第50話 見知らぬそっくりさん
「それにしても、やっぱり似てるよな。リベルとイヴァル殿下」
「ど、どどどど、何処がじゃい! あんな見るからにヤベー奴、全然似てねぇよ!」
なんてことをのたまうのだ、エイジ・ムラマサ! そりゃ、本来、皇族――一応血縁関係にあるんだから似てて当たり前だが、それを認めてしまうと正体がバレる遠因になるかもしれない。これはきっちり否定しておくが、しかし、似てないっていうのは嘘くさい。確かに、めちゃくちゃ似ていたのだ。
だが――『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』にあんなキャラいたか? 見覚えはあるような気がするが、毎日鏡越しに見ている顔でもあるため、確信が持てない。
「そうよ! エイジくん。全然違うわよ!」
おお、エレアさん! まさか否定してくれるとは。お世辞にも似てないと思えないけど、俺の苦し紛れに乗っかってくれて、どうもありがとうございます!
「そりゃ、髪色は違うけどさ」
「髪以外でも結構違うわよ。リベルの方がまつ毛長いし、リベルの方が少し背が低いし、リベルの方が若干彫りが浅いし、リベルの方が指が長いわよ! それに……」
「わかったわかった! イヴァル殿下とリベルは似てない! 俺の目がフシアナだった」
凄い。双子の見分けはおろか、ひよこの雄雌鑑定さえもできそうだ。ぶっちゃけ、俺はイヴァルが黒染めしたら見分けがつかない自信がある。エレアには、リベル・イヴァル鑑定士の称号を贈ろう。主に心のなかで。
「なんで、ここまで愛されていて全く気づかないものなんでしょうか……? 私にはわかりませんね」
「
「そもそも、リベル様はなんでこうまで愛されているのでしょうか。魔王でないリベル様ってただのへたれですよ?」
「俺も知らないんですよね。母性本能? って奴かも……。面倒見いいから、多分母性本能強いんじゃないかな、エレアって」
唯桜とランドがなにか言っているようだが、あいにくこそこそと喋っているため、内容はわからない。
「なんでイヴァル殿下は、仮面武闘会で優勝しようとしているのかしら?」
「いや、好きな娘にいいところを見せたいオトコゴコロ、的な?」
エレアの疑問に答えるエイジ。この娘も意外に鈍感なところがあるようだ。堂々と惚れたなど放言したイヴァルは、俺にとっては厄介な奴ではあるが、流石に哀れだ。
「私、キャバリーライダーってあまり好きじゃない。だって、狩りとか言って動物虐待してる人ばっかりじゃない」
「あらら……。みんながみんななわけじゃないとは思うけど」
貴族は確かにキャバリーやリミテッド・マヌーバーを使って、惑星原生巨大動物などを狩り立てる趣味を持つ者が多い。
隠してはいるが、自身も操縦士であるエイジは曖昧ながらも、フォローを入れていた。
俺は、地面に落ちていたビラを拾って、参加資格を読む。
年齢は15歳~20歳。仮面は好きなものを使えるらしい。最低、二級機動人型兵器操縦士免許が必要――。うん、二級免許くらいは貴族たるもの持っておくべしとかファインベルクバウ伯爵に言われて、強制的に取らされたから、資格は満たしている。
やるしかないか。
だが、エイジに参加応募しているところを見られたくない。
「ちょ、ちょっとトイレ行ってくる」
「え? 行ってらっしゃい」
「待てよ、俺も行こう」
ハェッ!? ちょ、こいついい加減にしろよ。エイジの空気の読めなさは、もはやわざとやっているんじゃないかと疑いたくなる。
「なにが悲しくて、お前と一緒に仲良くトイレ行かなきゃいかんのだ。付いてくるな!」
「まあ、いいじゃないか。タイミングがよかっただけだ」
何処かで撒くしかないか。
* * *
くそう、こいつ撒こうとしても平気な顔して付いてくる。そういえば、初めて会った時もそうだった。本当に疫病神だ。
結局、俺は逃げ切ることができず、本当にトイレに行って戻ってきただけだった。
「リベル様、申し込みはできましたか?」
耳打ちしてくる唯桜。できたと思えるのか? エイジに万が一でも参加するところを見られるわけにはいかんというのに。
「無理。あいつ、ぴったり付いてくるもん。ホモなのかな?」
「それはよかった」
「何が? アンタ、同性の恋愛事情は興味ないって言ってなかった?」
「言いましたよ」
きょとんとした顔をして、小首をかしげる唯桜。かわいい。
「実は、事前に参加申し込みしておきました」
「マジ? いつの間に?」
「ええ、リベル様と合流する前に」
ファアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッッッ!!!!!
なんで? 俺の意思は無視? 唯桜は強引なゴーウェイ!(下手なラップ)
「唯桜さんや、なんで俺の承諾なく、申し込みしてるの?」
「いや、リベル様の未来を予知したのです。それに、申し込みは本人でなくてもできるそうだったので」
どうしよう。頑張る気がなくなってきたぞ。
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