第55話 想い遙かに~パリスとプリンス・チャーミング ③
「どうして君は、こんなところで泣いているのだ・・・」
一人でビルの屋上に出て、下を見下ろし泣いていたプリンス・チャーミングは、声をかけてきた紳士に驚いた。
「何がそんなに悲しくて泣いている?」
紳士はさっき、プリンス・チャーミングとチャールズを助けてくれた青年の連れだった。
案の定、プリンス・チャーミングは会場でムハンマド王子に絡まれ、それを止めに入ったチャールズとジュンスがムハンマド王子のSPともめた。
ジュンスが王子のSPによって最初に投げ飛ばされた。しかしジュンスには武術の心得があり、受け身というものを知っていたので、大きく怪我をすることはなかった。しかしチャールズは、そうではなかった。
そしてその様子を見ていた、来場者のなかからプリンス・チャーミングに危害が及ぼうとしたとき、そのSPを投げ飛ばし、プリンス・チャーミングとチャールズを救った青年がいたのだ。
プリンス・チャーミングは意識を失い倒れているチャールズを抱きかかえながら泣いていた。
しかし二人を助けてくれた青年に
「どうもありがとうございます。あなたのおかげで私も大切な友だちも、命を失わずにすみました」
と言い、礼を言った。
そしてプリンス・チャーミングは、青年を見て、こう尋ねた。
「すみません。あなたのお名前は何と言うのですか?」
ヨハネはその言葉に、ショックを受け、悲しくなったが、「ヨハネです」
と、一縷の望みを持ちながらすぐに答えた。
しかしその名前を聞いても、プリンス・チャーミングはヨハネとの過去生を思い出すことはなかった。
紳士はその、ヨハネと名乗った青年の連れだった。
見ると、ヨハネと言いう青年も少し離れたところから、ふたりを見ていた。
「あまりに悲しくて・・・」
と言い、プリンス・チャーミングは大きな美しい瞳に、大粒の涙をためて、今度は声を出さずに泣いた。
「僕を愛してくれた人は、みんな、不幸になるんだ」
と、青年は泣きながら、それは哀しげにつぶやいた。
「僕といることで、なぜだかみんな、不幸に見舞われる・・・」
青年はもはや、頬をつたう大粒の涙を拭おうともせず、泣きながら言った。
「それなのに僕は、愛する人の姿を見たくて、今日もあんな騒ぎを起こしてしまったのです」
ミカエルの言った通り、アシュラと思われる青年は、前世の記憶をすべて失っていた。今、話している紳士が、遠い昔の前世で自分の婚約者であったことに全く気づかない。 ヨハネのことも全く覚えていなかった。
それなのに、ミトラの生まれ代わりと思われる青年には、前世と同じく、結ばれることにない恋へと突き進んでいた。
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