第2話 ステータス

アリス王女に呼ばれ、整列する鎧たちの奥から一人の男が姿を現した。歩く度にガチャガチャと金属音をならす、分厚い鎧を着た大男。幸いにも兜は身に付けていないため、その凶悪な顔を拝むことが出来た。


「私はフェルマニア王国第一騎士団団長、名はベルザムだ。今後は君達の指導役を務めることになる。よろしく頼む」


ベルザムと名乗る男は、只者ではない威圧感を放ちながら自己紹介を終えた。いずれ多分きっと殺されるんじゃないかと思う。とても仲良くなれそうにはない。


「早速で悪いが、今後の君達の指導の為にも、まずは勇者である君達のステータスを知りたい。失礼を承知だが、ステータス情報を教えて貰えないだろうか?当然それらの情報を知るのは、私を含むごく一部の者だけで、決して他者に明かすことは無いと約束しよう」


ステータス?何だそりゃ?

ステータスと聞けば、単純に思い浮かぶのはゲーム等でお馴染みのあの『ステータス』であるが、まさか身分などを聞いているのだろうか。何れにせよベルザムの言い草からすると、かなり秘匿性の高い情報のようだ。


「あのすみません......そのステータス?とは何ですか?」


皆の代表一神が尋ねると、ベルザムは少し驚いた表情を見せた。


「なんと、ステータスを知らないのか。君達の世界には、そもそもステータスと言う概念がないのかも知れないな。ならば少し見せよう」


そう言うと、突然ベルザムの眼前、空中に半透明の四角い面が出現した。ホログラムのようなそれを俺たちに見せつけベルザムは、


「これがステータス、もといステータスプレートだ。自身の身体的な能力が数値化されたものがここに記載されている。この世界の人間は皆この技能を持って生まれてくるんだ」


まるでゲームみたいな話だと思った。だが実際に目の前で実演してくれているのだから、これは紛れもない現実なのだろう。この世界の人間特有の技能、つまりは女神が人類を生み出した際、元々人間の設計上存在していた技能という訳だ。中々面白い世界だ。


「君達にも出来るか分からないが、試してみてくれ。単純に頭の中でステータスプレートを開こうと考えるだけでいい」


ベルザムに言われ、俺は頭の中でベルザムの出現させたプレートを開こうと考えた、その瞬間、


――――――――――――――――――――


【雨宮優】Lv.1


性別:男

種族:人間族


体力:12/12

魔力:12/12

筋力:12

防御:12

敏捷:12

感覚:12


〈AS〉


〈PS〉

・超回復

・言語理解


〈称号〉

・異世界人


――――――――――――――――――――


目の前に半透明のウィンドウのようなものが現れた。おそらくこれがステータスプレートとやらだろう。どうやら俺以外の奴らも表示に成功したようだ。

しかし何だ、これは強いのだろうか。数値は低いように思うが、レベル1とあるからまあこんなものなのだろうか。基準が分かればいいのだが。

俺はベルザムに聞いてみようと考えたが踏みとどまる。ちょうど近くにいる人間が目に入った。アリス王女、彼女の方がベルザムより聞きやすそうだ。

俺はアリスに近づく。


「ねぇ王女さん」

「はい!なんでしょうか?」


王女はすこぶる機嫌が良さそうだ。よほど一神たちの協力を得られたのが嬉しいらしい。一神たちもそうだが、俺はこういう眩しい奴らがすんごく苦手だ。こういうのに限って、腹ではエグいことを考えてたりする。


「あの、この世界でのステータスの平均みたいなものってあるのかなって」

「平均ですか......そうですね、一般の方はレベル1でだいたいどのステータスも10前後じゃないですかね」

「へぇ、10前後......ってじゅう!?」

「はい!」


王女は眩しい笑顔で答えてくれた。

まさかとは思うが、いやまさかとは思う。しかしステータスを何度確認してもオール12に変化はない。アリス王女の言葉が本当ならば、俺は一般人と変わりない凡人ということになる。いやもしかしたら10から12の間にはとてつもない差がある可能性も無きにしも非ず、ではある。何だか不安になってきて、他の奴らはどうなっているのだろうと思ったその時、


「まぁ!あなたが勇者様ですね!レベル1でこんなにお強いなんて、頼もしいです!」

「いやぁそれ程でも......」


王女に褒められて照れ混じりに頭を搔く、一神の姿が目に入った。俺はこっそり後ろに回り込んで、一神のステータスを覗き込む。


――――――――――――――――――――


【一神光汰】Lv.1


性別:男

種族:人間族


体力:100/100

魔力:100/100

筋力:100

防御:100

敏捷:100

感覚:100


〈AS〉

・全属性魔法

・身体強化

・属性強化

・覚醒

・聖剣召喚


〈PS〉

・全属性適性

・全属性耐性

・高速体力回復

・高速魔力回復

・成長補正

・ユーバーセンス

・言語理解


〈称号〉

・勇者

・異世界人


――――――――――――――――――――


目玉が飛び出るかと思った。それ程までに俺のステータスと違いすぎる。まずステータス数値が異常だ。単純に俺の8倍以上。そしてなんと言ってもスキルの数。パッと見ただけでは分からないが、何だか凄く強そうだ。これが正に桁違いと言うやつか。

