第142話 森の神の件
リュウトの姿に化け、アリアの影の中に潜っていたのは、『灰色の魔道士』を名乗る極彩色のローブを着た巨体の男、フェセクだった。
彼の意味不明な言動に
「こんなところに、中へ入れる場所があったのか。気付かなかった。ラミエルたちはこのうろの奥へ行ったんだな」
「わたしは大丈夫だけど、ゼルドと風竜と……あの、フェセク……さんは身体が大きいから通れなさそうだね」
「おォ! アリア。ワタクシのことは気軽にフェセクと呼び捨てにしてくださっても構いませんよ」
「……」
「おい、フェセク。お前のことはまだ完全に信用したわけじゃないんだぞ。そもそもなんだ、灰色の魔道士って。お前の操っていた魔法は黒魔法じゃないのか」
ゼルドの問いに、フェセクはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに顔を輝かせた。
「ええ、ええ! いかにもワタクシは対象者を弱体化させるコトなどを得意とする黒魔法の使い手でございます。しかし、ワタクシの黒魔法は限りなく汚れのない純白のココロを持ってして生まれるモノ! よって間をとって、灰色の魔道士と名乗っております。……という答えでどうですカナ?」
「意味が分からん。それになんだ。その奇妙な言葉遣いは」
「んふふ……。まァ、いいじゃないですか。ワタクシの個性です」
ゼルドはまだ納得いかなかった。
すると、フェセクが長く、派手な爪をした人差し指でうろを差した。
「……おやァ、お仲間たちが戻ってきたようですよ」
フェセクが指を差した先に、ラミエルとゾナゴンがいた。うろの奥から自力で戻ってきたようだ。
「ラミエル! ゾナゴン! 無事だったのね!」
歓喜するアリアに、ラミエルとゾナゴンは答えなかった。二人はやつれた顔をしていた。
「……」
いつも元気すぎるくらいのラミエルとゾナゴンの様子の違いに、アリアとゼルドは顔を見合わせた。
「え? どうしたの? 奥で何があったの? ラミエル、ゾナゴン……」
「アリア……」
ラミエルとゾナゴンは、ゆっくりと話した。
「わかんない……」
「えっ!」
「見てはいけないものを、見てしまった感じ……」
ラミエルたちはうろから出てくると、木の根に腰を下ろした。
「なーんか、疲れちゃった……」
これはおかしい、と戸惑うアリアとゼルドの後ろで、フェセクだけはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「気付いていますか? アリア、光っていますよ。アナタのポケットの中身……」
「え? ピュアミスリルが?」
アリアが見ると、確かにピュアミスリルが光っていた。
「ほほう。それはピュアミスリルというのですか。なんという美しい輝き……」
アリアはポケットからピュアミスリルを出した。
ピュアミスリルの輝きに当たったラミエルとゾナゴンは少しだけ元気を取り戻した。
「ほぁああ、落ち着く光ぞな~」
「生き返るわ~。まるで極寒の地で見つけた温泉みたいね……」
「じゃあ、持ってていいよ」
アリアはラミエルとゾナゴンにピュアミスリルを渡した。ラミエルはアリアのその手を引っ張った。
「あのね、アリア……。この中に、リュートがいたの……。本物のリュートよ……」
「ぞな……」
「えっ! リュウトさんが!」
言われて、アリアはうろを奥まで覗いた。しかし、薄暗くて何も見えない。
「……わかった。わたし、行ってくる! みんなはここで待ってて!」
「アリア! お前、一人で行く気か!」
「うん、そうだよ! 中にリュウトさんがいるなら、急がないと!」
一人でうろの中へ飛び込んで行こうとしたアリアの首を、フェセクがいきなり裏側から掴んで、身体を軽々と持ち上げた。図体に見合った怪力だ。
「きゃーーっ!」
「っ! アリア! おいフェセク、何の真似だ!」
「ククク……。慌てずともよいものを。リュート様の場所へはワタクシも行きたいとあれほど申していたでしょう? アリア、ワタクシを差し置いて抜け駆けはないでしょう」
と言うと、フェセクは巨木のうろに、アリアの首を掴んでいる反対側の手を向けて魔法攻撃を放った。
爆発を食らったうろは大きく開かれ、大きな大人でも入れるくらいの広さになった。
「きゃーーっ!」
「くっ! いきなりかよ!」
「ククククク……! 爆破! 爆破ァ!」
声高に叫んで、フェセクは何事もなかったようにアリアを無造作に地面に下ろし、ニッコリと笑った。
「さ! 行きましょう! ピクニックは一人で行くより仲間たちと♡ でしょう?」
「……」
風竜にラミエルたちを守るように告げると、アリア、ゼルド、フェセクの三人はうろの奥深く、地下洞窟へ進んでいった。
「アハハハハハハ! そんなにこわい顔でワタクシを見なくとも♡ また
アリアとゼルドは、フェセクに対して「こいつだけは信用できない」とかたく思うのだった。
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