銀を基調とした機体は、流麗さがあった。高速戦闘を重視した設計だからだろう。しかし、機体そのものの優美な陰翳は現在崩れている。両脚はまだ建造途中のようで脛から先は存在していない。左腕ももしかするとまだないのか、その代わりに外套じみた装甲が備え付けられている。 これはこれでかっこいいが、俺としてはこんな代物をエイジが使っている事実がもたらすであろう未来の方が気になる。
そして、シルヴァリオンを特徴付ける装備の一つ、レイザーマントがはためいている。大気のない宇宙空間で何故光学的なマントが翻るのかは、設定資料集かなんかで解説されているんだろうが、俺は読んだことがない。まあ、アニメ的な演出にもっともらしい言い訳をつけていると思われる。
右腕に持った月姿刀がかそけい星の光を反射させ、これが敵機をかすめ斬った凶器と思い知らされた。疾風怒濤、紫電一閃の申し子であるシルヴァリオンの武器に相応しい。あんなのに斬られたら――と背筋に震えが来るのは、アニメ『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』内で、魔王が幾度も煮え湯を飲まされ、幾度もその白刃が魔王に生命の危機をもたらしたからだろう。つまり、俺にこのままでは、あの刃はいずれ俺に向けられる運命にあるのだ。ギャーーーーー!!
『エイジ・ムラマサ……。いいだろう。許す。我が覇道を切り拓く尖兵となれ! 征け!』
『ハッ!』
天上天下唯我独尊といったイヴァルの堂々さはある意味うらやましい。俺なんて、いつエイジに首をとられないか、いつ唯桜に無茶無理無謀を強いられないか、ビクビクして生活しているのだ。こんな死ぬかもしれない場所で、アホみたいに己をさらけ出して嬉々としているなんて、マジでどうかしている。これが、上に立つ者の取るべき行動であるなら、俺は小市民がいい。小市民だから怯える、小市民だからノブレス・オブナントカなんて知ったこっちゃない。
下知を与えられた白い狼が再び、流星となって敵機を駆逐する。はためくレイザーマントが時折、撃ち込まれたレイザーガンを弾いている。とんでもない奴にとんでもない機体が用意されたものだ。こんなのとアニメの魔王は戦っていたのか……。すっげぇ……。
『ハハハハハッ! 連邦の塵芥どもよ、血袋どもよ。血を捧げよ! このイヴァルと、キャバリー・ノスフェラトゥを眼に焼きつけて散るがよい、ハハハハハハハハハ!』
イヴァルも負けてはいない。毒々しい紅い光線を放ち、並みいるキャバリーを釣瓶撃っている。なんだ、コイツ。エイジと同等の強さで戦闘狂とか、マジでお近づきになりたくないタイプである。一応助けてくれたことには感謝しているが、近くにいたら何かと面倒だから離れておこう。
『おのれ、帝国!』
「ピェッ⁉」
突然、眼前に出てきたキャバリーを反射的に撃ってしまった。狙いもそこそこだった銃弾はキャバリーの胴体を撃ち抜いたが、コクピットが頭にあるのでライダーは無事だ。いや、この場合死んでてくれた方がいいかもしれない。でも、目覚めが悪いので、死ななくてよかったかも。だが、恨まれてもアレだし……。
って、すっかり乱戦状態である。そして、俺は軽く錯乱状態である。敵味方入り乱れてのゴチャゴチャは、何処から銃弾や熱線が飛んでくるか、知れたものではない。むしろ、帝国側と連邦側の区別がつかない。敵味方識別装置が効いていないのか、完全に俺は迷子である。
結局、右往左往するしかなかった俺は、たまに目の前に現れたキャバリーを反射的に倒しつつ、事態の沈静化を心から祈った。しょうがない。だって、ヨワヨワの俺は誰よりも先に撃たなきゃ殺されてしまうのだ。
『ほう。貴様、なかなかやるな?』
地獄の一丁目を無我夢中で切り抜けようとしていた俺に、イヴァルが話しかけてきた。なんか機嫌がいいらしいが、戦って機嫌が良くなるとかちょっとおかしい。もっと楽しいことで世の中は溢れていると思うのだが、イヴァルが弩級の生き死にをも顧みないドSであるなら、これほど楽しいことはないのかもしれない。
「あ、い……いえ。自分なんて、へへへ」
なんか、卑屈な三下みたいな感じになってしまった。
『よかろう! エイジ・ムラマサ! この兵と三人で中央を攻めるぞ!』
「ふぁあっ?」
何言ってるんだ、この馬鹿。俺は二等兵どころか、そもそも軍所属ですらない。いや、バレたらヤバいから何も言えないけど。
「あっしはケチな一般兵でさあ、へへっ。皇族様とご一緒なんて畏れ多くていけねぇ」
まさかとは思うけど、俺が魔王やリベルであることが白日の下に晒されては、平穏な生活など夢のまた夢。このまま三下セリフを貫くしかない。
『ほほう。分を弁えたものだな。だからこそ、見どころがある。一流になれる資質を持っているかもしれんな』
「あっしの
専用機みたいなもんに乗ってる化け物と一緒にすんな!――と遠回しに言ってやるが、この
『ならば、皇帝の闘いというものを間近で拝ませてやろう!』
俺のキャバリーは首根っこを捕まえられ、そのまま加熱していく戦場のど真ん中へと引きずり込まれていく。
「ウッソだろ、おい。ウソだと言ってくれぃ! 唯桜えも~~~ん‼」
通信もいつの間にか切れており、俺の叫びは誰の耳にも届かず、宇宙の真空に溶けていった。
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