第51話 コクピット・インファントリ大勝利? めんどくさい未来にレディ・ゴー⁉

 たのしいたのしい(悪意あり)学園祭二日目である。俺は、華やかな学園祭から離れ、それどころか惑星クシオラからも離れ、小惑星リビエラにいた。クシオラの周りの小惑星帯で一番の大きさを誇るリビエラは、古くはリビエルと呼ばれる鉱物の産出地として知られた小惑星だが、今では穴ぼこだらけの地表と廃棄されて久しい家屋がゴールドラッシュならぬリビエルラッシュの時代を偲ばせるだけである。かつては資料保存という名目でカリーリ貴族学校が買い取ったそこも、既に資料価値もなくなったらしく、今や機動兵器関連の実技授業で使用される仮初の戦場となった。


 俺たちは、バスに乗って、リビエラの大地に降り立った。各々が事前に好みの仮面を選び、既に装着済み。ご丁寧に、変声機まで仕込まれており、誰が誰だかわからない状態なのだが……。


 ――どうして、魔王の仮面になっているんだ⁉


 何故か、俺のかぶる仮面が魔王のそれにすり替えられていたのさ‼ こんなもんかぶっている奴なんて、危ない奴以外いないぞ。しかも、どう考えても好意的な眼で見られることがないのは、俺が一番よくわかっている。おおう、突き刺さる視線の痛いこと痛いこと! 針のむしろという言葉を噛みしめるしかない俺は、心当たりのある下手人――機械人形オートマタのメイドに恨みの念を送った。


 うわぁぁぁ! あの、銀色緑目ドクロの仮面の奴、誰かはわからんが確実に俺を睨んでいる。こわっ! ツルッツルのドクロに昆虫めいた緑の目玉がついた造形の不気味さの相乗効果で得も言われぬ怖さを感じる。


 あからさまな白い仮面はエイジだろうか。いや、決めつけるのは早計ってものだ。


 と、とにかく。俺は魔王のコスプレをした痛い奴だ。本物の魔王じゃないとアピールするためにも、さっさと敗退……って、そうなったらエレアが望まん結婚させられるじゃないか! となると、何処かにいるイヴァルを見つけて、ぶっ倒すしかない。問題は何処にいるのか、皆目検討もつかない点だ。


『それでは、各自、事前に割り振られた番号のコクピット・インファントリに搭乗してください。機体設定は全て同じ仕様としています。武器はそれぞれ近距離剣戟デバイス、アサルトライフル。なお、戦場に落ちている武器の使用は可能とします。これは時間制限ありのサバイバル戦です。順位は撃墜数に準じます。制限時間は二時間。同率一位が出た場合は、中央コロシアムで最終戦を行います』


 アナウンスが流れてきた。なんともストロングなルールだ。ようするに、二時間逃げ回ったら、結局は敗退となる。貴族としては不名誉な負け方だろう。俺はその辺気にしないけど、少なくともイヴァルだけはなんとかしなきゃいかん。加えて、予想だが、落ちている武器は最初に渡されているものよりも、使い勝手が良いか攻撃力があるものの可能性が高い。


 う~ん。程よく周囲の選手を倒して、イヴァルと対決しなきゃいかんのかぁ……。


 なんか、さっきからめっちゃ視線を感じているのだ。無論、好ましいものではない。もしかしなくても、俺は狙われている!


 寒気を感じながらも、まずは逃げ回り、こそこそと影から狙い撃ち作戦で行こう。遠距離用の武器が手に入ったらいいのだが――。


 コクピット・インファントリに座る。ああ、このシートの感触が忌まわしい。俺は、こんなもんに乗りたくないのだ。平和で退屈な日々が欲しいだけなのだ。我が身の不幸を呪いながら、各自で決められたスタート地点へと向かう。俺に割り当てられたのはタンブルウィードが時折転がっている荒野だ。なんとも、西部劇な場所である。銀河に出た文明も前世みたいな時代があったのかなぁ――などと俺は少し現実逃避に浸った。


『それでは、サバイバル・ツー・アワーズ。レディ……ゴォォォォッ!』



 * * *



 ――痴れ者が。よりにもよって、魔王の仮面をかぶる大馬鹿者がいるとは……貴族の凋落もここまで来たか。


 イヴァルは帝国の堕落ぶりに落胆の色を隠しきれなかった。同時に、貴族に相応しからぬ、魔王の仮面の男を徹底的に打ち倒すことを心に決めていた。


 幸い、コクピット・インファントリの空防は、破損が即座に見て取れるように色が付いているものの透明だ。よく見やれば、どんな仮面をかぶっているのかはわかる。


 ――知らぬとはいえ、このイヴァルの前でくだらん真似をしおってからに。余は容赦せぬぞ。


 コクピットから引きずり出して血祭りに上げてやりたい気分だが、それはかなわない。一応模擬戦ではある。


ライフルや近距離剣戟デバイスからは光学的に欺瞞化された銃弾やブレードが見えるが、実際にはコクピット・インファントリを害することはない。撃墜の判定が出た瞬間、システムが落ちるだけだ。純粋なインファントリの手足を使った格闘戦なら可能だが、それでも危険な状況に至れば、システムが自動シャットダウンする。


 口惜しいが、それは絶対的な敗北感を植え付けることで、無聊の慰めとしよう――とイヴァルは思った。


「――――ッ」


 第六感の警告に従い、イヴァルはインファントリを翻した。緊急機動に従い、側転しながら見定めた方向へと向き直る。ほんの半秒前にイヴァルがいた座標めがけて、光弾が奔った。際どい――。直感的に割り出した狙撃点を睨めば、スナイパーライフルを構えたインファントリ。早速武器を見つけ、喜び勇んでイヴァルに狙いをつけたのだろうが……。


 ――馬鹿め。


 距離が近すぎる。適切な距離を見いだせない愚か者め。この距離では取り回しが悪いスナイパーライフルは次射までに時間を要する。あと少し踏み込んで、アサルトライフルを使えば少しはマシだったろうに。


 インファントリに極端な前傾姿勢を取らせて、突進させる。的を絞らせぬよう、乱雑的ランダムにジグザグを描いた突進は、緩急もあって、極めて捉えにくい。数々の戦場で培った、操縦技術は所詮はぬるま湯に浸かっているだけの貴族からは目にも留まらぬ機動だろう。


「その、得物――余が扱ってやろう。ありがたく思えッ」


 猛獣の襲撃を受けた哀れな狙撃手は、開始最初の撃墜を記録された。

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