第56話 新しき世界の胎動~ユリウスを変えた出来事の真相

 その時、総統ユリウスとエルフィンは同じ夢を見ていた。

 それは悪夢のような出来事の追体験だった。

 ユリウスが妹アンジェリーナと親友テセウスを正義の名の下に、その手で粛正した時の夢だった。


 アンジェリーナは、子供の父親が誰かをけっして明かそうとはしなかった。

 すでに妻を亡くした王との婚儀の日も決まり、ユリウスは困り果て、大学校の教官であったウィルヘルム卿に相談した。


 大学校の教官の中に、シャンバラからの使いの者がいるらしい、という噂が学生たちの間では広まっていた。白魔術の教官であったウィルヘルム卿がそうではないかと、噂する学生が多かった。

 ジャド師は、父親が白魔術の研究をしたせいで黒魔術信奉者として断罪され、辺境の星へ追放されたことを知っていたので、白魔術も黒魔術もかなりくわしく知っていたが、その教壇に立つことは決して無かった。 

 ジャド師はその時も、医官として教壇に立っていた。


 ウィルヘルム卿は、ユリウスの謝った認識をそのまま利用した。

 シャンバラの使いのふりをして、ユリウスに妹とその恋の相手であるシャンバラの武官を粛正させた。

 シャンバラに招待されたものは、一生独身で過ごすのが常で、掟のようなものであった。それを破ったテセウスは断罪に値し、彼を粛正することは正義を行うことであると、ウィルヘルム卿はユリウスに吹き込んだのだ。

 そしてふたりは死んだわけだが、しかしアンジェリーナは、ユリウスが殺した訳ではなかった。アンジェリーナが死んだのは、子供を産んだことによる結果であり、ある意味、自然な死でもあった。

 アンジェリーナは体が弱く、赤子を産むことは、初めから命と引き換えの行為だったのだ。


 エルフィンは生死の境をさまよっていたとき、総統ユリウスからの輸血によりその命を取り留めたのだが、大量の血液はユリウスの記憶も同時に運んでいた。

 エルフィンは夢を見るように、総統ユリウスの過去をその心で感じ、その悲しい過去に涙した。


 生死の境をさまよった後、目を覚ましたエルフィンが最初に目にしたものは、エルフィンのベッドの側らで、エルフィンの手を握りしめたまま眠る総統ユリウスの姿だった。






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