第143話 ずっと会いたかったカナの件
「なんだ、今の爆発音は!」
獣の首の部族の、リュウトと同じくクマの皮を被った少年は叫んだ。
「入り口の方からだな」
慌てる少年にリュウトは、
「オレが様子を見てくるよ」
と告げた。しかし少年は引き留めた。
「いや、待て。いい。リュートはみんなを守ってくれ。わたしが行こう」
少年は、地下洞窟の出口へ歩いて行くと、同い年くらいの少女と、傭兵風のガタイのいい男と、灰色の魔道士――フェセクがいるのを見た。
「お、お前!」
少年は腰に提げていた剣を三人に向けた。
「何しにきた! ここから立ち去れ!」
憤る少年に、ゼルドも剣を構えた。
「ったく、子どもは斬りたくないって言ってるのによ……」
少年は、真っ直ぐゼルドに向かって斬りかかってきた。
「うおっ!」
想像以上のスピードで向かってきた少年の剣撃を受け止め、二、三合ほど打ち合いになった。
「くっ! 小僧、筋がいいじゃねーか!」
「偉そうな口を利くな!」
しかし、ゼルドは少年の一瞬のスキを見逃さなかった。
「よっ!」
ゼルドの剣先が、少年の喉元まで来た。
「ううっ!」
「勝負あった。命は取りたくない。この奥に、背中に竜の痣がある、ちょっと弱そうな男の子がいるだろ。オレたちはそいつの仲間なんだ。案内してくれるか」
少年は観念し、その場に座ってしまった。
すると、奥から一人、少年が走ってきた。
「おーい、大丈夫か! って、あ……」
奥からやってきたクマの首を被った少年は、アリアたちを見て立ち尽くした。
しかし、気を取り直して、ゼルドと戦った少年に寄り添った。
「大丈夫? ケガはしてない?」
「ああ、無傷だ……」
アリアは見た。
座り込んだ少年を立ち上がらせた少年の背中に、竜の痣があるのを。
「背中に、痣が……」
アリアは無意識に鼻を押さえたが、今回は鼻血は出なかった。
――鼻血は出ないけど……。
「……本物のリュウトさんだ」
「リュートなのか……」
アリアは、リュウトに尋ねたいことが山のようにあってパンク寸前の頭の中を、一生懸命整理した。
「リュウトさん、リュウトさんだよね?」
「…………」
「どうして答えないの?」
「…………」
「何でこんなところにいるの? 第一部隊は? シリウスはどこにいるの?」
「…………」
目をそらして何も答えないリュウトをかばうように少年が囁きかけた。
「リュート、無理はするな」
何も答えないリュウトとの間にえもいわれぬ距離をアリアが感じていると、アリアの顔を手で押し退けて、フェセクが身を乗り出してきた。
「おお! これはこれはリュート様。こんなところで遊ばれていたのですね~! ワタクシを置いてどこかへ行ってしまわれるなんてェ、寂しいではありませぬか!」
「え? あ、フェセク……。君がなんで……」
「ああっ! お会いしたかった、リュート様! ずっと会いたかったぁあァア~♡」
フェセクがリュウトに抱き付こうとすると、少年がかばうようにリュウトの前に立った。
「灰色の魔道士フェセク! お前の顔など、二度と見たくない! ここから立ち去れ!」
「おやァ……?」
すると、巨木の中の地下洞窟は、ゴオオオオと物凄い音を立てた。
地下洞窟の奥にいた少年たちは、身を寄せあって叫んだ。
「森神様が怒っている!」
「あああ! もう、おしまいだ!」
「ボクたちはみんな死ぬんだ!」
「イヤだ、死にたくない!」
リュウトを庇った少年は、激昂した。
「帰れ!」
その勢いにアリアとゼルドは押し負け、ここから出ることにした。
空気を読まずリュウトに投げキッスをしているフェセクをゼルドが引っ張り、三人はうろから出た。
「尋常じゃない。何だったんだ、あの轟音は……」
「あの音が、森神様の力……?」
「はァあ~。いくらワタクシがものすごーく強い魔道士であっても、神を相手には戦えませぬなァ……」
「え、そうなの?」
リンダの屋敷に巣食っていた巨木クモを軽々と倒したあのフェセクの発言とは思えないが、意気消沈とした表情を見ると本当なのだろうか。
「ええ……。神の祟りにあうのがこわいですからねえ」
「黒魔法の使い手なのに……?」
「それはそれ、これはこれ。それより、いいんですか? それとも、お気付きでない?」
フェセクはアリアたちの前で優雅に一回転してみせた。
「あっ! ゼルド、どうしよう!」
「ああ!」
「ラミエルたちが、いない!」
うろの入り口で待たせていたラミエルたちがいなくなっていた。
「おいおい、また勝手にどこかへ行ったのか?」
雨は降り続いていた。
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