第154話 愛してるんだろ?の件

 次の目的地へと歩きだした『リュートと愉快な仲間たち』。ぬかるんだ道を進みながらアリアはゼルドに尋ねた。


「ねぇ、ゼルド。本隊へ追い付くつもりなの?」

「いや、目的地に着くまで本隊には合流しない」


 ゼルドはアリアにだけ聞こえるように言った。


「帝国領へ入ってから、こっちのタイミングを知られてるんじゃないかってくらい敵と遭遇するからな。こんだけたて続いてたら、疑ってかからないとな」


 アリアはゼルドがゾナゴンのことを言いたいのだと察した。


「目的地を目指しつつ、ピュアミスリルを持っていってしまった魔将軍オシリスとやらを追う」

「うん、そうだね」


 最前列にゼルドとアリア。真ん中に意気揚々と歩くリュウトとフェセク。最後尾にしょぼくれた顔で歩くラミエルとゾナゴンがいた。


「なんだかラミエルとゾナゴン、元気ないね?」


 リュウトが後ろを振り返ってつぶやいた。


「彼らは失態をおかして、大切なものを奪われてしまったのですよ。ピュアミスリルと言ってましたカナ」

「ふーん? ラミエルたちが落ち込んでるって、調子狂うな」


 仲間たちは、行く先々の村で、『魔将軍オシリス』の行方を人々に尋ねた。

 しかし、有用な情報は得られなかった。


 日が暮れて来たので、仲間たちは休むことにした。ラミエルとゾナゴンは積極的に炊事の手伝いを申し出た。


「雨が降った後の夕方だからかな? 空が赤くてキレイだ」


 リュウトの独り言に、アリアがそうだね、と返事した。

 ラミエルはふらふらと一人、湖へ水を汲みに行った。


「ラミエルの奴、大丈夫かよ」

「うん……。気にしなくていいのに……。わたしがちゃんと管理しなかったせいだからって言ってもダメみたいで……」

「いや、その方が傷付くんじゃないか?」

「えっ……。そうかな……。どうしよう」

「オレに任せてよ! ラミエルを元気にするなんて簡単だ」

「え?」


 リュウトは走ってラミエルを追いかけて行った。


「何か、嫌な予感がするけど。気のせいね」


 ゼルド、フェセク、ゾナゴンは夕飯の調達に出たきりで、アリアは一人で残っていた。


     *  *  *


「はぁ……」


 ラミエルは湖面を眺めてため息をついた。


「どうしてあたし、いつもこんなんなんだろう……。雷の魔法使いとしても落ちこぼれ。アリアには出会ったときから迷惑かけまくり。いつもいつも、どうしてあたしは……」


 落ち込むラミエルの横に、リュウトが座った。


「ラミエル」

「! リュート……」

「落ち込んでるじゃん!」

「な、何よ……。あたしを笑いに来たの……?」

「まさか。大切な仲間が落ち込んでるときに、笑うなんてあり得ないよ」

「え……」


 大切な仲間、という響きにラミエルはドキリとした。リュウトの口からそんな言葉が出るとは、明日も嵐かもしれない。


「あんまり二人きりの機会ってないからさ、伝えに来たんだ」

「え……? 何を?」

「感謝、さ」

「えええ、リュート?」


 リュウトは尻を持ち上げて、もう一歩ラミエルに近付いた場所へ座り直した。


「ラミエルには感謝してるんだよ、オレ。洞窟で再会したときに、ラミエルの顔を見たら、すっごく嬉しくなったんだ。そばにいるとオレたちケンカばっかりしちゃうけど、離れてみると寂しくなるものだね」

「リュート……それ本気で言ってるの?」

「……」

「はあ。答えないってことは、やっぱり冗談なのね。リュートって正直あたしのこと嫌いでしょ?」

「……。君は、あのときオレに愛してるって言ってくれたよね」

「え? 言ったような気がするけど……。けどあれは、勢いっていうか、ただの言葉のあやっていうか……」

「でも、オレは感動したんだ。誰かがオレのことを好いてるってさ、嬉しかったんだ」

「りゅ、リュート……」

「だからさ……」

「えっ? な、何?」


 横に座っていたリュウトが、真剣な眼差しでラミエルを覗き込んだ。リュウトのくせに、雰囲気的なものを出さないでよね、と怒ろうと思うと――。


「とりあえず、ラミエルは地面に両手をつけて」

「な、何で?」

「静電気を逃がすためだよ。はやく!」

「え、ええ?」

「はやくやれよ!」

「ひっ……」


 急に声を荒げたリュウトに驚いてラミエルは言うことをきいた。


「したけど……」

「ラミエル!」

「きゃっ!」


 リュウトはラミエルの二の腕を掴んだ。掴んだ手はかたく、ラミエルは驚いた。


「オレのこと、愛してるって言ってくれたよね?」

「だから、あれは勢いで……」

「もう一回言ってよ。そういえばオレ、女の子の裸を見たのってラミエルがはじめてだったんだ。なんか思ってたのと違ったけど、あれはあれで美しかった」

「へ?」

「ラミエルもさ、ゴーレム倒す前にオレのその、あれ。見たよね。今からもう一回、見せ合おうよ。愛してるならできるだろ?」

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ラミエルは渾身の力でリュウトを殴った。

 リュウトは湖の中へぶっ飛んで行った。


「いやぁああああっ! 変態ぃぃいいいいいいっ! アリアぁああああっ!」


 ラミエルは泣きながらアリアの元へ走った。


「ど、どうしたのラミエル!」


 アリアを見つけるとラミエルは抱き締めて大泣きした。


「アリア! リュートが! リュートがなんかおかしいのよっ! ど変態! ど変態なのよ! 裸を見せ合おうって言ってきたのよっ! 信じられない! 最低! 最低!」


 アリアはラミエルに落ち着いて、と言った。


「そんなこと言うのって、リュウトさんじゃない。フェセクだよ。ラミエルはフェセクにからかわれたのよ」

「え? あ! そ、そっか! そう言われたらそうかも。リュートがそんなこと言うはずないもんね、アリアは頭がいいのね」

「フェセクに怒ってくるね。ラミエルを傷付けるなんて、許せない」

「え? アリア?」


 アリアはずんずんと進んでいってしまった。


「でも、フェセクがそんなに前のこと知ってるのかしら? 黒魔法で過去を覗けるのかしら? うーんうーん」


 ラミエルが考えているうちに、アリアは見えなくなっていた。

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