第32話 ハンネスと王女アメリア ①

 ジャド師は、研究で忙しく、最近は医局をハンネスにまかて、研究室から出てくることも少なくなっていた。

 しかし先日、ジャド師のもとを訪れ、その悩みを打ち明けた若者のことが気になり、久しぶりに研究室から外へ出た。

 そして若者を探して、教団内を見て回っていたとき、偶然、ハンネスとアメリアの姿を見かけた。そしてアメリアのハンネスを見つめるその様子に、ジャド師はなぜか少なからぬ不安を感じた。


 アメリアが去ったのち、ジャド師はハンネスのもとへ行き、

「ずいぶん親しげに話していたが、あの娘はお前の知り合いか?」

と聞いた。


「ああ、アメリアですか? 最近、マルデクからこの地球へ私とエルフィンのように逃げてきた、武官オリオンの恋人です」

と言った。


「武官オリオンの恋人?」


「はい。彼女には親が決めた婚約者がいて、それで地球へ逃げてきたのです」


 ジャド師はオリオンの話から、オリオンとアメリアが実際は、恋人ではないことにすぐに気づいた。相談に来た若者は、旅の途中で見失った仲間を探していた。若者はその旅の連れをたぶん愛していた。

 では先ほど見かけたアメリアという女性は、なぜここにいる?


「彼女はマルデク王朝の血を引いていて、プリンセスの称号を持つそうです。恋人のオリオンは優秀な武官だが、貴族ではなく平民出身だった。だからその恋は認められず、逃げてきたようなのです」


 ジャド師の不吉な予感は、この時、完全に確信に変わった。

『あの娘は、なぜだかハンネスを以前から知っている。

 そしてこの星までハンネスに会いにきたのだ』

と、口には出さなかったが、心の中でつぶやいた。





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