第157話 もう好きなのかわからなくなったの件
湖のほとりでリュウトがフェセクにこころの内を話していた同時間、森の中で休憩を取ることにした『リュートと愉快な仲間たち』メンバーの、ラミエルとゾナゴンは爆睡、アリアは考え事をしていて眠れず、ゼルドは寝ずの番をしていた。
アリアは胸の内の悲しさをゼルドに気付かれないように必死で隠していたが、抑えきれていなかった。
リュウトのことを考え出すと、へらへらと笑ういつもの顔が浮かんでくる。
次に、アリアに気が付くと嬉しそうに話しかけてくる笑顔、返答に困ると笑いながら頭をかく仕草、大事な話はあんまり聞いて無さそうなとぼけた表情、悔しさで涙している姿が思い出されていった。
リュウトのことを思い出すほどに、苦しくなった。
最近のリュウトは、女の子たち――ついでにフェセクも――と、距離が近すぎる。そのことが、アリアを悩ませていた。
リュウトは面白いし、明るいし、なんだかんだ言ってモテるので、アリアよりももっと可愛い女の子の方が相応しいのかもしれない。
ドラゴン・レースで出会った水の国のグリフォン四姉妹の三女、トレイスはリュウトのことを好いていた。
黙っていればラミエルは、誰もが振り返るくらいの美少女だ。
ゼルドの娘リンダとは、出会って時間はそんなに経っていないはずなのに意気投合していた。
リュウトは、アリア以外の、別の女の子を好きになってもいいはずだ。むしろ、本人と同じく、明るくて魅力的な子の方がお似合いなんじゃないか。
アリアは縁を切ったとしても、リト・レギア王国の王女としてのしがらみが付き纏う。飄々としたリュウトにはきっと、重たくない女の子の方がいいし、アリアといない方が戦いに巻き込まなくて済む。
なんとなく、リュウトとはずっと一緒にいると思っていた。
だけど思ったより、別れは早いのかもしれない。
しかしそういうことを考えると、ぎゅっとこころが痛くなる。
その理由はわかっていた。
アリアはリュウトのことが、本当に大好きなのだ。
それは、真実だ。
孤独だった少女期を過ごしたアリアにとってはじめての友人で、理性で好きになったはじめての男の子で、居場所をくれた、大切な人――。
――人を好きになるって何なんだろう。
いつか、リュウトのことを「友人だから自分のこころを満たすための存在にするのではなく、夢を応援していきたい」と願ったことがある。まだ出会って間もない頃だった。それなのに、今はまるで真逆の気持ちを抱いている。
リュウトに好かれたい。
あのやさしい笑顔で「好きだよ」って言われたい。
もっと自分を見てほしい。できることなら、自分だけを見てほしい。
そういう気持ちばかり湧いてしまう。
昔、リト・レギア王国の大司教が言っていた。
『愛』とは、無償に与えるものだ、と。
アリア自身もそのときは納得して聞いていた。
だけど、リュウトに対してだけは、無償に愛することはできそうにない。
違う女の子と一緒にいる姿を想像しただけでも妬いてしまう。
大司教の言葉を鑑みると、リュウトに対するこの気持ちは『愛』ではないのかもしれない。
このよくわからない気持ちのせいで、これから先、リュウトにひどいことを言ってしまうかもしれない。傷付けてしまうかもしれない。そんなのは、嫌だ。
大好きな人を傷付ける行為は、確かに『愛』じゃない。
――これから、彼とどう接していけばいいのかわからない。
リュウトのことはやっぱり大好きだけど、この気持ちは本当の『人を愛する』気持ちなのかがわからない。
――もう、わからない! わからない! わからなーいっ!
寝たふりをしているが、小刻みに身体を震わしているアリアの異変をゼルドは気が付いていたが、あえて声をかけることはしなかった。
ゼルドは先ほどの、フェセクが化けたソラリスを前にしたリュウトとアリアの様子を見て、考えていた。
二人は、ソラリスと戦う技術もなければ度胸もない。なんとかしてやれないだろうか。戦わずに済むうまい方法があればいいのだが――。
誰もが答えを出せぬまま、夜は更けていった。
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