第180話 出発!
火竜と霧竜の戦いから二日が経過した。
エレミヤ城では、王の間でルクソールとリートゥスとリンダが、この戦いでの損害の状況を話し合い、まとめていた。
「イグニス村は人口の三分の一が脱出に成功したらしい……」
「生き残ったのはたった三分の一か……」
「死の灰に巻き込まれ、村は元の形を残したまま、真っ白だということだ」
「うむ……」
「グラヴェルではドラゴンの身体が触れて壊れた建物が三十件。そのうち半数が全壊だという報告もあがっている」
三人は黙り込んだ。
沈黙が続く会議室に、一人の少年が明るく飛び込んだ。
マイクだった。
「リンダリンダ~! リンダリンダリンダ~! あーっ!」
「なんだマイク、騒がしい……」
奇妙にはしゃぎ回るマイクを、リンダは訝しげににらんだ。
「聞いてよ! クジラドラゴンが出した雨が、グラヴェル周辺地域に及ぼした影響を! 今までボク、調べて回ってたんだよ。褒めてよ!」
「で、それでどうしたんだ?」
「砂漠の国って、ずっと水不足だったじゃない。水分が多すぎると死んじゃう植物は腐ってしまったのだけれど、いつも水が足りなくて枯れてしまっていた農作物なんかが、驚きの成長をしたんだって! 今年は豊作になるかもだってさ! 育った食物を分けてもらえたから、風竜のために持ってきてたんだよ。霧竜が出した水は、普通の水よりもいいものらしいよ。生き物がグングン育つ、魔法の水みたいだってコンメルチャンのおじさんが言ってた! 毎日雨を降らせてくれたらいいのにね。おじさんが、霧竜がいたらせーたいけーも変わるかもね、だって! せーたいけーって、何?」
マイクはさらに言った。
「まるで恵みの雨って奴だよね!」
「そうか……」
「クジラドラゴンって、いいドラゴンだね」
ニコニコと笑うマイク少年の報告を聞いて、ルクソールがリートゥスとリンダに言った。
「このことも踏まえて、もう一度考え直そう」
二人はうなずいた。
「まずはこの竜災で犠牲になったイグニス村と、スフィンクスに追悼しなくてはな」
「ああ」
「そうだな。霧竜との約束を果たそう」
「うむ」
「これから忙しくなるぞ。砂漠の国の戦士の手を借りたいな! どこかにいないかな、優秀な戦士が……」
マイクはまた、瞳を輝かせた。
「ボクのことだね! 説教をチャラにしてくれるんならいいよ! なんてね、嘘だよ! みんなで守った砂漠の国だもの。デシェルト王様、それからリュート兄ちゃんたちが帰ってきたときに、もっといい国になってて、驚いてもらわなくちゃ!」
「ははは。マイクは夢が大きいな。でも、そうだな。残っている者たちも、頑張ろう!」
「おーっ!」
今生き残っているグラヴェルの民は、火竜を前にして死ぬかと思っていた。
しかし、今、生きている。
どんな行動が、何が生死をわけるのかは、無力な人間にははかり知ることはできない。
だが、亡くなった友のために、今何ができるか。残された意味、生かされた意味を考えて、今できることをやっていこうと、砂漠の戦士たちはこころにかたく誓った。
* * *
リンダ、マイク、リートゥス、ルクソールがエレミヤ城の中庭に行くと、風竜が飛び立とうとしているところだった。
「風竜! アリアのところに戻るの?」
風竜はうなずいた。
「ありがとう。今ボクたちが生きられているのは、まぎれもなく風竜が頑張ってくれたおかげだよ」
「アリアによろしく!」
「リュート兄ちゃんにもよろしく!」
風竜は、アリアたちがいる帝国へと旅立っていった。
「いいドラゴンは、風竜もだね」
「本当に、ありがとう……」
リートゥスが、マイクとリンダの肩を叩いた。
「さあ! 砂漠の国の戦士たち! これから一生懸命働いてもらうぞ! なんたってやることが山ほどあるからな!」
「リートゥス、ボク今度こそいいところ見せるから、今度こそちゃんと見てて!」
「マイクのいいところはもう十分知っているつもりなんだがな」
「もっと見てほしいんだよ!」
「ははは。元気だな……それでいい、それでいいんだ……」
リンダは、空を見てつぶやいた。
「これでこれから、楽しいことをやれるな」
みんなは、笑顔になった。
飛んで行く風竜を、四人は見えなくなるまで見送った。
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