第146話 奪われたミスリルの件

 帝国の反乱軍に捕まってしまったラミエルとゾナゴンの元に駆け付けたアリアたちは、そこで灰色の魔道士フェセクの凄惨で無慈悲な黒魔法を目撃してしまった。


「こんなの、ひどい……」


 まだ気分が優れないアリアをゼルドが支えた。


「ククク。ひどい、ですか……。だが、この人間らはその罰にふさわしい、いや、それ以上の罪を犯していた。罪人が罰せられない世の中の方が、『ひどい』とワタクシは思いますがいかがカナ?」


 アリアは何も言わなかった。


「はァ、力を正義のために使っても、嫌われてしまいますなァ。ま! 正義のために戦ったつもりはありませんがね。アハハハハハハ」


 フェセクはわかっていないアリアのために長い指で風竜を指差した。


「それより、やることがおありでしょう?」

「あ……」


 フェセクへ言及するよりまずは、兵士たちに傷付けられた風竜を回復させるべきだったとアリアは気が付いた。


「風竜! 待ってて! 今、回復魔法を使うからね!」


 アリアは風竜の元に駆け寄った。


「動ける? ごめんね、風竜」


 風竜のケガが治ると、今度は縛られたラミエルたちを解放した。


「アリア、ありがとう……」

「ぞなもし」


 ラミエルとゾナゴンは気落ちした顔を向けた。


「あの、ごめんなさい、アリア……」

「ごめんなさいぞな」

「え? どうして謝るの?」

「いつもいつも、あたしたち、アリアに迷惑をかけてばかり」

「……」

「我たちは本当に足手まといぞな……」

「そんなことないよ」

「いいの、アリア。嘘はつかないで」

「あの、アリア。我たちは怒られるべきぞな。痛恨のミスをやらかしたぞな」

「え、ラミエルとゾナゴン、何が言いたいの?」

「あのね」

「あの」


 二人は口をそろえていった。


「ピュアミスリルを、敵に奪われてしまったの」

「ぞな」

「え! え? えー!」

「魔将軍オシリスって奴が、あたしたちからピュアミスリルを奪うと、兵士たちを置いてどっかへ行っちゃったの。風竜をやったのもそいつよ!」

「ピュアミスリルが……」


 手放してはいけない、大事なものだと言われていたピュアミスリルを、奪われてしまった。


「ど、どうしよう……」


 ピュアミスリルは、壊れた聖鳩琴を直すのに必要な石だ。エルフの王の元にそれらを持っていけば再び音が出るようになる、ということをエルフのリナリアから聞いていた。

 しかしエルフの王には絶対に会ってはいけないとも忠告されていた。


「だけど、ピュアミスリルはもっと不思議な力があった……。悪い人たちに悪用されるのは、よくない気がする」

「アリア、本当にごめんなさい」

「ごめんなさいぞな」

「今日から、こころを入れ換えてアリアの言うことをよく聞いて、慎重に行動します」

「我も、我もぞな」

「ああ~? 本当にお前らが反省できるのか?」


 ゼルドが横から茶化した。しかしラミエルたちは何も言わなかった。


「お、これは思ったより効いてるな……」


 アリアはゼルドに尋ねた。


「ゼルド、どうしよう。ピュアミスリルを追いかけるのが先か……、リュウトさんを助けるのが先か」

「うーん……。ピュアミスリルを放っておくのはまずいとは思うが、先にリュートだろう。ピュアミスリルを取り戻して帰ってきたら、森神様にリュートが殺されてましたってことになったら取り返しがつかないからな」

「そ、そっか」

「ん、どうした、アリア……」

「え? な、何でもないよ」

「いいから言ってみろ」

「あ、うん……。なんだか、リュウトさんと、距離が出来ちゃったような気がして……なんとなく……その……」

「……。まあ、言いたいことはわからなくもないがな」


 ゼルドはその場にいる仲間たち全員に聞こえるように大声を出した。


「それじゃあ、リュートを助けにうろまで戻るぞ! 森神様を倒して、あの子どもたちを解放するんだ!」


 ラミエルとゾナゴンは何も言わなかった。


「まァ、うろまで戻るのは賛成ですが。リュート様にはワタクシも会いたいけれど、別に子どもたちはほうっておいてもいいんじゃないですカナ?」

「なんだと?」

「森神様の祟りに遭うのはごめんですので! ああ、あなおそろしや!」

「お前、本当になんなんだ? あんなことしておいて、本当に神がこわいのか?」

「ええ、ええ。森神様は特に」

「じゃあお前はうろの外で待っていろよ」

「いいえ♡ アナタ方も、外で待っていた方がいいでしょう。そうした方がいい」

「なんでだよ」

「それは、ワタクシたちが森神様を倒さずとも、物事は解決していくからですよ」

「はあ? なんで、そう言い切れるんだ」

「リュート様はワタクシが見込んだ男だからです♡ 彼なら、やり遂げられるでしょう。間違いなく、ね」

「……」


 これ以上話していても無駄だと思ったゼルドは、話をやめ、仲間たちを連れてうろまで戻ることにした。

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