砂漠の王対竜騎士の王編

第186話 反省は行動で示すんだっ!の件

 大都市セント・エレンから逃げるように出てきた『リュートと愉快な仲間たち』は、無言で歩き続けていた。


 はぐれてから数日経ってしまった砂漠の国の兵士たちに、早めに合流しなければならない。

 そして、魔将軍オシリスに奪われたピュアミスリルも急いで取り返す必要がある。


 しかし、オシリスの居場所の手掛かりもない上に、とある疑念のため、この仲間たちが本隊に合流して本当にいいものかと、ゼルドは悩んでいた。


 そして今は、このパーティーのリーダーで、ムードメーカーのリュウトが沈んでいる。彼が調子を取り戻さない内はなるべく戦闘を避けたい。


 そうして仲間たちは気まずい旅路を進んでいた。


 アリアはときおりつらそうな表情をしているリュウトに何も声をかけられないことを悔やんでいた。


 歩き続けると、辺りは夜の闇にすっかり包まれていた。


「日が暮れたな。今日はここで泊まろう」


 ゼルドの提案にラミエルが食って掛かる。

 

「野宿ぅうう~? あーん! あたしはうら若き乙女なのよぉ!」

「我も子どもぞなから大切に、丁重に扱ってほしいぞな~!」

「お前らなあ、文句を言うな! 言える立場か!」

「はい……」

「ぞな……」

「ったく! お前らはいつもの調子なんてものは取り戻さなくてもいいぞ」

「な、何よゼルドのくせに。ピリピリしちゃってさ~」

「ぞな」


 夕食を終えると、リュウトはすっと立ち上がった。


「リュウトさん、どこへ行くの?」

「大丈夫……すぐに戻るから……」

「えっ。う、うん……」


 アリアの心配を半ば避けるようにして、リュウトは走って森の奥へと駆け出した。


 ――一人になりたい。


 友だちと一緒にいる時間が好きなリュウトにとって、はじめての感情だった。


 ――今は、誰とも話したくない。


 もうずっと、一人きりになりたい。

 そうすれば、傷付けられることも、傷付けなければいけないこともなくなる。


 ――とのことは、どうしたらよかったのかわからない。


 好きだった。でも向こうは少なくとも『同じ気持ち』ではなかったし、彼はきっと『ヒトの感情』を理解できない――リュウトが彼の行動を理解できないのと同じように。行動理念がまるで違う生命体なのだから、理解し合えると望むのは愚かだ。


 大好きという気持ちと同じくらい、大嫌いだという感情を抱いている。


 興味を失ってしまえば楽になれるのだろうけど、簡単に興味を失えるような時間を彼とは共有してこなかった。好意、感謝、尊敬、執着、憤怒、憎悪が決してあの一連の悪夢のような出来事を忘れさせてくれない。こころの影の中からずぶずぶと音を立てて現れて、『不安』を残して消えていく。鮮やかに見えていた景色から『色』を奪って消えていく。それがだ。人ならざる者、灰色の魔導師。


 ――でも、今は彼のことを考えている場合じゃない。今、一番にするべきことは。


 アリアに謝らないといけない。


 彼女には、ひどいことばかりしている。望んでいないのに、いや、望んでいるから――彼女にはひどいことばかりしている。


 逃げるようにして駆け出してきたリュウトは崖の下で、ひっそりと腰をおろした。


「……」


 一度放った言葉は、取り返せない。謝って、その場で許されたとしても、こころに傷を付けてしまった事実は一生消えない。

 許される資格がない。

 彼女が許したとしても、自分が許せない。

 謝って許してもらおうという甘えた考えを持つ自己の傲慢さが許せない。


 ――彼女はオレと比べて……身分が高い……いや、魂のレベルがずっと上の存在なんだ。だから本当は、関わるのもおこがましいんだ。それが歯車がおかしくなって偶然出会ってしまったんだ。こんな幸運に巡り会えただけでよかったと満足していなければいけなかったんだ。仲良くなりたいだなんて願うのは、おこがましいにも程があったんだ。


 こめかみに痛みが走るほど目をぎゅっと瞑り、これまでの失敗を思い悩んでいたそのとき、崖の上からふわりと落ちてきたものが、しゃがみこむリュウトの目の前に落ちてきた。


「あ……? これは……?」


 落ちてきたものを手に取ると、ふとした懐かしい気持ちが、残っている一滴の勇気を奮い立たせた。


 リュウトは立ち上がった。


 しゃがんで後悔している場合ではなかった。


「オレは! こういうとき、どうしたらいいのか、わかるんだ。わからないことはないんだ。知ってるんだ、何をすればいいのか」


 ――反省は行動で示さないとダメだ。


「反省は行動で示すんだっ! オレはまだ進める。小さな一歩かもしれないけれど、まだ、まだオレは進むことができる。進みたいんだ、決着を付けたいんだ、答えを得たいんだ。こんな意味のわからない人生の、今のオレができることをしに行きたいんだっ!」


 リュウトは落ちてきたものを握りしめた後、ポケットにしまい、崖の上へと登って行った。

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