とりあえず女神は一神のことが大好きらしい。それにしたって贔屓しすぎだと思う。それともステータスプレート自体が壊れているのだろうか。


「あ、あの〜、俺のステータスプレート壊れてるみたいなんだけど......」


弱気な声で、僅かな可能性に縋るように尋ねる。そんな俺を見て、王女はすかさず俺の側へ来てステータスを確認した。


「............えと」


王女は数秒固まったあと、何とも言いがたい表情をして、


「レ、レベルが上がれば強くなれますよ!......多分」


あ、これ絶対ダメなやつだ。

視線を逸らす王女を見て、身体の力が一気に抜けていく。正直な話、異世界で無双するのも悪くないだとか思っていた。その矢先にこの現実はかなりショックだった。

俺が絶望に打ちひしがれてると、


「そ、そうだスキル!もしかしたらこのスキルは凄く強いのかもしれませんよ!」


閃いたように王女は声を上げた。何とか俺を励まそうと懸命に考えたのだろう。王女が指さすスキルは〈超回復〉、パッシブスキルの欄にあるスキルだ。


なんだよ超回復って、筋トレの効果でも上がるってのか......?

半ば諦め半分で確認してみる。


〈超回復〉

常に自身の身体を最も健康な状態にまで回復する。


「おぉ......、おお!」

「凄いです!こんなスキル初めて見ました!」


意外と優秀なスキルで驚いた。これはつまり、怪我やダメージなんかを受けても勝手に回復してくれるということだろう。回復速度までは分からないが、超がつくのだ。遅いなんてことはないはずだ。


「けっ、傷が治るから何だってんだ。攻撃出来ねぇんじゃ足でまといにしかならねぇだろ」


水を差したのは桐山だった。図体だけじゃなく態度もでかい男だ。正論すぎて何も言えないのが辛いところである。


「あ、あの、ステータスはどうでしたか?」


先程泣かされたこともあり、王女は恐る恐るといった様子で桐山に尋ねる。桐山はそんな彼女を横目でギロりと一瞥し、無言でステータスプレートを表示した。


――――――――――――――――――――


【桐山大河】Lv.1


性別:男

種族:人間族


体力:100/100

魔力:50/50

筋力:120

防御:120

敏捷:70

感覚:80


〈AS〉

・属性魔法(熱・雷)

・身体強化

・属性強化

・剛腕


〈PS〉

・属性適性(熱・雷)

・高速体力回復

・成長補正

・バトルセンス

・言語理解


〈称号〉

・バトルマスター

・異世界人


――――――――――――――――――――


「す、凄いです......!とても頼りになりますね!」

「けっ、くだらねぇ」


口元に手を当てて驚く王女に、桐山は腕を組んで無愛想にそういった。

全く、言うだけあって滅茶苦茶な強さだ。


「みんな凄いのね。私、何だか弱いみたい」

「愛風ちゃんも?実は私もそうみたい......」


言い出したのは星野と成村の女子ペアだ。一神と桐山という判断基準があってなおそう言うのだから、確かに弱いのだろう。そう思っていたのだが、


――――――――――――――――――――


【星野愛風】Lv.1


性別:女

種族:人間族


体力:50/50

魔力:120/120

筋力:40

防御:50

敏捷:50

感覚:60


〈AS〉

・属性魔法(熱・水・風)

・治癒魔法

・身体強化

・属性強化


〈PS〉

・属性適性(熱・水・風)

・高速魔力回復

・成長補正

・ヒールセンス

・言語理解


〈称号〉

・癒しの巫女

・異世界人


――――――――――――――――――――


【成村千代】Lv.1


性別:女

種族:人間族


体力:40/40

魔力:150/150

筋力:40

防御:40

敏捷:50

感覚:70


〈AS〉

・全属性魔法

・精霊魔法

・身体強化

・属性強化


〈PS〉

・全属性適性

・高速魔力回復

・成長補正

・マジックセンス

・言語理解


〈称号〉

・賢者

・異世界人


――――――――――――――――――――


それを見て言葉を失った。

ステータス、スキル、どれをとっても俺とは比べ物にならない。中でも俺を絶望させたのは、星野が所有するスキル〈治癒魔法〉である。これは恐らく、自分や仲間の傷を直したりするスキルだろう。対して俺の〈超回復〉は自身の身体を治すだけ。治癒魔法の下位互換と言ってもいい。


「お二人共凄くお強いじゃないですか!ねぇベルザム!」

「ええ、まさかこれ程とは。これなら魔王を討伐することも夢ではないでしょう。頼もしい限りです」


王女もベルザムも大絶賛だ。


「へえ、これって強いんだ?なんか数字が低いから弱いのかと思っちゃった」


それで弱いと言うのなら、一体俺はどうなってしまうのだろう。何だかこの場にいるのが恥ずかしくなってきた。


「さて、ステータスも確認できたところで、そろそろ陛下の元へ行こう。早く報告をせねばならん」


ベルザムはそう言うと、この大広間から俺たちを連れ出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る