第140話 静電気がくるから嫌なんだよの件
ラミエルとゾナゴンは、森の中に仕掛けられていた罠にかかり、獣の首の部族に捕まってしまった。
巨大な木の根の間には人間が一人通れる大きさのうろがあり、うろの中を下へと進んでいくと、地下洞窟に繋がっていた。その洞窟の中で、獣の首の部族は暮らしている様子だった。
ラミエルたちは洞窟の端で、網にかかったままで放置されていた。
「ラミエル、わ、我たちは一体どうなるぞな?」
「し、知らないわよ! アイツらのご馳走になる、なんてことだけは絶対にないと思いたい!」
「や、やめろぞなー! ラミエルが悪いことを思い付くとそれ通りになってしまうぞな!」
獣の首の部族は、全部で六人の少年少女だった。それぞれクマが二人、オオカミ、イノシシ、シカ、ワシの獣の皮を被っている。
上半身は裸で、下半身は腰ミノのみの男の子もいれば、ワンピースを着た男の子もいる。しかしいずれも、高度な文明を持っている部族とは言いづらい衣装に身を包んでいた。
六人の子どもたちは、集まると、祭壇に向かって何らかの儀式をはじめた。しきりに「森神様」とつぶやいていることから、彼らは森の神を信仰する部族なのだろう。
しかし、その森の神の本体は、さらにいりくんだ深い場所にいるようで、ラミエルたちが放置されているうろの入り口に近い場所からは見えない。
「なぁに、あれ」
「我に聞かれても困るぞな」
儀式が終わると、ラミエルたちを捕まえた少年たちが近付いてきた。そして、獣の首を差し出した。
「お前たちもこの皮を被れ。これを被っていると、森神様があらゆる災厄から身を守ってくださる」
「はあ~? イヤよ、獣くさい」
「ラ! ラミエル! こんなときにも堂々とした態度ぞなね……」
「森神様のおこころがわからぬとは……」
「それも、何よ。森神様って何のこと?」
「我らの守り神様だ。しかし、決して人の前に姿を現すことはないし、姿を見たら永久に呪われてしまう……」
と言うと、獣の首の少年は身体を震わせた。
「怯えているぞなか?」
「う、うるさい! そんなことはない。森神様は、我らの守り神……。わたしは森神様を信じている……」
「どんな奴なの?」
「なんという口の聞き方だ! そんな態度でいると、森神様に、本当に呪われてしまうぞ」
「いいから話しなさいよ」
「森神様の姿を見たら呪われてしまうから、誰も見たことはないが……。森神様はこの森の守護神であらせられると同時に、祟り神なのだ。特に人間を嫌っていて、人間の首を見るとちょんぎってしまうのだ。お前たちは見たことがあるか? この近辺ではよく首なしの遺体が見つかる。あれは、森神様の仕業なのだ。だから、我々は森神様の祟りに遭わないように、お仕えするのと同時に、この獣の皮を被って身を守っているのだ。森神様を信仰していれば守ってくださるが、逃げ出す者には容赦がない。だから我々は、永久に森神様の奴隷なのだ……うう……」
と語りながら落ち込む少年の前でラミエルとゾナゴンは考えた。
「ふ~ん? まあ、強めの魔物ってところかしらね」
「魔物ぞなね。そんなろくでもない神がいても困るぞな」
ラミエルとゾナゴンはニッカリ笑って少年を励ました。
「ま、安心するといいわ! あたしたち、こーみえて実は強いのよ! そんじょそこらの冒険者じゃないのよ。だから森神様とやらをさくっと退治してあげるから、みんなでここから抜け出しましょう!」
「何? 冒険者なのか? あまり強そうに見えないが……」
「あんた失礼な奴ね~! いい? あたしの名はラミエル。天才魔道士のラミエル! 雷の魔道を使わせたら最強の魔道士! そしてこっちは相棒のゾナゴン。闇の魔法を口から出せるのよ」
「ぞな!」
「し、しかし……。どんなに強い冒険者でも、む、無理だ! 森神様を怒らせるとどんな目に遭うかわからない! やめておくべきだ!」
