第54話 想い遙かに~パリスとプリンス・チャーミング ②

 入り口付近が急に騒がしくなった。

 誰かセレブ会員が到着したらしい。


 ゴシップ記者らしい者たちが、いっせいに移動を始め、その騒ぎの輪の中に、一人の青年がいた。

  背が高く、細身で、まるでモデルか映画俳優のような美青年だった。


 ミカエルと談笑していたクラブ「パラダイス」のオーナーの妹ジュリアがその青年を見て、

「ここよ、ジュンス」

と言って、その手を振った。


すると青年はジュリアに気づいたらしく、ミカエルたちのもとへやって来た。

そして人目を気にしながら、

「チャールズとラブリーは今、どこに?」

と、ジュリアに聞いた。


「まだ、会場に姿を見せていないけど、二人とも、もう来てるわ。

 ただ、ムハンマド王子のこともあり、お兄さまも困っているみたい」


「なぜ?」


「契約があるらしいのよね。

 ムハンマド王子とラブリーがこの夏、一緒に過ごす約束で、兄はムハンマド王子と

ある特別な契約を結んだらしいの。

 それなのにラブリーは、あの子にしては珍しく、ムハンマド王子を嫌がってチャールズと逃げちゃったのよね。

 兄は契約不履行で、ムハンマド王子から訴えると、脅されているの」


 プリンス・チャーミングは迷っていた。

 彼は今やクラブ・パラダイスの看板ドールだったので、嫌がることはオーナーでも

彼に無理強いはしなかった。

 今日は、久しぶりに恋人チャールズの親友ということで、ジュンスに会うことができ、しばらく一緒にいることが出来るはずだったのだ。


 ラブリーはジュンスに会いたかった。

 愛しいジュンスの顔を一目、見たかった。

 ジュンスの声を聞きたかった。

 ジュンスの笑顔を見たかった。


 結局、ラブリーは会場に姿を見せることを選んだ。

 ジュンスに挨拶する時間ぐらいは、あのムハンマドも許してくれるだろう。


「チャールズ、君はたぶん嫌な思いをするだろうけれど・・・」


「いいよ。かまわない。だけど、君こそ大丈夫か?

 ムハンマドは今までのこともあるから、きっと君を懲らしめようとするはずだ。

 君の嫌がることばかり、強いるはずだ。

 それでも君はいいのか?

 僕は君の心が壊れてしまわないか、とても心配だ」

と言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る