「そーいうのはあたしたちの実力を見てからの方がいいわ。ここにはいないけど、ゼルドとアリアと風竜っていう、あたしたちよりほんのすこーし強い仲間もいるんだから」
「少しぞなよ!」
「しかし……」
「あーだこーだいう奴ね~! しかししかしって言ってる暇があるなら、さっさとあたしたちを罠から出しなさいよ!」
騒ぐラミエルの声を聞き付けて、奥から最年長のクマの首の少年がやってきた。
「どうした」
「あ、すみません。食糧を捕らえるために仕掛けた罠にかかっていた人間と、謎の生き物が出せとうるさくて……」
「わかった。ここはオレに任せてくれ。君は行ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
少年は獣の皮ごしにラミエルたちを見た。
「何よ、あんたは」
「ぞなもし」
「……。罠を解いてやるから、お前たちは逃げろ」
「え? 解いてくれるの? なーんだ、あんた、いい奴じゃないの!」
「ありがともし!」
最年長の少年は、ナイフで網を切った。
「さあ、行け! 決して振り返らず、この穴の中から出ていくんだ……!」
少年の語気は荒かった。
「振り返らず? なんで?」
「いいからはやく行け!」
「わ、わかったわよ」
ラミエルとゾナゴンは、少年に言われるがまま、巨木の出口に向かって歩きだした。
しかし、途中で、疑問に思い立ち止まり、あの少年の声には心当たりがあると振り返ってしまった。
「そうよ! 忘れるわけがないじゃないの! あの声は!」
「ラミエル! さっきの男の子は!」
振り返ったラミエルとゾナゴンは、穴の奥に戻る少年の背中に、竜の痣があることを確かに見た。
「りゅっ……リュート!」
「リュートぞなー!」
ラミエルとゾナゴンはこころのままに引き返して、駆け出して、リュウトに抱き付いた。
勢いが激しすぎて、リュウトは地面に押し倒された。
「うぐっ!」
「リュート! リュート! あなた、本物のリュートね!」
「……」
「ぞな! 間違えるわけないぞな! リュートぞな! 会いたかったぞな!」
「……」
「ああっ! リュート! 会いたかったわ! ずっと会いたかったわ! もう、離さない! 愛してるわリュートっ!」
ラミエルとゾナゴンは本物の友人に再会できた嬉しさのあまり、ベタベタと頬ずりをしまくった。
「や、やめろよ、ラミエル! お前に抱きつかれると静電気が痛いっていつも言ってただろ!」
その叫びを聞いて、ラミエルとゾナゴンは涙目になった。
「ああーん! やっぱり本物のリュートだわ!」
「ぞなぞな!」
「……? 本物のリュート? 何を言ってるんだ。それより、はやくここから逃げるんだよ」
「リュートは、どうしてこんなところにいるのよ」
「……それは……」
リュウトが口ごもっていると、奥からリュウトと同じくクマの皮を被った少年がやってきた。
「何をやってるんだ? あ! リュート、その人らを罠から解いたのか」
本物のリュウトは叫んだ。
「ラミエルたち、逃げろ!」
「わ、わかった! リュートもはやくこんなところから抜け出しなさいよー!」
「ぞなもし!」
ラミエルとゾナゴンは全速力で走って逃げようとした。
しかし、走っている途中で、よからぬ企みを思い付いてしまった。
「ねえ、ゾナゴン」
「ラミエル、お前もぞな?」
「やっぱりさあ、見るな見るなと言われると……」
「見たくなっちゃうのが人の性ぞなね」
「まあ、あんたは人じゃないけど」
「森神様ってどんな姿をしているぞなかね~。気になってしまうぞな」
「ちょっとだけなら、いいわよね?」
ラミエルたちはクマの少年とリュウトが洞窟の奥へ行ってしまったのを確認した後、『森神様』を一目見ようと、身を隠しながら洞窟の奥へと進んでいった。
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